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「ギャー!!」
「っ!!」
「バカヤロー!ウロウロするな!!」
しかしリルを背負ってパニックのチョッパーには、そんな言葉も届いてないようである。
リルも振り落とされないように必死にチョッパーの背中にしがみ付いていて、状況など分かっていないようだ。
このままでは埒が明かない、とゾロがなんとか三匹倒したところで、新たな気配を感じた。
「チョッパー!上だ!!」
「えっ?」
咄嗟に声を張り上げたが、当の本人たちは気付いていない。
ゾロが慌てて踏み出すと、木の上にいた猪がチョッパーの頭上目掛けて飛び降りてきた。
「ギャーッ!!?」
「クソッ!この猪は木も登んのか!?」
まさか、あんな短い足で木に登れるとは思っておらず、気付けば残りの猪達も木の上にいた。
すっかり不意をつかれたが、チョッパーはなんとがギリギリのところで攻撃をかわした。
しかし、その衝撃でリルが振り落とされてしまった。
「っ!!」
「リル!!」
薬草が宙を舞って、小さな肢体が無防備に投げ出される。
もちろん猪達がそのチャンスを見逃すはずもなく、空になった籠を抱えて蹲るリル目掛けて一斉に飛び掛ってきた。
(足手まといめ…!)
そう思いながらも、ゾロの体は咄嗟に三本目の刀を抜いていた。
「龍巻き!!」
リルを背に旋風を繰り出すと、猪達は空高く舞い上がっていった。
「リルー!大丈夫か!?」
チョッパーが駆け寄ると、状況が分かっていないのか薬草まみれになったリルは目を瞬かせた。
ゾロが刀を収めると、キンという唾の音でやっと肩の力を抜いた。
「ごねんな、おれがちゃんと守れれば…」
「っ…」
振り落とされた衝撃だろうか、ところどころかすり傷を作ったリルは首を横に振った。
それよりも、持っていた籠の中身が空になっていることを気にしているようで、申し訳なさそうに頭を下げた。
「いいんだ!また集めればいいし!それより手当てしよう!」
「待て、後にしろ」
リュックを開けようとするの制されて、チョッパーは不思議そうにゾロを見上げた。
「どうしたんだ?」
「お前ら先に行ってろ」
「え?」
風が吹き、木々が揺れて森がざわめく。
そのざわめきが高まるにつれて殺気が増幅する。
気付けば、先ほどと同じ種類の猪が周りを取り囲んでいた。
どうやら仲間を呼んだようで、ゾロは再び刀を抜いた。
「さっさと行け」
「でも、ゾロ一人じゃ…」
「むしろ、お前がいると邪魔なんだよ」
「っ…!」
あえて単数でなじると、リルはあからさまに怯えて肩を震わせた。
ゾロは渋るチョッパーの背中に無理矢理リルを乗せ、猪達の手薄なところから脱出させた。
その背中を見送ってから、ゾロは刀を構えた。
「お前ら運がねぇなぁ…」
一瞬、逃げた二人を追おうとした猪がいたが、ゾロの今までにないほどの殺気に足を止めた。
こんなにもリルにイラついているのは、弱いからだろうか?足手まといだからだろうか?
(いや、違う)
全てを知らなくても、背を預けられる仲間はいる。
だが、リルが正体を打ち明けても、拭えない疑心がある。
秘密を打ち明けることと、心の内を晒すことは、同等じゃない。
「今のおれは、最高に機嫌がわりぃ」
殺気に怯える猪達に、ゾロは不敵な笑みを浮かべた。
そうだ、あいつが…おれ達を信用してないからだ。
まるで孤島で、独りで生きているかのように。
2013/04/12