「だって、告白とかされてないし、デートだなんて思わないよ」
オロオロとしながらそんなことを言う。
第一、男と女が二人で出かけるだなんて、デート以外の何物でもないはずだ。
あまりの名前の鈍感さに、俺のライフは著しく減っていく。
俺のライフが回復したころには、もう夕方になっていた。
「海馬君大丈夫?」
心配そうに名前が覗きこんでくる。
「大丈夫だ、俺はこれしきでへこたれるようなヤワな男ではない」
安心したような笑顔を浮かべている名前に、夕日があたっている。
オレンジ色に染まっている景色のなかで、夕日よりも何よりも名前の笑顔は俺の目を釘付けにした。
メリーゴーランドの前で、二人して立ち止まる。
家族連れやカップルで賑わっている。
メリーゴーランドに乗っている若いカップルの男を見ながら、名前は口を開いた。
「お馬さんに乗ってると、やっぱり王子様っぽいよね」
うっとりと見入ってるその顔を見て、俺はいい考えがひらめいた。
これくらいやれば、いくら鈍感な名前であろうと俺の想いに気づくであろう作戦。
「名前、そこで見ていろ」
「え?」
キョトンとしている名前を残し、俺はメリーゴーランドに向かう。
先ほど乗っていた人々が降りてきたと同時に、俺も乗り込んだ。
やはり色はメルヘンチックに白だろう。
手頃な馬に乗ると同時に、音楽が流れ動き出した。
目をまん丸くしている名前に向かって、俺は叫ぶ。
「名前!愛している!」
遊園地中に響き渡るような大声で叫ぶ俺に、目をパチパチさせながら真っ赤になった頬を両手で隠す名前。
その仕草が、初々しくて愛らしい。
周りの人間が、信じられないといった顔で俺を見ていた。
いわゆるどん引きというやつだろう。
「フン、愚民共が!この俺の名前への愛の強さをとくと目に焼き付けるがいい!ワーハハハハハ!」
曲が終わり、メリーゴーランドから降りると、群がって見ていた人間達がサッと身を引き、道が開いた。
開いた道を歩き、名前の手を取る。
トマトのように真っ赤な顔をして、俺を見上げた。
「俺の気持ちは伝わったか?」
「…うん、王子様が迎えに来てくれたみたいで、ドキドキした」
「迎えに来てくれたみたいではない。迎えに来たのだ」
固唾を飲み、見守る群集の前で名前を抱き寄せる。
柔らかな頬に手を添え、口付ける。
そう、何度も何度も。
群集からの喝采があがり、俺達は唇を離し、見つめ合う。
大勢の人々から祝福されながら鈍感なお姫様を手に入れ、こうして思い出深い初デートは幕を閉じた。
fin