「あぁ、大変だ〜!おれの唇が名前ちゃんに狙われている〜!」
「えっ!?」
「でもウッカリ寝入っちまったから、避けられないかもしれない〜!」
「えっ…え?」
その声色は鈍感な名前でも分かるくらい芝居がかっていて、言い終わると顔を少し傾けてチラリとこちらを見上げてきた。
(こ、これは…なに?)
サンジの右手は相変わらず名前の腰を捕まえて離さないけれど、それ以外は先ほどと同じ居眠りのポーズ。
顔が意味ありげにこちらを向いていて、何か言いたげな瞳はそのままゆっくりと閉じられた。
(も、もしかして、これはわたしが“夜這い”しなきゃいけないの…?)
困惑して固まっていると、サンジの右手が名前の体躯に沿うようにスルリと落下した。
「きゃっ!」
「おっと、寝ぼけて手が勝手に〜」
大きくてハッキリとした寝言を言ったサンジは、楽しそうに名前の太ももを撫でた。
その手つきは驚くほど優しくゆっくりで、どこへ行くでもなく、ただ太ももを往復するだけだった。
「や…っ」
「あぁ、眠いなぁ〜、なんかビックリすることがあれば起きるんだけどなぁ〜」
「〜〜〜っ!」
瞳は閉じたままなのに、明らかに笑っている口元が今か今かと待ち望んでいる。
名前が迷っている間にもサンジの手はあちこちを撫でまわしていて、まるで引く気はないようだ。
普段、女性を困らせるようなことはしないサンジなのに、こんな時ばかり執拗だ。
(も〜〜〜っ!!)
そんなサンジにようやく観念した名前は、ぎこちない動きで身を乗り出した。
その動きを察知したサンジも、撫でる手を止めて待ち構えている。
先ほどの好奇心に満ちた胸の高鳴りとは違う、緊張と羞恥に顔が熱くなるのを感じながらも、名前はぎゅっと目を閉じた。
「ん…っ」
ひと思いに、と勢いをつけたせいで、唇には思った以上の衝撃があった。
その痛みに驚いて唇を離したが、サンジからは何のリアクションもない。
「惜しい、そこじゃない」
「えっ!?」
身動きもせずに自らの唇をトントンと指さしたサンジは、どうやらおかわりを要求しているらしい。
(あれ?わたし、今そこに…あれ?)
ここだよ、と言わんばかりに突き出された唇は、先ほど名前が口付けたと思っている場所だが、よく考えれば誰もその様子を目撃していない。
何故ならきつく目をつぶったからだ。
(もしかして、わたし…失敗した?)
いつもの柔らかさと違うなと思ったのは、勢いをつけ過ぎたせいではなかったのだ。
恥ずかしさで顔が熱くなってきたが、幸いサンジはまだ目をつぶっている。
今度は外すまいと慎重に顔を寄せるが、近付くほどに何故か息が上手く吸えない。
早く終わらせてしまいたい気持ちと、もう失敗できないという気持ちが入り混じって、更に呼吸が乱れる。
(っていうか、いつ目をつぶったいいの〜!!?)
結局、タイミングが掴めないまま唇に到達してしまったが、今度こそ命中したことを確認してそっと唇を離した。
――ちゅっ
ゆっくりと離したせいか、静かなキッチンに可愛らしい音が響いた。
そうして、ようやくサンジは満足したように身を起こした。
「よく出来ました」
「うぅ…いじわる…」
名前が諦めて体を預けると、サンジは楽しそうに肩を震わせた。
「おれは寝相がワリィもんでね」
2020/03/19
シエルさんより「甘々だけど意地悪なサンジくん」でした。
意地悪するサンジくんが思いつかなくて、なんかお仕置きというか、ただのセクハラみたいになってしまいました…
リクエストありがとうございました!
意地悪するサンジくんが思いつかなくて、なんかお仕置きというか、ただのセクハラみたいになってしまいました…
リクエストありがとうございました!