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今日リルが来ているのはゆったりとしたチュニックと七分袖の上着だった。
胸元にはリボンが、裾にはレースがついていて、とても可愛らしいデザインだった。
そんな可憐な装いなのに、サンジの手の中には何故かビーチサンダル。
しかも明らかにサイズが大きい。
「これは…?」
“ウソップが貸してくれたの”
「え?なんでウソップが?」
借りるにしても、ナミかロビンに借りればいいものを…サイズが合わなくてもウソップよりは可愛らしい靴を持っているはずだ。
というより、何故借りなければならないのか、夏島で靴は買わなかったのだろうか。
確かに船上でリルは裸足だが、しかし無人島に上陸する時には靴を履いていたはずだ。
サンジが首を捻っていると、リルはおずおずとボードを見せた。
“ナミが買ってくれたのは、どれも歩き辛くて…”
「なんで?サイズは合ってるだろ?」
“その、踵が高くて…”
せっかく買ってもらったけど、とリルは申し訳なさそうに項垂れた。
そういえば、ナミもロビンもヒールの高い靴ばかり履いているから、その感覚でリルの靴も選んでしまったのだろう。
そもそも人魚である彼女は靴を履く機会も、そんなになかったのかもしれない。
足に巻かれた包帯を見て一人納得したサンジは、とりあえずリルにビーチサンダルを履かせて立ち上がらせた。
そのまま手を引いて歩き出すと、リルは慌てたようにサンジの服の裾をつかんだ。
「ん?どうした?」
歩きながら振り返ると、リルは背後に見える高台を必死に指差していた。
「あぁ、そっちはあとにしよう」
「?」
「靴、買ってあげるよ」
そう言うと、リルは驚いて足を止めた。
「大丈夫、リルちゃんに似合う可愛い靴探してあげるよ」
仕方なくサンジも足を止め向き直ると、リルは困った顔で視線を泳がせるばかりで納得していないようだ。
「そう、じゃあこの街でずっとリルちゃんのこと抱っこして移動しなきゃならねぇなぁ」
「!?」
その瞬間、リルは目を見開いてぎょっと目を剥いた。
(そんなに驚かれると逆に傷つくなぁ…)
困ったなぁ、そんな靴じゃ危なくて歩かせられねぇしなぁ、とワザとらしくサンジが考え込む素振りを見せると、リルはあからさまに狼狽えた。
「どうする?抱っこする?それとも靴買う?」
「〜〜っ」
そう言って顔を覗き込むと、ついに観念したのかリルは大人しくサンジのあとに従った。
(おれとしては、抱っこでも良かったんだがなぁ…)
残念に思いながらも靴屋を探していたら、案外すぐに見つかった。
早速入店すると、リルを椅子へ座らせてサンジは棚に並ぶ靴を吟味し始めた。
ヒールの低いものを中心にサンダルやパンプスなどいくつか手にすると、奥からやってきた女性店員が声をかけてきた。
「プレゼントですか?」
「え、あ、あぁ」
「サンダルでしたら、こちらなんていかがですか?いま人気なんですよ?」
差し出されたピンヒールのサンダルを見て、この店員はサンジとリルが一緒に入店したのを見ていなかったのかと思い、やんわりと断った。
店員は残念そうに眉を下げながらも、綺麗ににっこりと笑った。
そのまま、いくつか選んだ靴を持って戻ると、リルは所在なげに足をブラブラと揺らしていた。
「サイズいくつだい?」
その足元に持ってきた靴を置くと、リルは首を傾げてから分からないと横に振った。
目算で選んだサイズを一足履かせてみたら、思ったよりもぶかぶかだった。
「これより小さいサイズは?」
「えーっと…」
いつの間にか背後にいた店員に話しかけると、リルの姿と足をみてやっと状況を理解したようだ。
サンジの持っている靴のサイズを見た店員は、困ったように視線を巡らせた。