Rachel

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Trick or Sweet! [1/4]


ごきげんよう、麗しいお嬢さん。
このような闇夜にいかがされました?
気を付けないと、この辺りは妖魔が潜んでいますよ。

わたくしのように…


* Trick or Sweet! *


そこは薄暗い部屋だった。

周りを水槽に囲まれ、微かな水の音と静寂だけが響いている。
奥には小さな肢体が横たわっていて、動く気配はない。
一歩踏み出すと、床と革の靴がコツンと音を立てた。
男は銜えていたタバコを灰皿に押し付けて、足音を消して忍び寄る。

手の届く距離まで近寄ると、ベンチの上でスヤスヤと寝息を立てている少女がいた。
その可愛らしい寝顔に釣られて床に膝をつく。
すると、気配を感じ取ったのか、少女が身じろいで寝返りを打った。
それと同時に、その小さな手から何かがずり落ちる。
慌てて受け止めると、薄い本が男の手元に落ちてきた。
読書中に眠ってしまったのだろうか、開かれたままの本を閉じて、そっとベンチの上へ置いた。

少女の目は未だ閉じられたままで、目覚めたわけではないようだ。
先ほどまで横向きに眠っていた少女の顔は、今は上を向いている。
長いフワフワの髪に隠れていた、白いノド元が露わになっていた。
思わず吸い付きたくなる衝動に駆られながら、少女の目に掛った前髪を退けた。

部屋の明りはついておらず、外光が差し込んだ水槽がゆらゆらと揺らめいているだけだった。
屈折した微かな光が少女を照らし、透き通る肌をよりいっそう白く見せる。
まるで噛み付いてくれと言わんばかりに、こちらを向いている首元。

ついに我慢できなくなった男は、マントを翻し少女に覆いかぶさった。
そこへ唇を寄せると、どこか甘い香りがして男はうっとりと目を閉じた。
白く柔らかな肌はとても滑らかにすべり、男の唇を惑わす。
男は誘われるままに唇を開いて、白い肌へと吸い付いた。

「っ…」

柔らかな感触を楽しみながら、甘く痺れるような香りに酔いしれていると、そのノド元が微かに動いた。
目を覚めてしまったのか、と名残惜しく思いながらも、そっと唇を離した。
少女の顔を覗き込んでみると、これまた柔らかそうな唇が動いて、呻き声のような音が漏れた。

「リルちゃん?」

小さく呼びかけると、少女は薄く開いた瞼を寝ぼけ眼で擦っている。
どうやらまだ完全に覚醒していないらしい。
少女が状況を理解していないのをいいことに、男はまた首元に口付けた。

「っ!?」

先ほど吸い付いた痕に舌を這わせると、ヒュッと息を飲む音が聞こえた。
やっと意識がはっきりしてきたのか、少女はビクリと体を震わせた。
その反応に思わず笑みが零れた男は、まるで肉食獣のように舌なめずりをした。
そして、混乱している少女を尻目に、何度も首元へ口付ける。

少女は肩を竦ませて抵抗しようとするが、男の力の前ではあまり意味もない。
調子に乗って前歯を軽くノドへ当てると、少女の手足がバタバタと暴れ出した。

「…っ!」
「おっと、あぶねぇ」

暴れたせいでベンチからずり落ちそうになった身体を抱きとめると、少女は初めて男の顔をはっきりと捉えたようだ。
目尻に涙を滲ませながらも、驚いた顔で男を見つめている。
男が誰なのか認識しても、何故この状況に至ったのかまでは理解できていないようで、大きな瞳を瞬かせた。

男は予想通りの反応にほくそ笑みながらも、うやうやしく膝をついて、少女の震える指先に口付けた。

「麗しの乙女よ、今宵はその甘美な香りに誘われて、あなたの純潔を頂きに参りました」

そう言って顔を上げた男の口元には、ギラリと光る二つの牙があった。

それをもって、少女はいよいよ事態を把握したらしい。
わたわたと逃げ出そうとする、その体を抱き締めて、ノド元に牙を這わせる。
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