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仲間だと言ってくれる人達に、優しく抱きしめてくれる人に、わたしはいつまで沈黙を守ることが出来るのだろうか。
揺らぐ心には暗雲が立ち込めて、迷いと動揺でいっぱいになる。
もうすぐ、嵐が来る。
* waver *
「サンジくん!三角帆を!」
「はぁ〜い!んナミさんっ!!」
「チョッパー!取り舵!」
「了解!」
「うっひょ〜!すげーなー!」
「何してんの!あんたは!」
吹き荒れる風の音を引き裂いて、ナミの怒号が響く。
空には暗雲が立ち込め、稲光すら見える。
一行は現在、大波の中を驀進中で、船上は慌ただしくなっていた。
ナミの的確な指示に、迅速に動くクルーたち。
状況が目まぐるしく変わる中で、リルは一人それについていけなかった。
船に乗っている以上、何か手伝いたい気持ちはあったが、結局何も出来ずにいた。
(てゆーか、わたし船のこと、なんにも知らないんだなぁ…)
そんな風に甲板でオロオロとしていると、走り去るゾロと肩がぶつかり、ギロリと睨まれた。
「っ…」
「邪魔だ…」
むしろリルが吹き飛ばされたと言ってもいいほどの衝撃だったが、ゾロはそのまま船尾楼へ駆けて行った。
「リル!危ないから部屋入ってなさい!」
甲板の中央で尻餅をついているリルを見て、ナミが叫んだ。
(邪魔…か)
ゾロの冷たい声色を思い出して、ため息を付いた。
どう考えても邪魔にしかなっていない自分を悔しく思いながらも、リルはヨロヨロと立ち上がった。
船はずいぶんと揺れていて、足の悪いリルでは歩くのもやっとだ。
手摺にしがみ付きながら、なんとか階段を上ると、今度はサンジとすれ違った。
「リルちゃんっ、危ねぇからキッチン…そうだ、チョッパー手伝ってやってくれよ」
明らかに気を遣われたのはわかったけど、“手伝って”と言われたのがなんだか嬉しくて、リルは急いでキッチンへと向かった。
キッチンの中央ではチョッパーが必死に舵を切っていて、リルも手伝おうと足を踏み出したところで船が大きく揺れた。
「っ!」
「リル!?大丈夫か!?」
弾みで前方に倒れこんだリルを見て、チョッパーが慌てて駆け寄ってきた。
咄嗟に手をついて顔面強打は免れたが、手の平が痛い。
「大丈夫か?血は…出てないけど、擦りむいてるな」
チョッパーがリルの手を覗き込むと、確かに右手の母指球の辺りの皮がめくれていた。
チョッパーは心配して手当てをしようとしてくれているが、船がまだ揺れている。
「チョッパー!なにやってんの!取り舵!」
「あっ、ああ!」
ナミに一喝されて、チョッパーは舵を切ろうか、リルの手当てをしようか、オロオロと迷っている。
リルが慌てて手の平を叩いて大丈夫だとアピールすると、チョッパーは再び舵を取った。
船は相変わらず揺れていて、リルはとりあえずキッチンのシンクにしがみ付いた。
(足手まとい…)
キッチンから外を見ると、波もずいぶん高くなってきたらしく、甲板はびしょ濡れだった。
もちろん、駆けずり回っているクルーたちもびしょ濡れで、何も出来ない自分が情けなくなった。
自分が出来る事なんて、また転んでケガをして余計な仕事を増やさないように、必死に何かにしがみ付くことだけ。
(役立たず…)
リルは歯を噛み締めながら、ただ嵐が過ぎ去るのを待った。