ムースでお願いします。




とりあえず、母さんと一緒に家へ帰った。高杉も道連れ。
ああ、可哀想に。母さん面食いだから、きっと高杉も気に入っちゃったんだよね。

にこにこと笑いながら母さんは私たちに出すお茶の準備をしていた。
空は、友達と遊んでいるらしく今は家にいない。
友達ってか、彼女?

忙しそうに手を動かす母さんの顔は、もうそりゃあ美人で超笑顔だった。
見た目は二十代前半それなのに、もう銀八よりも十歳も二十歳も年上なんだ。
ああ、世の中っておかしいな。あ、あとで銀八にメールしとかないと。

「ごめん…、母さん非常識な人だから」
「まあ、お前の母ちゃんだもんな」
「なぁに、それ!どういうことですかァ!?」

それは私が非常識だから、母さんも非常識。みたいな言い方じゃないかァ!
仮に私が非常識だとしても、母さんほどではないよ。母さんほどでは!
だって、私は目の前にすっごいかっこくぃい男子高生がいたからといって、家に連れて帰ったりはしませんからね。

「ごめんね、高杉くん。この子いっつも迷惑かけてるでしょ?バカな子でねぇ…。なんかあったら殴ったり蹴ったりしてもいいから。丈夫だからこの子」

いや、殴ったり蹴ったりされてますし。
バカな子、とかアンタに言われたくないですし。
丈夫だから蹴ってもいいとかそんなの理由になりませんからね。

「いきなり転校する、だなんて言い出してね。まったく本当に急な子なんだから……。どうしても、って言うからやむを得ず許可を出したんだけど。楽しそうでよかったわ。高杉くんみたいないい子と友達になれたみたいだし」

母さん!?電話で説明したよね。変な奴に色々言われて転校しなきゃいけなくなった。って。
母さんもはじめは反対してたけど、「イケメン多いらしいよ」って言ったらもうそりゃ即答という言葉がぴったりなくらい早く「転校の手続きしておくわねー」なんて言っちゃって。
だからどうしても、だなんて言ってないしやむを得ず許可を出してもいません。
てか、どこをどう見たら楽しそうなんですか。えぇ?
高杉くんみたいないい子って…。悪魔のようなこいつが、いい子?母さん、そのいい子ってどういう意味なのか、じっくり説明していただきたい。

「凛…?人が話してるときに携帯いじくっちゃダメでしょ。誰にメールしてるの、イケメン?」
「なんでそうなるんだ。まあ、普通よかいいんじゃない?死んだ目してるけど」
「銀八か?」
「うん。母さんに会いたい、って言ってたから。「空くん似のお母様!?空くんの女バージョン!?見たい、会いたい!!」って言ってたから」
「ああ、言いそうだな。あいつ。ってか、そんなに空が好きだったのかよ」
「まあ、ね……」

『今、母さんが帰ってきてんだけど。空はさっさと帰ってこーい。先生も早く来た方がいいですよ。高杉くんがいるんで』

面倒だったから、空と銀八に一斉送信する。まあ、空と銀八だから大丈夫だろ。
その間に、高杉と母さんはぺちゃくちゃとおしゃべりを開始していた。
母さんはおしゃべりだから、高杉が思いっきり聞き役。私と話すときはうるせェ、とか言ってくるくせして母さんだからか、なーんも言わない。

『マジでか!?ちょ、今から猛スピードで行くから!高杉を帰しなさい!そこからは大人の花園だ!!』

メール一件の着信があって、携帯を開いてみれば銀八。内容が母さん並みに変だった。
なに考えてんの、この人。アホでしょ。マジで。
なに、大人の花園って。母さん一応結婚してるからね。いくらイケメン好きでも父さん一番だからね。

「高杉高杉」
「あァ?」
「これこれ。見て」

銀八から着たメールを見せてやれば、高杉は「どういう意味だ、そりゃあ」と少し顔を歪めて言った。
家の外でどんがらがっしゃーん!なんて壮大な音がして、母さんが「あら、なぁに!?」って言ってるけど、私はもう呆れてた。
ああ、来たな。