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「……」
「……」
重く不穏な空気が流れる。
リルは下唇を噛んで息を呑んだ。
ウソップがやたら自慢していたボードを使って弁明する気はないのか、両手で服の裾を掴んで俯いている。
喋れないから意思の疎通が難しいというのもあるが、それ以前にリルに他人とコミュニケーションを取ろうという意思が感じられない。
文字はロビンに習っているようだが、折角のボードを使っている姿はあまり見ない。
もちろんゾロも親睦を深めようなどと思っているわけではないが。
「まぁ…おれには関係ねぇけどな」
「……」
これ以上問い詰めても埒が明かないだろうと、ゾロはため息を付いて踵を返した。
そこへ、タイミングがいいのか、悪いのか、満面の笑みでサンジが船へ戻ってきた。
そのだらしない顔は、遠目で見た時よりも酷いものだ、とゾロは呆れてしまった。
「リルちゃ〜ん!見てみて!キレイなまきがっ…」
カラフルなクロワサンのような物体を両手に持ち、バンザイポーズで船に上がってきたサンジは、甲板の緊迫した様子に足を止めた。
(いや、やっぱタイミングわりぃな…)
サンジの顔が見る見る曇っていくのを見て、ゾロは舌打ちをした。
ゾロの後ろにはリルがいて、さっきまで俯いていたから表情は知らないが、いい顔をしているわけがない。
そんな様子を見てサンジが黙っているはずもなかった。
「おい、クソマリモ!どういうことだ、これは!」
「あぁ?」
面倒くさいのが帰ってきた、と思わず眉間にシワが寄る。
サンジ相手に喧嘩腰になってしまうのは、最早クセのようなものだった。
「なんでリルちゃんが泣いてんだ」
「は?知らねぇよ」
俯いてはいたが、まさか泣いてるとは思っていなかったゾロは、思わず背後を見遣った。
リルの瞳は確かにいつもより水分を含んでいたが、泣いているというほどでもない。
過保護すぎんだろう、とメンチを切れば互いに睨み合いになる。
「知らねぇワケねぇーだろうが!オロすぞ!」
「おー、やれるモンならやってみろ」
ゾロが刀の柄に手を掛けると、サンジも臨戦態勢に入った。
背後にはオロオロとする気配がする。
船上は静まり返り、まさに一触即発。
次に物音がしたら切り込むだろう、という緊張感の中、風の音だけが響く。
――ッ
ゾロの背後で息を飲む音がした。
そして今まさに刀を鞘から引き抜こうとした瞬間。
「鬼…」
「コリエ…」
「見てくれ、みんなー!あの山にすごいお宝がいっぱいあったぞ!!」
「「って、なんだ!その格好はー!!」」
空気を読まずに帰還なさった船長は、見事に張り詰めた糸をぶった切った。
謎の鎧を身に纏ったルフィに、二人は思わずツッコミを入れてしまった。
「ったく…」
「てゆーか、お前は一体どこ行ってたんだ!」
すっかり戦意を削がれしまったゾロは刀を鞘へと戻しながら、悪態ついた。
同じくサンジも呆れてルフィに突っ掛かっている。
「ちょっと、なに騒いでんのー?」
「あっ!ルフィ!お前どこ行ってたんだ!」
そこへ、騒ぎを聞きつけたクルーたちが続々と帰ってきて、リルはホッとした表情になった。
中途半端に喧嘩を中断させられたこともあるが、そのあからさまな態度が気に入らなくて、ゾロは舌打ちをしながら船首楼へと戻っていった。
あぁ、胸クソわりぃ…
2012/08/02