飲み込んだ甘い秘密 [1/3]
フランキーが甲板に植えたもみの木を見て、この季節がやってきたのだと実感した。
「なにしてんだ?リル」
“サンタさんにお手紙書くの”
そう記してピンク色の便箋を取り出すと、チョッパーも嬉しそうに倣った。
良く晴れた空の下、船首楼に出したテーブルにて二人、肩を並べてペンを握った。
――サンタさんへ
そんな去年と同じ書き出しに、リルは思わず苦笑した。
今思えば、あんなムチャなお願いを聞いてくれたサンタには感謝してもしきれない。
しかも一つや二つではなかった。
まさに一生分のプレゼントを貰った気分だ。
そう思うと、今年も貰うのはなんだか気が引けて、感謝の言葉を綴ったあとにプレゼントの辞退を書き加えた。
「なにしてんだい?プリンセス」
最後に自分の名前を記したところで、テーブルに温かいココアが置かれた。
振り返るとサンジがいて、リルは慌てて手紙を折り畳んだ。
“サンタさんにお手紙書いたの”
「え?」
「おれも書いたぞ!」
「へ、へぇ〜…どんなモンお願いしたんだ?」
何気なく放たれた一言だったが、リルは徐々に心拍数が上がるのを感じた。
だって書いてあるのは欲しいものじゃない。
「おれは新しい医学書って書いたんだ!」
「おめぇじゃねぇよ」
「サンジも手紙書くか?」
「書かねぇよ」
どうしようかと迷っていると、都合よくチョッパーがサンジの気を引いてくれた。
もちろんチョッパーにそんな意図はないだろうけど、リルはチャンスと言わんばかりに部屋へ逃げ込んで、そのまま手紙を枕の下に隠した。
(明日、忘れないようにしなくちゃ)
そのまま寝たら、サンタは確実に手紙を見ることができないだろう。
リルは当日、手紙を置く場所を指で差して確認してから部屋を出た。
プレゼントは要らないなんて、サンタには無駄足を踏ませてしまうが仕方ない。
でも、去年のお礼は言いたかったので、手紙だけ受け取ってもらおう。
そう思うだけでも胸が高鳴り、顔を綻ばせながらリルは当日を迎えた。
「そういえば、リルちゃん去年は何お願いしたんだい?」
リルは思わず口籠ってしまった。
何故、そんなことを聞くのだろうか。
チラリと見上げると、サンジは期待の眼差しでこちらの言葉を待っていた。
まさか去年のとんでもないプレゼントに勘付いているのだろうか。
そう思うと顔に熱が集中したが、まさか本人を目の前にして言えるはずもなく、リルは誤魔化すように人差し指を立てた。
“ナイショっ!”
不審に思われただろうか。
しかし、それを確認する事もなく、リルは逃げるように駆け出した。
(怒ったかなぁ…)
二度もはぐらかしたことに罪悪感を覚えながら甲板へ向かうと、皆がもみの木に飾り付けをしており、気を紛らわすようにリルも手伝った。
「あれ?飾りこれだけか?」
「確か、壊れたのをサンジが買い足してたんだよな」
「リル、ちょっとサンジ呼んできてくれ」
いつもだったら二つ返事で了承している所だが、先ほど逃げてきたばかりなので大変気まずい。
でも、いつの間にか船内でリルに小さな頼みごとをするのがお決まりのようになってしまった為、無下に断ることもできない。
しぶしぶキッチンを覗くと、そこにはロビンだけしか居なかった。
しかしサンジの姿はなく、キョロキョロと辺りを見回していると、何も言っていないのにロビンは察してくれたようだ。
「サンジならイチゴを買い忘れた、とか言って出かけていったわよ?」
リルはホッとした反面、弱ってしまった。
新しい飾りはどこ仕舞ってあるのだろうか。
「どうしたの?」
“ツリーの飾りが足りなくて…”
「あぁ、それなら倉庫じゃないかしら?」
その言葉に、リルはひとり倉庫へと向かった。