「よう!アンタ、バイクは乗れるか!?」
ユークトバニアの宣戦布告から暫し経った休日の朝、食事を終えたサンダーヘッドは自室で読みかけの本を開いた。
その瞬間、けたたましいノックの音と共に毎日嫌になる程聞いている男の声が聞こえてきた。
「なぁ!いるのか、いないのか!?バイク乗れんのか!?乗れねぇのか!?」
サンダーヘッドはイラつきながら彼が去るのを待った。
だが、ノックの音も声も止むことはなく、去る気配もない。
「うるさいぞ君は!」
痺れを切らし、ドアに向かって怒鳴ってしまった。
「お!ちゃんといるじゃねーの!バイクに乗れないって言わないとこを見ると、乗れるんだな!」
「何を勝手なことを!」
サンダーヘッドは開いた読みかけの本を閉じ、ドアへと向かい…
鍵を外し、
「だいたい君は何故いつもいつも私の邪魔を――――」
ドアを開けてしまった。
「サンダーヘッド捕まえた!」
「なっ!?」
ガシッと首に腕を回され、サンダーヘッドは彼に“捕獲”された。
朝から激しいノックと元気な声でサンダーヘッドをイラつかせる男は、チョッパーことアルヴィン・H・ダヴェンポートだ。
「よし!今日一日、オイラに付き合え!」
「な、何を言っているんだ、君はっ!!」
サンダーヘッドは、がっしりと首に回されたチョッパーの腕から離れようともがくが…。毎日のように操縦幹を握っているチョッパーの逞しい腕はびくともしない。
「バイクでよ、基地からちょっと離れたビーチに行こうぜ!晴れた日にまで丸一日読書してたら、もやしみたいになっちゃうぞー」
チョッパーはサンダーヘッドを捕獲したまま廊下を歩き始めた。
サンダーヘッドが連れてこられたのは、C格納庫の裏だった。
そこは簡素な屋根があり、バイクが数台並んでいた。
おそらくバイク好きの者達が勝手に駐車場に使っているのだろう。
「こんなところにバイクを置いてるのか。個人の駐車場を使えばいいだろう」
「ん〜、あっちは駐車場で、こっちは秘密基地なんだよなー」
また子供のようなことを…と、チョッパーの答えにサンダーヘッドは顔をしかめた。
並んでいる派手なバイクを、呆れ顔で一つ一つ瞳に映していく。
一際目を引く、大きくて派手なバイクをチョッパーは弄っている。
どうやらこれが彼のバイクらしい。
黒のベースに炎をイメージしたデザインがペイントされている。
普段チョッパーが飛行時に被っているヘルメットのデザインと同じようである。
彼の趣味、好み…いや、こだわりなのだろう。
「よし!完璧!今日も絶好調みたいだな!お前、これに乗れよ」
チョッパーは笑顔でそう言うと、バイクの鍵をサンダーヘッドへと軽く投げた。
「私が?これに?冗談はよしてくれないか」
サンダーヘッドの眉間のシワがぐっと深くなった。
「オイラのマシンはすげぇぞー!で、オイラはこっちに乗るからよ」
そう言って、彼は隣に停めてある黒いバイクのエンジンをかけた。
「ブービーのだ」
「っ、」
“ブービー”新しい隊長の名を聞いた瞬間、サンダーヘッドの指先がピクリと動いた。
ブービーことブレイズは実家に用事があると言って2日程の休暇を取っていた。
その間、ブレイズのバイクはチョッパーが管理を任されているのだろう。
「よーし、行くぞ!」
チョッパーはバイクに跨がると、一回だけエンジンを吹かし、この“秘密基地”を後にした。
「…………まったく」
だいぶ強引な彼の行動に溜め息をつきながら、サンダーヘッドもヘルメットを被ってエンジンをかけた。
チョッパーの後を追う。
生暖かい南国の風が、ワイシャツの襟首から入り、袖から抜けていく。
バイクを走らせながら見る海岸はまた違う表情を見せてくれる。
さざ波の音はバイクの音で聞こえないが、キラキラと水面から誘うように光る反射光はどこか懐かしい。