「おかーーさまァァァァ!!」 「ちょっ、インターホンくらい押せバカ田!」 「だぁれが、バカ田だ、誰が!いいじゃねーか、俺と空くんの仲なんだし」 「どういう仲だよ。てか、そこ普通私じゃない?今日空いないからね」 「なにィ!?」
空がそんなに好きか。ホモか、BLか。 勝手に靴を脱いで勝手にズカズカと人の家の中に入ってくる教師がどこにいるんだ、ったく。 がちゃり、と扉を開ければゲームに熱中する高杉とそれを楽しそうに見ている母さんがいた。
「え、写真で見るより数十倍綺麗なんだけど」 「でも、先生より十歳も二十歳も年上なんだよ?」 「いいよ、年上でも。俺はどんなお母さんでも受け止めます!」 「なにをする気だ。結婚?母さんだよ、母さん。母さんは結婚して子供もいんの!ムリ、結婚とか交際とか」
…待てよ。交際はやるかもしれない。あいつなら。 高杉から視線を外しガミガミと言い合う私たちの方へ視線を移した母さんは、キラキラと顔を輝かせながら私たちの方へやってきた。
「あらあら、この人が凛の先生ェ!?いつも凛がお世話になってます」 「いえいえ、こちらこそお世話になってますぅ。凛さんはいつもみんなから慕われているんですよー」
ねーよ、慕われてなんか。むしろ貶されてるわ。ぼろ雑巾のように。 なんでさん付けなんだ気持ち悪ィ
「高杉!てめェ、帰れよ。いつまで水城の家いるつもりだ!」 「そういうてめェは何しに来たんだよ」 「家庭訪問だよ、家庭訪問」 「嘘つくな、この変態甘党教師が」 「凛、先生に変態とか甘党とか教師とか言っちゃダメでしょ!」 「お母さん、先生って言ったのに教師って言っちゃいけないって矛盾してますよ」
「あ、先生。どうぞお座り下さい」そう言って母さんは銀八にお茶を出した。私と高杉はと言うとお菓子を食べながらゲームをやっていた。 それを見た母さんが「凛、座り方が汚らしい。食べ方も汚らしい。高杉くんに嫌われちゃうわよ」いいよ、別に嫌われても。…あ、よくねーや。
「高杉くん、ごめんねわざわざ家まで来てもらって。もう外暗いから凛、送っていきなさい」 「へーへー」 「お邪魔しましたァ。さっさと帰れ銀八」 「んだと、てめぇ」
ゲーム機の電源を切って、高杉を玄関まで送り出した。 玄関までは母さんも来てて、なにやら大きな袋を持っていた。
「これ、つまらないものだけど。凛がお世話になってるお礼。高杉くん、凛は乱暴で男っぽい彼女だけど、これからもよくしてやってね」 「かの…っ、はァ!?」 「じゃあ、またいつでも来てね」
パタンとしまった扉の向こう側ではきっと母さんがルンルンでいるんだろう。 銀八が帰るのにも時間がかかりそうだし、暇つぶしに高杉と外ぶらぶらするのも悪くないな。
「お前の母ちゃん、笑えるなァ」 「だぁーってろ。私だって恥ずかしいんだよ…、変な発言が多すぎるあの人は」 「お前には勿体無い彼氏だよなァ、俺ァ」 「そうそう、かれ…違うゥウ!アンタも悪ノリすんな!」 「顔赤いぜ?」 「〜〜ッ、このチビ杉ィィィ!」 「死ね」
顔が赤いのは誰のせいだと思ってんだ、こんちきしょー。 母さんに言われたことが、嬉しくて、でも私は彼女じゃないって現実を突きつけられたカンジがして、すこし寂しかった。
「そういえば、母さんに何貰ったの?」 「ゲーム」 「んな、高価なもん貰ったのかァ!うらやまぁぁ…」 「お前ンちだって一杯あっただろォが」 「あれ、全部空の」
それだけ言って、先に歩いていってしまう高杉。 高杉のとなりに追いつくように小走りで行ったら、
ぽん、と頭の上に手を乗せられてぐしゃぐしゃにされる髪の毛。
「な、にすんだァ!」 「お前が俺を送ってってこんな暗い道一人で帰ンのかァ?」 「そうだけど、それが?」 「危ねェだろ。お前だって一応女なんだからな」 「…え?」
危ない?もしかして、だけど…心配してくれてんのかな? だとしたら嬉しい。心の中ではバカみたいに喜んじまう。
「じゃあな、水城」
どくん、と心臓が跳ね上がった。 去り際に笑った高杉の顔がどうしようもなくかっこよく見えたから。
いつの間に私はこんなに高杉が好きになっていたんだろう。
|