Rachel

topmainmemolinkclapmail

ナデシコを君に [2/2]


「音、外れたで」
「えっ!?」

一人だと思っていた屋上に、突然第三者の声がして名前は慌てて振り返った。
しかし、そこには誰もいなくて首を捻っていると、呆れた様なため息が頭上から聞こえた。

「上や、うえ」
「あ、ひ、光くんっ…!」

ようやく搭屋の上にその姿を見つけた時には、財前は名前を見下しながらフンと鼻で笑っていた。

「な、なんで、ここに?」
「お前のヘタクソな歌聞きに来たん」
「うそ…」

この屋上へ続く扉は錆びついていて、開けたら喧しい音がする。
いくら歌に集中していたとはいえ、名前よりも後にやって来たのなら、その音が聞こえたはずだ。
財前は名前が屋上へ来る前から、そこに居たのだ。

ということは、名前が一人で延々と何曲も歌っているのを全て聞いていたということで、恥ずかしさに顔に熱が集まるのを感じた。

「光くん部活は?」
「お前と同じでサボリや」
「わたしは…サボリじゃ、ないもん…」

なんとか絞り出した声は消え入りそうで、財前の反応が怖くて俯いた。
先生に指示されただけで、決して勝手に屋上へ来たわけではないが、自分から戻らないと誰も呼びに来ないのも事実だ。
いつまでもウジウジと悩んでいてはサボリも同然で、名前は自信を持って言い返せなかった。

「なんや、またイジメられたんか」
「ち、違うよ…」

別に誰かに何かを言われたわけじゃない。
お手洗いでの友人の会話もノリについていけない自分が悪いのであって、彼女たちは悪くない。
先生や先輩たちに注意やアドバイスは受けても、悪口や嫌味を言われたことはない。
何かを隠されたり、壊されたこともない。
無視をされたり、仲間外れにされたわけでもない。

そう、これはイジメなんかじゃない。
ただ自分がうまく馴染めないだけなのだ。

そう心の中で言い聞かせても、財前の顔を見ることは出来なくて、ただひたすら足元だけを見ていた。
すると、そこにムリヤリ白いものが侵入してきた。

「え?」
「ほれ」

驚きでようやく顔を上げると、いつもと同じ無表情の財前がムリヤリ名前に白い紙を押し付けてきた。
訳も分からずに受け取ると、見覚えのある五線譜が引いてあった。

「楽譜?」
「やる」
「えっ?」
「ほな」
「あ、ちょっ…!」

結局、財前は何の説明もせず、名前の制止も無視してそのまま屋上を後にした。
出会った頃から口数も少なくぶっきら棒で何を考えているか分からない財前だったが、今日は殊更ひどかった。

ひとり取り残された名前は、仕方なく楽譜に目を通してみたが、聞いたことのない曲のようだった。

(なんだろう…クラシック、じゃないよね…?)

鼻歌に乗せて音符を追っていくと、明るく跳ねるようなメロディでテンポも少し速めのポップスのようだ。

(流行ってる曲なのかな?)

普段あまりテレビなどを見ない名前は流行の曲など知らなかった。
それが周りに馴染めない原因の一端なのだが、まさか財前はこういうのも少しは聞けと言いたかったのだろうか。
財前なりの気遣いなのかもしれないが、どうしていいか分からずに思わずため息が出た。

「どうしよう…」

均等に並んだ五線譜はパソコンで作ったらしく、その上から手書きで歌詞が書き込まれている。
それは上手くいかない日常を描いた詩で、まるで今の自分のように感じた名前は、財前のまさかの皮肉に肩を落とした。

「部活、戻らなきゃ…」

人間関係で頭がいっぱいになった名前は、どこか見覚えのある手書きの文字に気付かなかった。


2015/04/08

関西弁むずかしすぎ…orz
関西の方がいらっしゃったら、どうぞ遠慮なく突っ込んでくださいm(__)m
←prev * back * next→
/top/index
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -