「っ…!」
答えに詰まったリルは、ついに瞳からひとつ雫を零してしまい、流石に少し強く言い過ぎたかとイゾウも反省した。
「悪かったよ」
「っ…」
クシャクシャの紙を握り締めたまま、少女が零れる涙を拭おうとしたので、イゾウは手を伸ばしてそれを静止した。
「いくら島が近いと言っても、夜の海は危険だ」
着物の裾でそっと涙を拭いてやると、少女が顔を上げた。
しかし、イゾウと目が合うと恥ずかしそうに俯いてしまった。
(これが演技なら女優になれるな)
まだ疑惑が全て晴れたとも思えないが、これ以上押し問答をしても埒が明かないだろう。
真っ赤になった頬の涙を全て拭ったところで、背後からとある気配が近付いてきた。
「あれ?イゾウ?何してんだ?」
「エース…お前、その手に持ってるものはなんだ」
「え?あー、ちょっと小腹が空いちまって…」
少し前に10人前の夕食を食べたばかりのエースの腕の中には、数個のパンが抱えられていた。
またキッチンに忍び込んだのかとイゾウが呆れていると、エースの頬が綻んだ。
イゾウが振り返ったことで、リルの姿が見えたのだろう。
「おー!お前どうしたんだ?イゾウに苛められたのか?」
「おいおい、人聞きの悪い…」
冗談めかして言ったエースは嬉しそうに少女に歩み寄ったが、すぐにエースの顔色が変わった。
少しだけとはいえ、間近で見れば目の周りの赤みに流石のエースも気付いたようだ。
やれやれ、面倒なのに見つかった、と呑気にため息をついていると、エースがイゾウに詰め寄ってきた。
「おい、イゾウが泣かせたのか」
「そうだと言ったら?」
「お前っ…!!」
エースは眉間にシワを寄せて鬼の形相で凄みをきかせてきたが、正直腕の中の大量のパンがそれを台無しにしている。
からかってやろうと思っていたイゾウは、そんな間抜けな姿にため息をついた。
「男の嫉妬は見苦しいぞ」
「はぁ?嫉妬?なんにだよ」
「は?」
いつも優雅な立ち振る舞いを意識していたイゾウも、思わずズッコケそうになった。
自分が釣り上げてしまったとはいえ、エースの彼女に対する態度が責任感だけとは思えなかった。
これにはサッチも全面的に同意していた。
(まさか、本当にただの天然…)
エースの鈍感っぷりに、イゾウもすっかり戦意を削がれてしまった。
「お前なぁ…」
「こんな時間に何を騒いでるんですか」
「あ、クリスティーナ」
「リルちゃん、こんなところに居たのね」
騒ぎを聞きつけたらしいクリスティーナが、エースの後ろでオロオロとしていたリルを見つけてホッと息を吐いた。
どうやら彼女を探していたらしい。
「突然いなくなったから心配したじゃない」
そっとその肩に手を置いて、子供に諭すように語り掛けるクリスティーナに、リルも悪いと思ったのか申し訳なさそうに頭を下げた。
流石、聖母さまだ、と感心していると、クリスティーナがリルの顔を覗き込んだ。
「どうしたの?ホームシックかしら?」
「エースが泣かしたんだ」
「お前だろーが!」
「そうか、じゃあ…」
責任を取って慰めるとしよう
(え…?)
(おいで?眠れないのなら、おれと腕の中でお眠り)
(あらあら、まぁまぁ)
(それとも、一緒に夜更かしするか?)
(???)
(今宵は月がよく見えるから、酒がまた格段に旨いぞ)
(って、待てコラあぁぁぁ!!)
(おいで?眠れないのなら、おれと腕の中でお眠り)
(あらあら、まぁまぁ)
(それとも、一緒に夜更かしするか?)
(???)
(今宵は月がよく見えるから、酒がまた格段に旨いぞ)
(って、待てコラあぁぁぁ!!)
2013/05/09
イゾウさん難しすぎる…orz
続くに違いない。
続くに違いない。