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ねぇ、まさか気付いてないの?
このさんさんと降り注ぐ陽の下
太陽よりも熱く焦がれた胸と、熱湯よりも沸いた頭で、おかしくなっちゃったのかしら?
まったく、暑苦しいわね!
* midsummer *
「ヤローどもー!島が見えたぞー!!」
船長の掛け声でクルーたちが続々と甲板に集まってきた。
待ち焦がれた次の島は夏島。
照りつける太陽で全てが輝いて見えた。
「夏島かぁー」
「キレーイ」
「大きな街だなー」
「ここは色々手に入りそうだな」
新たな街にそれぞれ思いを馳せていると、ウソップが前方を指差した。
「お、ビーチがあるぞ!」
一行はビーチ横の岬に船を停めて、街へ繰り出す算段をつけた。
ルフィとウソップは、あの山が怪しい!冒険だ!探検だ!と騒いでいる。
サンジとチョッパーはそれぞれ買い物に出るようだ。
クルーたちがどんどん下船の準備を始めている中、キョロキョロと動く小さな頭を見て、ナミは思わず笑みがこぼれた。
「リル、私たちも買い物に行きましょう」
「そうね、いつまでもその格好じゃあ、ね」
Tシャツがワンピースのようになっているリルを見てロビンも頷いた。
不安そうだったリルの表情が綻んで、大きく頷いた。
三人でどんな服を買おうか相談していると、船を降りようとしていたサンジがクネクネしながら駆け寄ってきた。
「んナミすわ〜ん!ロビンちゅわ〜ん!リルちゅわ〜ん!お供しま〜す!!」
「あら、サンジくん買い出しに行くんじゃないの?」
「レディたちだけでは危険ですから、ぜひ荷物持ちに!」
なんて言っておきながら、視線の先は本当は一つだけのくせに…と、ナミは内心毒づいた。
目は口ほどにものを言う、とは良く言ったものだ。
しかし、視線を向けられた本人はその意味に気付いていないらしく、不思議そうな顔でナミとサンジを交互に見ている。
ここ数日…いや、リルが船に乗ってから、こんな光景を何度か目にした。
強引に船に乗せたから責任を感じているのだろうか。
どこか抜けた性格のリルを構いたくなるのは解るが、見ているナミにとって焦れったいというよりは鬱陶しい。
「大丈夫よ!ウソップつれてくから」
「えっ!!?」
ナミの返事に驚いたのは、たくさん道具を装備して今まさに冒険に繰り出そうとしていたウソップに他ならなかった。
「いやいや!何言ってんだ、おれはこれから、あの山の…」
「いいから行くわよ!」
「ぐえー!」
「ナ、ナミさ〜んっ!」
拒否権などないと言わんばかりにウソップの首根っこを掴んだナミは、ズルズルと引きずりながら船を降りた。
サンジも慌てて船を降りようと手摺に足を掛けたところで、ロビンがそっと肩を叩いた。
「コックさんの素敵なお料理、楽しみにしているわね」
「え?」
「買い出し、大変だろうけど頑張ってね」
「はぁ〜い!ロビンちゃ〜ん!」
ロビンに乗せられたサンジは、飛び跳ねながら駆け出して行った。
「ま、待ってくれよ〜!サンジ〜!」
「さぁ、私たちも行きましょう」
サンジと一緒に買い出しに行く約束でもしていたのか、チョッパーも慌てて船を飛び降りていき、リルもロビンの手を借りながら船を降りた。
「どうしたのー?」
やっと船を降りてきたかと思ったら、リルは名残惜しそうに船を振り返っている。
ウソップを引き摺りながら先へ進んでいたナミは、中々追いついてこない二人を街へ促した。
ちなみに、サンジとチョッパーの姿は既に見えなくなっていた。
「大丈夫よ、船なら剣士さんがいるから」
ロビンがその肩を叩くと、ようやく納得したようで一行は街へ向かって歩き出した。