ぼくたちはひかれあう
6〜11話:終
ぼくたちはひかれあう##H1##6話##H1##
吹く風の冷たさに首を竦めながら、黄金色に染まった光景を眺めている一護に、雨竜はほんの微かに口元を綻ばせた。
同じなんだな……。
一護へ投げかけた言葉は、問いかけというよりも、今の雨竜自身の気持ちを表したものだった。
彼に出会ったばかりの頃は、死神に対する憤り、怒りの気持ちばかりが心を占め、余裕なんてどこにもなかった。
導き手である師匠を亡くした時から、ずっと死神を敵視し、滅却師の力を証明することだけに囚われすぎていたのだ。
ぼくたちはひかれあう##H1##7話##H1##
けれど今は―――季節の移ろいに心を向けるだけの、余裕がある……。
だから心の赴くままに、深まる秋の彩りを感じたくて、ここへ来たのだ。
「僕もだ」
「へぇ、そりゃ――」
奇遇だな、と一護は笑った。
少しの照れを含んだ、屈託のない笑顔だった。
雨竜も、ふっと口端を上げて微笑んだ。
同じ時に同じことを思い、同じ場所を訪れるなんて……。
それは不思議な感覚だった。
元々、彼は最初から合わないタイプの人間で。
それにも増して滅却師と死神という、相容れない者同士だったから。
ぼくたちはひかれあう##H1##8話##H1##
お互いに相手と理解しあえるとは、到底思えなかった。
考えていることも全然分からないし、当然行動の先も読めない。
自分とは何もかもが正反対で、反発するのが当たり前の相手。
そう思っていたはずのに………。
こうして今、彼と普通に接している。
偶然出会ったことを、ごく自然に受け入れている自分がいる。
いつの間にか変わり始めている、二人の関係。
悔しいけれどそれは、死神のくせに、まるっきり死神らしくない、この男の存在に拠るところが大きいだろう。
ぼくたちはひかれあう##H1##9話##H1##
現世の常識も尸魂界の掟も、木っ端微塵に叩き壊して、己の信じる道を真摯なまでに貫いた―――黒崎一護。
炎のような鋭い眼差しは、自分にも他人にも、決して安易な逃げや諦めを許さなかった。
逃げない。
負けない。
己の魂にかけて。
その思いは、滅却師の精神に通じるものがあった。
何より、誇りのために。
戦いの渦中で魂に刻んだその誓いは、死神の彼にも滅却師の自分にも、共通の思いだった。
そういう意味では、二人はとても似ているのかもしれない。
ぼくたちはひかれあう##H1##10話##H1##
―――似たもの同士の滅却師と死神。
彼とならば、共に歩み寄っていけるかもしれない、と思う。
滅却師と死神という定義を覆して。
一歩ずつ、でいい。
少しずつでも、お互いの距離を縮めて行ければいい。
今はまだ、未来へ繋がる道標は霧の彼方だけれど―――
迷うことなく、真っ直ぐ前を見据えて、己の信念の許に進んで行けばいいのだ。
師匠が最期まで望んでいた、滅却師と死神が共存する世界が、いつか来ると信じて。
それに、おそらくそれは、そう遠くない未来のはずだ。
ぼくたちはひかれあう##H1##11話##H1##
「……今日、11月6日は、僕の誕生日なんだ」
「あァ?めずらしいな…お前が自分のこと、話すなんてよォ…」
「そうか…?」
「ま、おめでとう、って言っとくぜ!!石田」
「……ああ」
「俺の誕生日は7月15日な。覚えとけよ!!」
「ああ」
そんな他愛もないことを話しながら、どちらともなく歩き出す。
黄金色の絨毯の中を、二人肩を並べて。
歩いていく。
これからも――――多分、ずっと。
《おわり》
これからもずっと、二人は共闘して現世を護るのだ!!
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