Rachel

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「はぁ…だから船番してろっつたのに…」
「……」

ゾロがあからさまに溜め息をつくと、リルは俯いてしまった。
全員平等に引いたクジで決めたのが、そもそもの間違いだ。
そうすれば、足手まといを連れて歩く事も、リルを心配したサンジの鬱陶しい見送りにウンザリする事も、クジをリルと交換しようとしたサンジと共に「か弱い乙女ふたり船に置いてく気!?」とナミに殴られる事もなかったというのに。

(クソっ…!なんでおれまで!)

痛む後頭部を抑えながら、ゾロは心の中で毒づいた。
足手まといのリルにイライラしながら歩くのと、馬の合わないサンジとケンカしながら歩くのとでは、ゾロにとっては究極の選択だったが、結局リルの強い希望で現在に至る。
ちなみに、ルフィとウソップとロビンは反対方向へ食糧を探しに行った。

「そうだ、リル!おれの背中に乗れよ!」

そう言うと、チョッパーは人獣型から獣型へと姿を変えた。
普段よりも体格の良くなったチョッパーなら、小柄なリルを背に乗せるくらいは訳ない。
リルが遠慮がちにその背に乗ると、パカパカと蹄の音を立てて歩き出した。
最初からこうしていれば良かった、とゾロもその後を追った。

それからしばらく歩いていると、段々と木の実や薬草が多くなってきた。
それに伴い動物の気配も感じるようになってきて、何か手ごろな獲物はいないかと警戒しつつも気配を探ってると、ゾロがふと足を止めた。

「ゾロ?どうしたんだ?」
「お前ら…下がってろ」
「え?」
「囲まれてる」

ゾロが刀に手をかけると、チョッパーもやっと気が付いたようで腰を低くして臨戦態勢に入ったが、背にリルを乗せているのを思い出したらしく、そっと後ずさった。
一方、背に乗ったリルはというと、チョッパーと集めた薬草の入りの籠を抱えながら、オロオロと辺りを見回している。

「3、4、…7は居るか…」

ゾロが気配を確認していると、草むらの陰から猪のような獣が現れた。
前方に三匹、左右に一匹ずつと、背後に二匹。
その口からは、大きな牙が伸びていた。

「ちょうどいい、昼飯はこいつらだな」

そう言ってゾロが刀を二本抜くと同時に、前方の猪が一匹突進してきた。
それを合図に猪達が一斉にゾロに飛び掛り、チョッパーは背後を取られないようにと太い木の幹を背にして距離を取った。

「鷹波!!」

ゾロが波状の衝撃波を繰り出すと、猪達はまるで鏡のように跳ね返されていった。
その歯ごたえのなさに落胆していたが、猪達はすぐに体勢を立て直した。

「そりゃあ、たった一発じゃつまらねぇもんなぁ」

一撃で終わるほど猪達も弱くはないようで、大きく吹っ飛んだ割には体にダメージが見受けられない。
更に今度は一匹ずつ向かってきて、一匹目に攻撃をしている隙に二匹目が背後から突進してくるという連携がしっかり出来ている。
その巨体からは想像も出来ないほど機敏な動きにゾロが翻弄されていると、チョッパーの声が聞こえた。

「ゾロ!うしろ!!」
「くっ!!」

その声に反応してなんとかギリギリで避けたが、牙が掠ったらしくゾロのズボンに小さな切れ目が入った。
本来ならばこの程度の敵に苦戦するなんてことはない筈なのに、今のゾロにはそれが出来なかった。

「ぎゃー!!こっちきたー!!」
「チョッパー!!」

そう、チョッパーが…いや、リルの存在だ。
チョッパー一人なら何の問題もないが、リルを背負っているため十分に戦えない。
かといって、背から降ろして戦えば、瞬く間にリルが襲われるだろう。
加えて、二人を守りながら戦っているゾロとしては、チョッパーが逃げ回るものだから、ちっとも集中できない。
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