Rachel

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リルは、鼻水を垂らして心配するチョッパーに、念のため…とキッチンへ連れて行かれ、ムリヤリ診察された。

「足も大丈夫そうだな!」

やっと涙と鼻水を仕舞ったチョッパーは、笑顔で包帯を手にした。
恐らく足に包帯を巻きなおしてくれるつもりなのだろう。
それを見たリルは、慌てて手振りでチョッパーを止めた。

「っ…」
「どうしたんだ?」

筆談用のボードは濡れてしまったので、ウソップが直してくれている。
しかし今、言うのを躊躇ったら、このままズルズルと言えなくなってしまう気がする。

(みんなに正体を明かすって決めたんだから…)

そうは思ったが、どう説明していいか分からず、結局リルはオロオロするだけ。

「チョッパー、リルー、今日は船ここに泊めることにしたから…って、どうしたの?」
「ナミ!リルがなんか言いたいことがあるみたいなんだけど…」

みんなで停泊の準備をしていたのか、ナミがキッチンの扉を開けると、続々とクルーたちが室内へ入ってきた。
その一番最後に、サンジが皆を押し退けてやってくる。
その手には、大きくて丸い金物が抱えられていた。

「オラどけ、おめーら」
「あら、なあに?タライなんか持ってきて」
「あ!ナミすわん!ちょっと待っててねー!」

サンジはナミにメロリンしながらも、持っていたタライを床に置いた。
その中には、水が半分ほど入っている。

「何してんだ?」
「まぁ、見てろって」

サンジの行動に、皆一様に不思議そうな顔をしながらも静かに見守っている。
興味津々なルフィも、サンジに制されて大人しくタライの横にしゃがみ込んだ。

(もしかして…海水…?)

タライが足元までやってきたのを見て、流石に意味を理解したリルは、思わずサンジを見た。

「ちょっと足つけるだけでいいから」

ね?と、サンジはウインクして微笑んだ。

確かに言葉で説明するよりも、実際に見せた方が早いだろう。
サンジへの説明すらしどろもどろだったリルなら尚更。

チョッパーやウソップもタライの横にしゃがみ込んで、リルを見上げている。
他のみんなも同様に注目していて、リルは意を決してタライに足を入れた。

海水に足を浸けると、ゆっくりとヒレに変わっていく。
みんなの反応が恐くて俯いていると、息を呑む音が聞こえた。

「どういうことだ!?」
「おまえ魚だったのか!?」
「人魚だっ!!」

ウマソーなどと、ルフィのヨダレの啜る音が聞こえた時には、その頭をサンジが勢いよく叩いていた。
他のみんなも物珍しそうに尾ヒレを覗き込み、ウソップは不思議そうにリルの顔を見上げた。

「どうなってんだ?足は?」
「っ…」
「海水に浸かるとヒレになるそうだ」
「へぇ〜」

リルが一瞬言葉に詰まると、サンジが助け舟を出してくれた。
なんだかサンジに頼りっきりな気がして、リルはぎゅっとスカートの裾を握った。

(ちゃんと、言わなきゃ…!)

いつの間にか、みんなリルの周りに集まっていて、ぎゅうぎゅうと押し合って楽しそうに騒いでいた。

「不思議だなぁ〜」
「おい、押すなよっ」
「黙ってて、ごめんなさい…」

そんな喧騒の中、なんとか絞り出した声は小さく、一瞬全員の動きが止まった。
聞き覚えのない呟きに皆が耳を澄ませたが、リルが俯きながらもう一度ごめんなさい、と言うと、すぐに目を丸くした。

「喋れるようになったのか!?」
「う、うん…」
「尾ヒレがあるとき限定だけどな」

嬉しそうに声を弾ませるチョッパーにサンジが補足すると、みんな何故か歓声を上げた。
サンジだって先ほど聞いたばかりだというのに、どこか得意げな顔をした。
その様子を見て、ギロリと睨む双眸があった。
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