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別に、どこの誰だって構わない。
言えない過去なんて誰にだってある。
恐らく、まだ何か隠してあるのだろうが、そんなことは問題じゃない。
おれがイラついているのは、そんなことじゃない。
* desert island *
ふと目を開けると、甲板が目に入った。
ただ、いつもと違うのは、そこで他のクルーたちも寝こけていたことだ。
珍しいと思いつつも、そういえば昨日は宴だったと、ゾロは一つ欠伸をこぼした。
真正面からの光に目を細めると、太陽がもうずいぶんと顔を出している。
何人かのクルーはもう起きているようで、騒がしいキッチンをよそに甲板ではルフィとチョッパーが転がっていた。
「そう、じゃあ何人かで行きましょうか」
「悪いね、ナミさん」
「どうしたんだ?」
ゾロがキッチンへと足を踏み入れると、なにやら深刻な雰囲気のナミとサンジが振り返った。
「お!やっと起きたかー!」
「あら、剣士さん、おはよう」
テーブルの上で何かを書いていたウソップが顔をあげると、ロビンも分厚い本を閉じた。
ウソップの後頭部には何故か大きなこぶが出来ていたが、どうせまたナミにでも叱られたのだろうと気にはしなかった。
「なんか、あったのか?」
「うん、ちょっと食糧がね」
「昨日の宴で結構消費しちまったからな」
そう溜め息をついたサンジの向こうで、小さな体が揺れた。
どうやら、昨日の宴会のせいで残りの食糧が心もとないらしい。
みんなで楽しんだのだから誰のせい、というわけではないのに、何を気にしているのかリルは申し訳なさそうに俯いた。
ゾロはその姿を視界に入れないようにしながら溜め息をついた。
「ちゃんと考えて出せよ、てめぇの仕事だろコック」
「あぁ!?んだとぉ!?」
サンジがゾロに掴みかかってきたことで、その後ろにいたリルの慌てた表情が目に入った。
しかも目が潤んでいて、ゾロは思わず舌打ちをした。
「止めなさい、まったく…とにかく!この島で食糧調達してから出航するわよ!」
「よーし!お前らクジが出来たぞー!」
「サンジくん、ルフィとチョッパー起こしてきて」
「あーい!ナミすわん!!」
そうして、一行の食糧探しが始まった。
「やっぱり無人島みたいだな!」
「あぁ…」
「薬草とかあるかな!?」
「さぁな」
どこか楽しそうな言葉に、ゾロは興味なさそうに返事をしたが、チョッパーは気にした様子もなく歩を進めた。
先頭を歩くゾロの後ろからは、ピョコピョコと可愛らしい足音と、ズルズルという耳障りな音が入り混じっている。
それを不快に思いながらも食べられそうなものを探していると、後ろでチョッパーが飛び上がった気配がした。
「あっ!アロエ発見!!」
嬉しそうに駆け寄ったチョッパーは、生い茂る草の中から目当ての物をせっせと摘み始めた。
そんなチョッパーを尻目にゾロは辺りを見回した。
まだ森へ入って少ししか経っていないが、木に実のようなものが生っている様子が見受けられない。
もしかしたら野生の動物すらいないのかもしれない。
これは厄介そうだ、と腕組みをして考えこんでいたら、先ほどから後方でしていた不快な音が、グシャという悲惨な音に変わった。
「っ!!」
「あ?」
「リルっ?大丈夫か!?」
気付けば一番後ろを歩いていたはずのリルが地面に突っ伏していた。
慌ててチョッパーが駆け寄ると、鼻の頭を擦りむいたマヌケな顔があった。
「足場が悪いから気をつけろよ」
チョッパーが助け起こすと、リルはひとつ頷いた。
足が悪いせいか、足場が悪いせいか。
船上ではいつも裸足だったリルは見慣れぬサンダルを履いていたが、どう考えてもこの未開の地を歩くのに不向きだ。
どちらにせよ、戦うどころか普通に歩く事すらままならないリルがついてきたことに、ゾロは不満を感じていた。