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「ん?なんだい?」
“タバコって、おいしいの?”
その顔はまさに“興味津々”と言った感じで、サンジは思わず苦笑してしまった。
「うーん、リルちゃんには、まだ早ぇんじゃねぇかなぁ…」
そんな憂いとは裏腹に、リルは期待の眼差しでサンジを見つめている。
どうしようかと思案していると、焦れたリルがタバコに手を伸ばした。
「リルちゃ…あっ!」
「っ!けほっ!…っ」
普段のおっとりした動作からは考えられない速さでタバコを奪い取ったリルは、気が付いたら見よう見まねで吸った煙に咽ていた。
「ほら、ね?」
そっとタバコを取り上げると、リルは唇を尖らせた。
子供のように膨らんだその頬が少し赤みを帯びていて、サンジは足元に落ちていた毛布を拾った。
「ほら、冷えてきたから」
その肩に毛布を掛けたが、リルは不思議そうな顔でキョロキョロ足元を見渡している。
“サンジのは?”
「あぁ、おれは大丈夫だから、リルちゃん使いなよ」
そう言って座るように促したが、リルは不服そうな顔をした。
どうやら一枚しかないのがお気に召さないらしい。
「寒いのは慣れてるんだ、北の生まれだから」
“のーす?”
サンジの隣に腰を下ろしたリルが、可愛らしく首を傾ける。
「ノースブルー、知らねぇのかい?」
サンジの問いに、リルは遠慮がちに頷いた。
まさか温室育ち?などと思いながらも、簡単に4つの海について説明した。
「リルちゃんは、温けぇ所で育ったのかな?」
大きく頷くリルを見て、サンジは先ほど取り上げたタバコを持て余すように揺らした。
まだ火をつけたばかりのそれは、消すには勿体ないが口をつけるのは躊躇われた。
“なんで分かったの?”
「いや、なんとなくさ」
心底、不思議そうな顔をしているリルには悪いが、特に根拠はない。
強いて言うなら、夏島でさほど暑がる素振りを見せなかったからだ。
“サンジの育ったところは、どんなところ?”
「そうだな…雪の多いところだったよ」
“ゆき?”
サンジが故郷の話を始めると、リルはそれを楽しそうに聞いた。
故郷であったこと、コックの見習いとして海へ出てからの出来事などをひとしきり話すと、リルは深く息を吐いた。
タバコはいつの間にか短くなっていて、サンジは名残惜しげに灰皿へ押し付けた。
「どうしたんだい?」
“海って広いんだね”
リルは天を仰いだ後に、サンジを見て微笑んだ。
きっと狭いところで生きてきたのだろう。
リルの全てを理解しているとは言い難く、まだ見えない闇の部分がどれほどのものかサンジには分からなかった。
でも出会った頃の躊躇いがちな態度とは違う、屈託のない笑顔でサンジの話を聞いてくれるから…
「そうさ、世界にはまだまだ見たこともないようなところがいっぱいある」
もっと世界を、広く知ってほしかった。
だって、いま彼女は自由なのだから。
「オールブルーって知ってるかい?」
サンジが新しい話題を提供すると、リルは興味津々で話を聞いた。
その期待に応えるべく夢中で話をしていると、いつの間にかリルの体がサンジの肩に寄りかかっていた。
どうやら途中で眠ってしまったらしく、その寝顔はとても心地良さそうだった。
「楽しい夢でも…見てんのかい?」
この先の海には、楽しい事も、嬉しい事も、きっと沢山あるだろう。
夢のような冒険はまだまだ続くから。
おやすみなさい、よい夢を。
2013/04/01