簡単に島を一周できてしまう広さのこのサンド島は、半分以上が自然保護区である。
舗装された道路の終わりに近づくと、チョッパーは減速してバイクを停めた。
そして、「もうちょい歩くぜ」と言って金網を抜け、ずんずんと森を進んでいってしまった。
サンダーヘッドは仕方なく彼を追う。
生い茂った木々のお陰で森は涼しかった。
歩幅の広いチョッパーを見失わないようにと、彼の背中を見つめながら歩く。
長身の、がっしりとした体つき。
腕捲りをした腕は、左腕より右腕の方が僅に太いことがわかる。
操縦悍を握る、パイロットの腕だ。
「お!」
サンダーヘッドがぼーっとチョッパーの後ろ姿を眺めていると、彼は急に走り出した。
一瞬、見失うと思い、サンダーヘッドは慌てて後を追う。
少し走ると、木々の間から強い光が眼に刺さった。
目を細め、そして開く。
「っ、!!」
サンダーヘッドは瞳が映した光景に息を飲んだ。
目の前に広がっていたのは青い青い海と空だった。
こんな光景は見慣れているはずなのだが、この浜の海は一部エメラルドグリーンに染まり、青と緑がくっきりと分かれている。
その少し上に真っ直ぐ引かれた線が、彼らの命である水平線だった。
細かな、ふわふわした白い砂浜の上を、チョッパーが子どものように走り回っている。
そんなチョッパーの姿にハッと我に返り、美しい光景からチョッパーへと焦点を移すと、彼は裸足になって裾を捲り、ツナギを着崩していた。
「今日は休みだからな!命一杯遊ぶぞ!」
そう言って、ざぶざぶと海の中に入っていった。
サンダーヘッドはそんな彼に小さく溜め息をつき、砂浜に腰を下ろした。
(海水はベタつくから嫌だな…)
一人海で遊ぶ大柄の男を眺めながら、朝に読もうとした本を持ってくれば良かったと少し後悔していた。
「おーい!何やってんだよ!お前も来いってばー!」
「断る!私は海水が嫌いだ!」
穏やかなさざ波の中、二人の声が行き来する。
チョッパーは参ったなと頭を軽く掻く素振りをすると、何か思い付いたらしく、ツナギが濡れることも気にせずに潜った。
暫くして彼は水面から顔を出し、後ろ手に何か持ちながらサンダーヘッドに近づいてきた。
「海楽しいぜー。遊ぶと倍楽しいぞ」
「海水はベタつく」
「じゃあ、砂浜で追いかけっこする?バカップルみてぇに」
「断る」
「…こういう時な、女のコだったら綺麗な貝とか喜んでくれるんだけどなー」
「…貝?」
「あれ、興味あんのか?」
「…嫌いじゃない」
嫌いじゃない、そのサンダーヘッドの言葉にチョッパーは嬉しそうな顔をした。
「じゃ、目ぇ瞑れ!」
そう言われて、サンダーヘッドは仕方なく目を閉じる。
ベチョッ!
「っ!!」
胸に何か得体の知れないものが軽く投げつけられ、驚いてサンダーヘッドは目を開いた。
その得体の知れないものはぼとりと彼の股の間に落ちた。
サンダーヘッドの眼が映したのは、黒くてぬめぬめした…ナマコだった。
「なっ!?」
サンダーヘッドは驚いて飛び上がり、慌てて後退りする。
それを見てチョッパーは腹を抱えて笑っていた。
「おま、そんな驚くことねぇだろ!!っははははは!!」
もちろん、こんなに大笑いされてサンダーヘッドが黙っているわけはなかった。
真面目でプライドの高い彼は肩を怒らせ…。
「ダヴェ…………チョッパー!!」
そう叫んで海へと逃げようとしたチョッパーを捕まえ、取っ組み合いになった。