Rachel

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窓際のカサブランカ [2/2]


「日吉が女の子の話するなんて珍しいね」

珍しいから、なんなんだ。
しかし、ここであからさまに否定するとかえって不自然かもしれない。

「別に…そんなんじゃない」
「そっか」

かと言って上手い返しも思いつかず、結局ただの負け惜しみのようになってしまった。
鳳の言葉に含みがあるように聞こえたのは、図星をつかれたからだということに日吉は気付いていなかった。

「じゃあ、これは昼休みに返す」
「あ、待って!日吉!」
「じゃあな」

居た堪れなくなった日吉は、そう吐き捨ててから鳳のクラスを後にした。

「昼休み、委員会なんだよなぁ…まぁいっか」

そんな呟きは、日吉の耳には届かなかった。

その後、約束通り昼休みに鳳のクラスへ向かっていると、途中で樺地に出会った。
樺地が校内で跡部と一緒じゃないなんて珍しいと思っていると、今日の部活動の変更が伝えられた。

「ミーティング?」
「はい、レギュラーと準レギュラーだけだそうです…」

夏の合宿の話だろうか。
今朝はあまり身の入った練習が出来なかったというのに、放課後もミーティングに時間を削られてしまうのかと肩を落とした。

「鳳には伝えたか?」
「今からです」
「じゃあ、オレが…」

――確か樺地のクラスだよね

どうせ今から行くのだから、と思った瞬間、何故か鳳の言葉が脳裏を過ぎった。

不自然に途切れた日吉の言葉を、樺地も不思議に思ったのだろう。
しかし鳳と違って悪気のない笑顔で詮索したりはしない。
そう言った点では、鳳よりも樺地に聞いた方がいいかもしれない。

「お前のクラスにいる…あの、やたら髪の長い…」
「……苗字さんですか?」
「あ、あぁ。その…いや、」
「?」

別に何かやましいことがある訳ではない。
ただ、あんなに早い時間に学校にいるなんて変な奴だな、と思っただけだ。

そんな日吉の心の中の言い訳を、樺地はなんとなく悟ってくれたらしい。

「教室には居ませんでした」
「そ、そうか…」
「そういえば、本を持っていました…」
「本?」

そういえば以前、樺地のクラスで見かけた時も一人で本を読んでいた。
今朝見たのは図書室のある校舎だし、階数も合っている。
あの俯き加減の不自然な動きは本をめくる動作だったのか。

「樺地」
「ウス」
「悪いが、これを鳳に返しておいてくれ」
「ウス」

樺地に辞書を託して、日吉は自分のクラスへと引き返した。

(そういえば、返していない本があったんだ)

そんな風に誤魔化しながら辿り着いた図書室には、数人の生徒が静かに本を読んでいた。
次に借りる本を探すフリをしながら、図書室をぐるりと一周したが、あの女生徒はいなかった。

(って、オレは何を探しているんだ…)

我に返った日吉は、かぶりを振ってからホラー本が置いてある棚へ向かった。
しかしそこで見たのは、ぽっかりと棚に穴があいた光景だった。
いつも借りている怪奇現象を纏めたシリーズものが、ごっそり無くなっているのだ。

まさか処分してしまったのかとカウンターに居る図書委員に聞くと、どうやら誰かに丸ごと借りられているらしい。
まさか、あんなマニアックな本を自分以外に読む人がいるなんて思わなかった。

「今週中には返ってくると思いますけど…どうします?」
「え、あぁ…処分していないならいい。返却を頼む」
「はい」

図書委員がカチカチとパソコンを操作する音を聞きながら、手持無沙汰になった日吉はふと窓際に目をやった。
おそらく今朝いたであろう辺りを探したが、もちろん何の痕跡もない。

鳳にはあんな風に否定したが、気にならないと言えば嘘になる。
それがただの好奇心か、はたまた別の何かなのか、判らないまま日吉は図書室を後にした。


2015/06/02


日吉くんだけ出会えないみたいな(笑)
ところで樺地って同級生にも敬語なのかな?
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