Rachel

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海が眠る頃 [2/2]


「どうしたの?今日は積極的だね」
「えっ?そ、そんな…」

内気で恥ずかしがり屋な彼女にしては、これでも積極的な方なのだ。
モジモジと顔を赤らめながらも、その手を離さない所もいじらしい。

「ほら、もっとこっちにおいでよ」
「あっ、あの…」

別に直接触れているわけではないから逃げようと思えば逃げられるはずなのに、まるでそこに手が張り付いてしまったようにリルは慌てている。
逃げようとしないのをいいことに、サンジが真っ赤になった顔を覗き込むと、リルは俯きながらチラリとこちらを見た。
額がガラスにくっ付きそうなほど見つめると、リルもそっと近付いてきた。

「あ、の…えっと…」
「なんだい?」

至近距離で視線が交わったが、すぐに逸らされてしまった。
海と同じ色の瞳は、いつもだったら恥ずかしさで涙目になっているところだろう。
どこか物言いたげなリルを優しく促すと、意を決したように顔を上げた。

「んっ…!」
「え…?」

真っ赤な顔が近付いてきたかと思うと、柔らかそうな唇がふにっとガラスに押し当てられた。
それは本当に一瞬のことで、どこか遠くからちゅっという音が聞こえたような気がした。

「……リルちゃん?」
「あっ、あの…な、なんでもないっ」

サンジが突然のことに呆けていると、顔を真っ赤にしたリルは一目散に上方へ逃げていった。
一人残されたサンジは、真っ白になった頭で懸命に考えた。

(今のは一体…)

でも、いくら考えても辿り着く答えは一つだった。

キスをされたのだ。
ガラス越しに。

いや、正確にはサンジの唇はガラスへ触れていなかったので、キスと言えるかどうかは微妙だが…

「〜〜〜〜〜っ!!!」

ようやく状況を理解したサンジは、思わず身悶えた。

(なんだアレ!?可愛すぎだろっ!!)

脳内で何度もリピートする映像のせいで興奮冷めやらないサンジは、ベンチをバシバシと叩いた。
ようやく心を落ち着けたサンジが顔を上げると、もちろんそこには誰も居なくて、急いでアクアリウムバーを出た。
そのまま船尾楼へ駆けつけると、生簀から甲板へよじ登っているリルがいた。

「あっ、あのっ…」
「つかまえた」
「きゃっ…!」

恥ずかしさからか、逃げ出そうとするその体を引き寄せて抱きしめると、リルの尾ヒレが生簀の水面を叩いて水飛沫があがった。
水の玉は宙を舞って、月明かりでキラキラと輝いている。

「どうしたの?さっきはあんなに積極的だったのに」
「や、やだぁ…っ」

きっと、あれが彼女の精一杯だったのだろう。
真っ赤になった顔を覗き込むと、リルは両手でその顔を覆ってしまった。
こんなチャンスは滅多にない、とサンジがその手を少し強引に退けさせると、やっぱりそこには涙目があって、ノドの奥から抑えられない笑い声が漏れた。

「うっ…ぅ」
「あぁ、ごめんごめんっ」

からかわれたと思ったのか、リルは涙を滲ませてその雫をひとつポロリと落とした。
そんな可愛らしい姿に苦笑しながら、サンジはゆっくりと唇を寄せた。

誰も居ない、海が寝静まった頃のこと。
言葉はすべて、その唇に吸い込まれていった。


title by 反転コンタクト
2013/03/02

誕生日になんの関係もありませんが、日頃ギャグだとオチに使われがちなサンジさんのために、とりあえずイチャイチャさせようと思いまして…
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