さよなら、平穏 [1/2]
宝くじ大当たりで一攫千金?
大口の契約成功で大出世?
泥棒を捕まえて表彰状?
曲がり角で運命の出会い?
いえいえ、そんなものは要りません。
私が欲しいのは、
平々凡々な日常です。
それなのに、何故でしょうね?
玄関を出たら非日常が転がっていたんです。
それはもう、庭のど真ん中にダイナミックに。
「も、もしも〜し…、大丈夫ですか〜…」
「……」
返事がない、ただの屍のようだ。
「って、屍だったら困るって!」
ひとりノリツッコミを終えた私は、とりあえず深呼吸をしてから現在の状況を整理した。
まずここは私の家で、私はこれから友達とお買い物に行くのだ。
社畜の数少ない夏休みを満喫するのである。
それなのに、家の前に広がる庭の中央に、堂々とうつ伏せで寝ていらっしゃる方がいた。
まるで、ほふく前進をしているようなポーズだったが、まさか自衛隊ごっこをしているのだろうか。
見覚えのないその人物は男の人のようで、季節感のないモコモコの帽子をかぶっていた。
「どうしよう…」
倒れている人なんて学校の朝礼でしか見たことがない。
無駄にある自然と静寂だけが取り柄のこんな田舎では、これだけで大事件だ。
とりあえず救急車を呼んだ方がいいのかな?
いや、その前に容体を確認してみよう。
そう思って近付いたら、今までウンともスンとも言わなかったモコモコ帽が微かに動いた。
「っ…」
「うぉっ!」
驚いて飛び退くとモコモコ帽に隠れていた顔が露わになった。
「おぉ!イケメン!」
こんな田舎ではお目にかかれないレベルの顔立ちだ!
もしかして芸能人か何かだろうか?
よく見れば手足もスラッ長いし、モデルだと言われてもなんの違和感もない。
そもそも、日本人じゃないのかもしれない。
鼻筋も通っていて高いし、彫も深い。
例えるならイギリス人。
そう考えれば、あの謎の形の顎ひげもジェントルに見えてくる。
「って、観察してる場合じゃないっ!」
よく見れば顔色はメチャクチャ悪いし、汗もダラダラだし、熱中症なんじゃないかな。
そりゃあ、こんな炎天下でそんな厚手のパーカーをお召しになっていれば倒れもするわ。
七分袖っぽいけど、いや長袖をまくってるだけかな?
どちらにしろ季節感はかい…
「む?」
黒と黄色のミツバチカラーのパーカーを眺めていて気付いた。
いや、気付きたくはなかった。
「……油性マジック?」
そうだ!それだ!きっとマジックで書いたんだ!
それかシールだよ、シール!
いやぁ、なんか腕にオシャンティな模様が描かれているから何かと思ったじゃない。
まったく!ビックリさせないでよ、心臓に悪い。
DEATHとかそんな不吉な…
「で、デス…?」
そういえば、彼の側に落ちている黒い棒のような物はなんだろう?
なんか凄い長い…彼の身長ぐらいあるんじゃないだろうか…
しかも、どこかのテレビで見たことあるような気がするのは、きっと思い過ごしだよね!
「刺青に刀だなんて、一体どこの任侠映画ですか〜!」
……。
ヤクザだ!!