わんことこうさぎ
6〜10話
わんこと子うさぎ##H1##6話##H1##
よく見ると、足元に小さな穴が開いていて、その奥で何かが動いている。

「何だァ?」

風にかき消されてしまいそうなか細い声に、俺は耳をそばだてた。

「ママ……ママぁ……」

俺は穴の淵に鼻先を擦り付けて、奥にいる声の主に話しかけてみた。

「お前は…誰だ?」

「ママは?ママはどこぉ?」

薄暗い穴の奥で、何か細長いふわふわしたものがピクピクと動いているのが見えて、俺は先程きつねに銜えられていた、うさぎの耳を思い出した。

わんこと子うさぎ##H1##7話##H1##
こいつの母親は、もしかして………。

「ママって……白いうさぎのことか?」

「うん!ママにあったの?ママはどこ?」

子供のうさぎはよほど臆病で用心深いのか、穴の奥に姿を隠したままで、それでも母親の行方が心配らしく、何度も何度も俺に話しかけてくる。

一生懸命なその様子に、俺はとうとう黙り込んでしまった。

どう伝えればいいんだろう……。

きっともう、この子の母親は、きつねの腹の中に納まっているだろう。

その事実は幼い子供にとって、相当なショックに違いない。

わんこと子うさぎ##H1##8話##H1##
だからと言って、適当な嘘をついてごまかしたら、この子うさぎは、永遠に帰らぬ母親を待ち続けることになる。

その方が、よっぽど可哀想じゃないか?

「ねぇ…ママはどこにいるの?」

黙り込んだままの俺に、だんだんと心細くなってきたようで、ママ、ママと声を震わせだした子うさぎ。

気が重かったけど、結局俺には、正直に伝えることしかできなかった。

「お前のママは、きつねに連れて行かれたよ。もう、帰ってこれないと思う」

「ママがっ!?」

わんこと子うさぎ##H1##9話##H1##
俺の言葉に、母親がいなくなったと知ってパニックになってしまった子うさぎが、警戒心も忘れて穴の中から飛び出してくる。

いきなり飛び出してきた小さなうさぎの、あまりの白さに、俺はびっくりしてしまった。
まだほんの子供で、小さくてふわふわした丸い身体は、まるで綿毛のようだ。

「ママッ…、ママぁ…!!」

子うさぎは俺には目もくれず、辺りに向かって耳や鼻を動かして、必死に母親の姿を捜し回った。

けれど、子うさぎの呼び声に答える母親は、もうどこにもいなくて……。

わんこと子うさぎ##H1##10話##H1##
「……マ、マぁ……」

長い耳をしゅんと垂れてしまった子うさぎは、とうとうその場にうずくまって、しくしくと泣き出してしまった。

小さな身体を震わせながら泣き続ける子うさぎの姿は儚くて、何だかこっちまで悲しくなってしまう。

「なぁ……おい……」

かける言葉も思いつかなくて、俺はしばらく子うさぎの周りをウロウロと歩き回った。

あまりに小さいので、どう接すればいいのか分からない。

それでも何とか慰めてやりたくて、悲しそうに伏せられたままの耳をそぅっと舐めてやる。




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