Rachel

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チョッパーは意を決して口を開いた。

「よく痛む時と、そうでない時があるみたいなんだ」
「やっぱり何か原因があるってことか?」
「うん、だから痛みのある時を記録してみたら周期性があったんだ」

そう言いながら、チョッパーは実際に記録したノートをサンジに見せた。
痛みの度合いというのは本人の感覚的なものだから大雑把に記録したものだが、その規則性は素人目にも明らかだった。

「大体、29日くらいで痛みのピークがくるらしい」
「…どういうことだ?ただの怪我じゃねえってことか?」
「分からねぇ…、確かに周期性のある病気や怪我もあるけど、リルの症状はそのどれにも当てはまらねぇし…」

結局、分かったのは周期性だけ。
不可解な症状の原因も分からず謎は深まるばかりだった。

そもそも医者であるチョッパーに分からないことが、サンジに分かるはずもないのだが、リルに関しては例外だ。
足にある謎の痣に始まり、人魚になったり、鱗が腕に現れたり、喋れたり喋れなかったり、とリルの体は不思議なことだらけだ。
チョッパーが今まで学んだ一般的な医学では解明できないことばかり、常識なんて通用しない。
そういう意味では、まさに偉大なる航路で生まれ育った生き物といえるだろう。

(おれもだけど…)

自分の体のことは自分が一番よくわかるけど、他人の、しかも声の出ないリルでは症状を聞きだすだけでも一苦労だ。
しかし、問題はそれ以外にあるのではないかとチョッパーは考えていた。

「なぁ、もしかして、リルは知ってるんじゃ…」

声も、足も、鱗も、いつからそうなってしまったのか、どうしてそうなってしまったのか、聞いてもリルはいつも静かに首を横に振るばかり。
生まれつきならば不思議な生物だと思えるが、リルはただ分からないと言っていた。

悲しそうな表情に、チョッパーもそれ以上追及できなかったのだが、本当は全て知っているのではないだろうか。
こんな不思議な体になってしまった原因も理由も全て。
不便であるはずの足やノドの治療にも消極的だったのは、この状況を受け入れているのかもしれない。
不自由な体を仕方のないことだと、治療する術もないと諦めているのかもしれない。

(なんだか、おれに似てる…)

チョッパーは悪魔の実を食べてバケモノと罵られるようになった。
何が悪いのか分からなくて、世界はなんて理不尽なんだと嘆いたりもしたが、今はそれで良かったと思っている。
そもそも原因は無知から不用意に実を食べた自分のせいでもあるし、仲間と呼んでもらえる人たちに出会ったのだから。

(じゃあ、リルは?)

チョッパーのように無知ゆえの自業自得なのだろうか?
それとも、誰かの手による悪意なのだろうか?
もしかして、抗えない自然の摂理かもしれない。

「サンジ…」
「さぁな…」

どうにも釈然としない思いをサンジも抱えているはずなのに、煮え切らない返事しかかえって来なかった。

サンジは感情を表に出す方だとは思うが、たまに何やら難しいこと考えていたりする。
後になって、それが先を見越した作戦であったりすることが分かったりするが、今も何か考えているのだろうか。

「29日、か…」

重苦しい空気の中、サンジの呟きだけがキッチンに残った。


彼女を苦しめる権利なんて、誰にもあるはずはないのに。

2015/05/15

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