1.「突き付けられた現実」

桜の花びらが舞う季節。
真新しい制服を着て、入学式と書かれた看板が立てかけてある校門を潜る。
「海南大附属高校。」
バスケットで一躍有名なこの高校に俺は入学した。

入学式は滞りなく終了し、クラスに分かれてHRが行われる。
「部活に入部を希望するものは、来週の月曜までに提出するように」担任の言葉と共に前から用紙が回され、それを1枚取ると前にならって自分も後ろの席へと回した。
入部届を一目した後、ペンケースからボールペンを1本取り出すと迷いなく記入していく。
“バスケットボール部 1−A 神宗一郎”
俺はこの時思ってもいなかった。
これから突き付けられるであろう現実に。

***

数日後、1年生の一斉入部の日になる。
初日にすることはどこの部でも決まっていて、まずは監督や先輩達への自己紹介からだった。
監督の前に一列に並びいよいよ自分の番がやってくる。
他の人に倣って名前と中学の時のポジションを言った瞬間、監督の顔が一瞬曇ったのを俺は見逃さなかった。

それからだ。走り込みをしても後ろから来た奴に抜かされ、ポジション練習をしていれば先輩の牧さんや高砂さんに毎日のように吹き飛ばされる日々が続いた。
そんなある日。その様子を見かねてか練習後監督に呼び出され「お前にセンターは無理だ」と一言と言われたのだ。
正直なんでそんなこと言うんだよと監督に言いたくなった。
けどそれを言わなかったのは、本当は自分でも分かっていたから。
毎日の練習で痣や生傷が増えていき、中学で出来ていたことが海南に来てから何もできていない。
センターの控えをしていた高砂さんの相手にもならない自分がセンターなど出来るはずないと。
だけどそれを認めてしまったらバスケから逃げてしまいたくなりそうで絶対に嫌だった。
大好きだから逃げたくない、大好きだから続けていたかった。

監督が去って暫くした後、部室からコートへと向かう。
すると、アウトサイドシュートの練習をしている先輩の宮益さんとマネジャーの名字先輩の姿があった。
「はい!ラスト1本だよ!!決めていこ!」
名字先輩が声を掛けると宮さんにボールをパスした。

俺はその姿を黙ってみていた。
宮さんは名字先輩にボールを受け取ると慣れた手付きでボールを放つ。
すると俺が見ていることに気づいたのか、名字先輩が声を掛けてきた。
「神くんどうしたの?こんな時間まで」
「・・・ちょっと監督に呼び出されまして」
俺の返答を聞いた名字先輩は、俺の顔をジッと見た。
名字先輩は、何かに気づいたのか少し考えて言葉を発そうとした瞬間

「よし!最後もちゃんと決めたしこれで終わり!ありがとうな名字」
最後のシュートを決めてゴーグルを外しながら宮さんがこちらに向かって来た為、何を言おうとしたのか聞くことが出来なかった。
「宮!お疲れ様!」
「お疲れ様です。宮さん」
「あれ?神、どうしたのこんな時間に」
俺が宮さんの言葉に返事をしようとした時「ほら宮!電車の時間あるから急がないと!」
名字先輩が遮るように宮さんへそう言ったので、宮さんは慌てて片づけを始める。
宮さんに続いて名字先輩も片づけを手伝おうと部室に向って歩き出した時、一度俺の方へ振り向いて小さくウインクをした。

たぶんだけど、俺が監督に呼び出されたことを言わないで済むようにしてくれたんだと思う。
名字先輩の優しさに感謝しつつ「俺も手伝います!」と声を掛けて片づけ始めた。

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