Rachel

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スウィート・マジック [1/3]


ホワイトデー。
それは勝者だけが味わうことのできる祝宴。
命がけの聖戦を勝ち抜いた者へ贈られる祝福。

しかし、それは同時に試練でもあった。
乙女から課せられた使命なのである。


* スウィート・マジック *


砂糖、小麦粉、卵、生クリーム、さまざまなフルーツ。
甘い香りが漂うキッチンに楽しそうな鼻歌が響く。

(2時半か…)

チラリと時計を見上げてから、サンジはボウルの中身を型へ流し込んだ。
これなら、なんとかおやつの時間までに焼きあがるだろうと生地をならしていると、カウンターの向こう側に黒い三角の耳が二つ覗いていた。

「サンジ、ごちそうさま」
「あぁ、そこ置いといてくれ」

そう言って顔を現した★★は空になったマグカップを差し出したが、ちょうど手の離せなかったサンジは顎でカウンターを指した。

「なに作ってるの?」
「ん?ロールケーキだ」

そう答えると、★★は分かり易く耳をピンッと立てて、サンジは思わず笑みがこぼれた。

「でも今日はたくさん作ってるね。なんで?」
「え?あー…、それは…」

お前らの為だよ、とは言えず口ごもっていると、★★の背後にいつの間にかナミがいた。

「あら、もしかしてそれがお返し?」
「お返し?」
「もちろん、三倍返しよね?」
「もちろんです」

そう一礼しながらも、顔は苦笑いだった。

というのも、実はサンジはナミのチョコレートは食べていないのだ。
何故ならサンジが気を失っているうちに、ほとんどをルフィに食べられてしまったからだ。
あの後、一週間も寝込んだのは記憶に新しい。

何も貰っていないのにも関わらず、“お返し”というのはおかしな話ではあるが。
だからと言ってナミに何も用意していないわけはなく、迷惑をかけたお詫びも込めて作っている最中だ。

「あと、どれくらい?」
「30分もありゃ出来るから、まぁ待ってろ」

待ちきれなさそうな★★を制してから、生地をオーブンに入れスイッチを押したところで、キッチンの扉が開いた。
そこにはロビンと、その後ろから顔を覗かせる●●がいた。

「いい匂いね」
「ちゃんと三倍返ししてくれるって」
「あぁ、今日はホワイトデーだものね」

その言葉に、★★と●●は二人そろって首を傾けた。

「ホワイトデー?」
「バレンタインのお返しをする日よ」

ロビンが簡単に説明をすると二人はへーと納得したようだが、サンジはやっぱり知らなかったか…と口元を緩ませながら鍋を手に取った。

「★★と●●ちゃんには特別なの用意してるからな」

あれだけの大傑作をもらったのだから、それ相応のお返しをしなければ、と意気込んで鍋に牛乳を注いだサンジだったが、二人は浮かない顔で目を合わせた。

「でも、ボクたちサンジを苦しめただけで…」

★★が言葉を詰まらせると、●●が涙を滲ませた。
先ほどまでピンと立っていた耳も尻尾も垂れて、二人とも俯いた。

「二人は悪くねぇよ!あれぐらいで倒れたおれが悪いんだ…」

そうだ、見た目の破壊力に反して味は抜群だったのだ。
それなのに、チョコレートとエビと生クリームとシジミとメープルシロップとタバスコとシナモンとマスタードと以下略の化学反応に耐えられなったサンジの軟弱な胃袋が悪いのだ。

「そうだ、一緒にやるか?」

そう言って木べらを見せると、★★は再び耳を立てた。
やる!と即答した★★とは裏腹に、●●は怖気付いたようにボードを抱えた。
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