教えて?


カチカチカチカチ

無機質な音が生徒会室に小さく響く。

「こ、これでいいのか?」
不安げに問うのは生徒会長である鮎沢美咲。その周りには数人の役員が美咲を囲むように立ち並び、差し出された携帯電話の画面を覗き込む。
「大丈夫です!そのまま真ん中のボタンを押せば赤外線でデータを送信できますし、その一つ前の画面で受信を選べばデータを受け取れるんですよ」
そう答えたのは副会長の幸村で、美咲の差し出した携帯に自分の携帯を近付けると美咲にボタンを押すよう促した。
数秒後表示された画面にぱっと表情を明るくした美咲は、そのまま楽しげに他の役員とも赤外線でのアドレス交換を行った。
「それにしても今時珍しいんじゃないですか?」
美咲を取り囲み、同じようにアドレスを交換していた役員の一人、萩本はそう言った。
「何がだ?」
「俺もそうでしたけど、大抵携帯買ってもらえたら嬉しくって嬉しくって、ついつい色んな機能使ってみようと弄ってる内に説明書読まなくても使いこなせるようになってたんですよ。だから会長みたいな人ってなんだか珍しい気がして…」
からかうように笑った萩本に美咲は苦笑いを浮かべて言った。
「高いものだったから大切に使おうと思うと、今度はなんだか怖くてあまり弄れなくてな…」
アナログ人間ってやつなのかもな、と言いながら美咲は携帯を大事そうに握りながらメモリの増えたアドレス帳を眺めていた。

「で?」

「でってなんだ変態宇宙人、日本語を喋れ」
帰り道、いきなり現れた変態宇宙人こと碓氷拓海は不機嫌そうだった。いや、不機嫌だった。
「美咲(ミサ)ちゃんが赤外線の使い方をマスターしたって幸村が言うから期待してたのに俺にはなーんにも言ってこないのはなんで?」
「ほほぅ、そんな長い意味がさっきの一文字に込められていたとは解らなかったなぁ」
碓氷から離れようと僅かに歩を早めたが、奴の無駄に長い足の前ではあまり効果がなかったようだ。どんどんと黒い影を背負って近付いてくる碓氷を睨むようにして立ち止まった。
「何がそんなに気に入らないんだ、言わなきゃ分からんと言ってるだろう!」
「えー、さっきは言ってなかったー」
「オマエ…!」
ふいに真面目な顔になった碓氷に心臓が跳ねた。
「本当に分かんない?」
「…っ!?だ、だからさっきからいったい何なんだよ!分からんと言って…」
「本当に?」
耳の奥で心臓の鼓動が警鐘のように鳴っていた。思考はあっという間に働くことをやめ、ただただ碓氷の瞳に引き込まれるような感覚に侵されていく。それはまるで頭の天辺から足の先まで、その全てを碓氷に見られているようで、羞恥に似た何かが心の中で少しずつ広がっていく。

「分からん!」

耐えられなくなって、全部引き剥がすように出した声は大きいのにどこか弱くて。それでも碓氷の瞳が揺れたその隙に、その呪縛から逃れようと美咲は視線を落とした。
「…そっか、残念」
優しい笑みを浮かべながら碓氷は一歩身を引くと、美咲の頭をくしゃりと撫でて歩き出そうとした。

刹那。

後ろに引かれる制服のシャツ、握っているのは美咲の手。痛いぐらいにきつく握り締めたその手は真っ赤で、俯いた美咲の髪の間から覗く耳も同じくらいに赤かった。
「お前が、何を言いたいのかよく分からん」
「…うん」
「だっ、だから!その…」
ゆっくりと顔を上げた美咲の顔は予想通り真っ赤だった。
「分かるように、教えてくれ…」
嬉しそうに笑みを浮かべた碓氷は、シャツを握ったままの美咲の手をとった。
「俺、優しくなんか教えられないと思うよ?」
「…別にいい」
ギュッと握り返してきた美咲の手を碓氷は愛おしそうに指を絡めるように握り替えた。

「好きだよ、鮎沢」

「それは口に出さなくってもいい!」



数日後、顔を赤らめ割れんばかりに携帯を握り締めて震える美咲がいたのはまた別のお話。
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