スウィート・マジック [2/3]
対照的な二人に苦笑していると、★★が●●に耳打ちをした。
「今度こそサンジに美味しいもの食べさせてあげようよ」
「!」
その小さな声がサンジの耳に届くことはなく、突然やる気なった●●を不思議に思いながらも三人でキッチンに立った。
二人はバレンタインの時にも使ったと思われるピンクと水色の色違いのエプロンをしている。
先ほどまでサンジが握っていた木べらを★★に渡し、鍋を火にかけた。
「じゃあ●●ちゃん、これを入れてくれ」
用意したボウルにはマシュマロがたくさん入っていて、受け取った●●は美味しそう、と音もなく言った。
(●●ちゃんはマシュマロっぽいな…)
真っ白でフワフワで柔らかくて甘い、そんなマシュマロを●●はせっせと鍋に投入していく。
「★★は焦がすなよ」
「うん」
●●が入れるマシュマロを★★が牛乳の海に転がすと、マシュマロは熱を帯びて小さく溶けてゆく。
そんな二人の共同作業を微笑ましく見守っていたら、チマチマとマシュマロを投入する●●に★★が焦れたようだ。
「一気に入れたほうが早いんじゃない?」
その言葉に納得したのか●●は鍋の上でボウルを傾けた、その瞬間。
――バシャーン!
「うわっ!」
「っ…!」
「えっ!?」
気づいた時には、鍋の周りに飛び散った牛乳と零れたマシュマロが散らばっていた。
二人ともボウルと木べらを持ったまま固まっていて、遠くからナミの声が聞こえた。
「ちょっとー、何やってんのー?」
「だ、大丈夫か!?ヤケドしてねぇか!?」
「う、うん…」
「……」
我に返ったサンジが火を止めると、二人は項垂れた。
幸いにも、ほとんど鍋の向こう側へ飛び散った為、★★と●●はエプロンに白い水玉模様が出来ただけだった。
「だ、大丈夫、まだ材料はあるから…とりあえず●●ちゃん、一気に入れると危ねぇから、そーっとね」
今にも泣きだしそうな●●はコクリと頷いた。
鍋を隣のコンロに移すと中身が半分くらいに減っていて、再び牛乳とマシュマロを用意したサンジは、飛び散ったものを片付けながら二人の作業を見つめた。
(バレンタインの時もこんな感じだったのか…)
ナミとロビンの苦労を想像して、三倍返しくらいでは済まなさそうだと実感した。
サンジがコンロを片付け終わった頃に、マシュマロはようやく牛乳と溶け合ったようだ。
「それじゃ●●ちゃん、次はこれを入れて」
そういって今度はココアを手渡した。
先ほどの失敗を活かしてか、やけに慎重に入れる二人の表情は真剣そのもの。
流石にココアは一気に入れても飛び散らないとは思うが、二人とも至って真面目なようなのでサンジは口を噤んだ。
そのまま、次は小麦粉を…と準備をしていると、★★が調味料が並べてある棚に手を伸ばした。
「って、こら!何してんだ、★★!」
「え?これ入れようと思って」
慌てて★★の手にしたものを確認すると、そこには「PEPPER」と書かれていた。
「コショウじゃねぇか!」
「だってココアと色が似てるから」
「似てりゃいーってもんじゃねぇだろ!」
想像の斜め上をいく無謀さにサンジが声を荒げると、★★はうーん、と唸ってからコショウを握りしめた。
「ダメなの?」
★★は必殺上目遣いを繰り出した!
「ぐはっ…!」
大ダメージをくらったサンジは、激しいめまいを感じた。
明らかにおかしいことを言っているのに、★★の攻撃で思考がままならない。