Rachel

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あれが噂の天然タラシ [1/3]


末っ子が人魚を釣ったらしい。

そんな噂を聞きつけたサッチは、夕飯の支度を部下たちに任せて医務室へと足を運んだ。
途中で会ったマルコに嫌そうな顔をされたが、そんなことを気にするサッチではない。

意気揚々と医務室へ入ると、人魚だと思っていた少女に足が生えていた。
驚いたマルコが思わずその足を掴んだら、美人ナースのクリスティーナに一喝された。

(いや、確かに女の子の足をいきなり鷲掴みにするのは良くないよ)

でも、白ひげ海賊団のナンバー2と謳われるマルコが、医務室を出るときに叩かれた手を寂しそうに擦っている姿を見たときには、少しだけ同情した。

そんな噂の人魚ちゃん、もとい足の生えた女の子は、ナースたちと風呂へ行ってしまったので、サッチは仕方なく食堂へと戻ることにした。
どうやら夕飯時のピークは過ぎたようで、人影もまばらな食堂で、最奥の厨房へ向かう。

「あー!サッチ隊長!どこ行ってたんですか!」
「ごめん、ごめーん」
「ゴメンじゃないっすよ!」
「大丈夫だ!お前らなら出来るって信じてたから!」
「ったく…」

隊員たちは呆れた顔をしていたが、食堂の状況を見れば滞りなく夕飯が済んだことは言うまでもない。
部下たちの成長を嬉しく思うのと同時に、自分がいなくても立派にこなす部下たちに寂しさも覚えたサッチだった。

「あれ?でも、結構残ってるな」
「あぁ、エース隊長がまだ来てないんすよ」
「え?エースが?」

見張りなど交代で食事をしている船員の分にしては多いと思ったら、船一の大食らいがまだ夕食を済ませてないらしい。
ご飯となれば、いの一番に飛んでくる末っ子が珍しいな、とサッチは食堂を見渡した。
今日だって仕込み中の食材を勝手に摘まんだり、おやつをせがんだりしてきたというのに。

「そういや、医務室にもいなかったしなぁ」

人魚に興味津々で、釣り上げた当の本人がいないことを忘れていた。
エースの性格なら、なんやかんやで付いてきそうなのに。

一体どうしたのだろうか?と首を捻っていると、カウンター越しに明るい声が響いた。

「サッチ隊長っ!2つお願いしまーす!」
「おっ!エミリーちゃん!はいよ!」

その声に釣られてトレイを二つ差し出すと、エミリーは嬉しそうに受け取った。
しかし、両手にトレイを持った割には、もう一人の姿が見えない。

「あれ、クリスティーナは?」
「船長のところに報告に行きましたよ」

ならば、何故2つも要るのだろうか?
ナースは基本的に交代制で、クリスティーナは新人のエミリーの教育係だから、いつも一緒に食事をするのだ。
クリスティーナが居ないのなら、1つで十分ではないか。

不思議に思っていると、エミリーの肩の向こうで青い瞳がこちらを覗いていた。

「あっ、人魚ちゃん!もう大丈夫なの?」
「っ…!」

エミリーの陰にスッポリと収まるくらい小さな体は、サッチの声に驚いたらしく震えてその背中に隠れた。

「ちょっとぉ、怯えさせないでくださいよぉ〜」
「ごめん、ごめんって」
「それから、人魚ちゃんじゃなくて、リルちゃんですから」
「へぇ〜、可愛い名前だね、さっきも言ったけど、おれはサッチ!よろしくな!」
「……」

サッチがカウンターから身を乗り出しても、リルは相変わらずエミリーの背中に隠れたまま、返事どころか姿すら見えない。
そんな様子を見かねてエミリーが助け舟を出した。

「どうやら、この子喋れないみたいなんです」
「え?そうなの!?」
「さ、食べよう?」

驚くサッチを尻目に、エミリーはリルを席へと促した。
その後を追って厨房を出ると、後ろから隊員の怒号が響いたが気にしない。
仲良く並んで座った二人の向かいに腰を下ろして、サッチはテーブルから身を乗り出した。
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