Rachel

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「誰なの、アンタ」
「答える義務はない。それよりリルはどこだ」
「どこの誰かも知らないやつに、教えるわけ…」
「リルになんの用だ!」
「って、ちょっと!」
「リルをどこにやった!!」
「ルフィ!」

敵か味方か分からない。
リルの知り合いだったとしても、この男がリルが居なくなった原因かもしれない。
だからナミも慎重に受け答えをしたのだろう。
それなのに、興奮したルフィが全て台無しにしてしまった。

「……帰ってないのか」
「リルを返せー!」

小さく呟いた男は、ルフィの威嚇にため息をついた。

「お前らに構っている暇はない。悪いが伝言を頼めるか」
「伝言?」
「ヤツの件は確認した。今後のことはとりあえずじいさんに相談してみるから、オレは一度帰る」
「は?どういう…」
「じゃあな」

それだけ言うと、止める間もなく男は身を翻した。
背後には海しかないはずなのに、なんの音も立てずに彼は消えてしまった。

「…って、ことなんだけど」

男の言葉の半分くらいは意味が解らなかったが、とりあえず見たこと聞いたことをそのまま説明した。
不安気なチョッパーの話を聞き終えると、サンジは考え込むように俯いた。

あの男が去った後、混乱する船上にリルを抱えたサンジが戻ってきた。
二人とも血だらけで更にパニックになる中、サンジはどこか冷静だった。

「ナミさん、リルちゃんの着替え頼んでもいいかい」
「いいけど、その前に手当てを…!」
「あぁ、大丈夫。気絶してるだけだから」
「え?」

腕や胸元を中心にボロボロのサンジに対して、血だらけなのに無傷のリル。
たった数十分の内に一体なにがあったと言うのか。
誰もが不思議に思ったのに誰も聞かなかったのは、サンジの様子がおかしかったからに他ならない。

そんなサンジを連れてチョッパーはキッチンで手当てを行っていた。
サンジが上着を脱ぐと、そのほとんどは擦り傷のようだが、転んだりして出来る傷を遥かに超えていた。
まるで下ろし金で擦ったような傷の隙間には薄く光る欠片が混ざり込んでいて、その光景に既視感を覚えたチョッパーは手当ても忘れて恐る恐る尋ねた。

「なぁ、サンジ…もしかして、これリルの…」
「!?」

そっとピンセットで摘まむと、サンジは勢いよく顔を上げた。
傷に触ってしまったのかと慌てたが、サンジは驚愕の表情でチョッパーを見つめていた。
そんな過剰な反応に驚いた反面、やはりそうだったのか、という納得もあった。

「…知ってたのか?」
「う、うん…」

小さく息を吐いたサンジは落ち着きを取り戻したようで、チョッパーも無人島で見た出来事を話した。
気が付いたら倒れていた獣と、血だらけなのに無傷のリル。
そこには存在しないはずの鱗が、魔法のように消えたことも、全て。

「で、でもっ、リルがみんなにはヒミツにしてくれって…!」
「そうか…」

不思議なことだらけで上手く説明できず、静かに聞いていたサンジは一言呟いただけだった。
俯き加減のサンジの表情は長い前髪でよく見えないが、何かを考えているようで黙り込んでしまった。

「それと、さ…」
「なんだ?」
「リルの足の痣のことなんだけど…」

その深刻な様子に話すことは躊躇われたが、サンジはリルについて何か知っているのかもしれない。
リルに何が起こっているのかは分からないが、このまま黙っていることも出来ない。
だって、彼女は仲間なのだから。
仲間が傷ついたり、悩んだりしているのを見過ごせない。
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