Rachel

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「どうしたんだ?」
「っ…」

見張り台から下りてきたチョッパーは屈託のない笑顔で近付いてきて、リルは慌ててボードを手に取った。

“忘れ物しちゃって…”
「忘れ物?どこにだ?」
“今日出掛けたところに…”
「なに忘れたんだ?大切なものなのか?」
「っ…」

まるで疑ってもいないチョッパーは真剣に話を聞いていて、リルは後ろめたい気持ちでいっぱいになった。
咄嗟に考えた言い訳は苦しいものばかりで、しどろもどろで言葉に詰まると、流石のチョッパーも不審に思ったようだ。

「こんな夜中に一人で危ないぞ」
「……」

これ以上うまい言い訳も思いつかず、明日にしよう、と心配してくれるチョッパーに心が痛んだ。
リルはどうしようも出来なくて、足元から伸びる影を見つめて立ち尽くしていると、突然それがもう一つ増えた。

「どうしたの?」
「あ、ロビンっ!」
「……っ」
「実はリルが…」

黙ったままのリルに代わりチョッパーが事情を説明すると、ロビンは何か物言いたげにこちらを見つめた。

あの無人島での一件からロビンは特に何も言わなかったが、リルの食事にも魚が出るようになったのには気付いているようだ。
だからなのか、昨日はリルに本を買ってきてくれて、少しは認められたのではないかと思っていた。

でも、今突き刺さる視線は鋭いもので、心の中を見透かされているようで恐ろしかった。
そもそもリルの苦しい言い訳を簡単に信じるとは思えない。
それなのにロビンはニッコリと微笑んだ。

「だったら、船医さんも一緒に探しに行ったらどうかしら?」
「おれが?」
「そう、だって歌姫さんの足だけで探すの大変でしょう?」
「そうだな!」
「その間の見張りは私が代わるわ」

その笑顔が本当にただの親切なのか、それとも全て分かった上での気遣いなのか、リルにはよく分からなかった。
どちらにしろ、ロビンが何も言わないでくれるのは、ありがたいことに変わりなかった。

結局、ロビンの真意は分からないまま、チョッパーの背中に乗って夜の街へ向かった。
いつの間にか日付も変わり、街は静まり返っていた。

「ここか?」

昼間に休憩をしたベンチまでやってくるとチョッパーが足を止めたので、リルは頷いて背中から降りた。

「それで、なに忘れたんだ?」
“ブレスレット”
「ブレスレット?そんなのしてたか?」
“今日サンジが買ってくれたの”
「へぇ〜、そっか」

もちろん、嘘だ。
ここへ来るまでの間、チョッパーの背中の上で必死に考えたのだ。
実際は、ボーっとしていたリルにサンジが買ってくれようとしたのを慌てて止めたのだ。

リルがありもしないブレスレットを探すフリをすると、チョッパーもベンチの下などを覗き込んで一緒に探してくれた。

(ごめんね…)

真剣に探すチョッパーに向かって心の中で呟いてから、リルはそっと後ずさった。
そして、チョッパーがリルに背を向けた瞬間に裏路地へと駆け込んだ。

「はぁ…はぁ…っ」

最初は足音を立てないようそっと歩いていたのが、いつの間にか低いヒールがコツコツと音を立てていた。
チョッパーは鼻が利くから早く離れないと見つかってしまう、と痛む足をなんとか動かした。

(えっと…どうしよう、どっちに…)

そもそもどこへ向かっているのかも分からなくて、リルは曲がり角に手をついた。

昼間のあれは幻だったのだろうか。
幻じゃなかったのなら、まだこの辺りに居るんじゃないか。

そんな風に勝手に期待して宛てもなくさ迷っていると、横道から急に何かが飛び出してきた。

「っ!?」

それは瞬く間にリルの体に絡みついて、バランスを崩して転びそうになると、優しく包み込まれた。
突然のことに大した抵抗も出来ずにいると、頭上から絞り出されたような呟きが響いた。

「やっと見つけた…」


それは、とても懐かしい響きだった。

2014/09/19
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