Rachel

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このまま日の目も見ずに人生終える気はない。
これから一発当ててやるんだ。
だって、俺こそトップにふさわしいだろう?
なぁ、そうだろ?


* Rot! *


ユーサーはいわゆる下っ端という立場だった。
仕事は雑用や使いっ走りばかりで、上の者に理不尽な扱いを受けることは珍しくもなかった。
取引が上手くいかなくて八つ当たりされ、上司の失敗を自分のせいにされ、異を唱えれば出来損ないと罵られた。

こんなトコでやってられっか!と職を替えたところで、学も能力も技術も、なんの取り柄もないユーサーは、結局どこへ行っても下っ端であることに変わりはなかった。
真面目に地道に働く気などサラサラないので、行き着く先は闇商人だったり、風俗だったり、賊だったり。

いつしか成り上がってやる!そんな思いを秘めていたある日、ユーサーに転機が訪れた。
嵐で船が難破し、漂流した先で偶然にも人魚を見つけたのだ。
人魚は高額で取引されるから、見つけた自分にも相応の報酬や立場が手に入るに違いない。

(キタァァァーーー!!!)

突然舞い込んだチャンスに小躍りしそうになりながらも、ユーサーは平静を装った。

ここで人魚を上手く捕えたところで船は大破しており、帰る術もない。
しかも、こんなところで人魚が一人で暮らしているはずもなく、近くに住処があるに違いない。
ならば、この人魚をここで捕えるよりも、その住処を探し出して丸ごと捕えれば大手柄だ。

そう考えたユーサーはニヤけそうになるのを抑えながら、人魚に話しかけた。

「君が助けてくれたの?」(そう、お前は俺の救世主だ)
「えっ?えーっと…」
「そうか、ありがとう!」(ありがとな、こんなチャンスを俺にくれて)
「え…?えっ?」

狼狽える人魚をよそに、ユーサーの口からはスルスルと言葉が飛び出してきた。
まるでいつもとは別人のように陽気で明瞭に喋り、いかにも“いい人”を演じた。

すると、警戒していた人魚も徐々に心を開いてきたようで、自分からユーサーに話しかけてきたりもした。

「太陽って大きいのね」
「え?太陽?いやいや、あれは月だよ」(なんてったて俺は闇に生きる男だからな)
「え?え?」
「まぁ、今日は明るいからねー」(だが、俺の未来も明るいぜ!)
「う、うん…」
「あれは月、満月だよ」(ついに俺にもツキが回ってきたんだ)
「つき…」
「そうだ、キミ名前は?」(一応、聞いておいてやるよ)
「え?な、名前?えっと、リル…」
「そっか、リルっていうのか〜可愛い名前だね」(まぁ、すぐに忘れちまうだろうがな)
「…っ!」
「あ、ちなみにおれの名前はユーサーって言うんだ」(将来トップに立つ男の名だ、覚えておけ!)

世間知らずな人魚は偽物の笑顔を信じ、帰る手段のないユーサーに自ら手を貸してくれた。

人魚の肩につかまりながら、ユーサーは勝利を確信した。
その後、人魚の住処が予想よりも深海にあって見失った時にはひどく落胆したが、ひと月後の満月の夜に再会した時に、ユーサーは自分の運の良さに身震いした。

「満月の夜に、会える気がしたんだ」(やはりツキは俺の味方だった)

あとはもう簡単だった。
ヒッソリと潜水艦を準備し、武器を手に深海へ乗り込んで大量の人魚を手に入れることに成功した。
大きな利益をもたらしたユーサーには、たくさんの報酬が与えられ、それにより周りの状況も一変した。

人生これからだ!と息巻いていたところに新たな商品が入ったと、新入りが尊敬の眼差しでユーサーに頭を下げた。

「ユーサーさん、お願いします!」
「おう!」

同じ下っ端仲間だったヤツらの妬みややっかみを尻目に、意気揚々と査定に向かった。
まさに絶好調だったユーサーの前に、どこか見覚えのある女がいた。
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