鬼道有人の場合
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季節は冬。
学校が終わり、あたしはガタガタ震えながらバスを待っていた。
両手に息を吹きかけ暖めようとするも、冬の冷たい風にはかなわない。
「はぁ〜寒い!…ん?」
不意に自分の横に気配を感じ、見ると同じクラスの鬼道有人くん。
「鬼道くん!今日は本当に寒いね〜」
「そうだな。…手、貸してみろ」
「?」
あたしが手を差し出すと、鬼道くんはあたしの手に触れ、掴んだかと思うとそのままポケットへと入れてしまった。
あたしは凄く恥ずかしくなったが、鬼道くんは、
「手、冷たいな」
「きっ鬼道くん!恥ずかしいよ…!」
「こうしてた方が暖かいだろ」
「…//」
ポケットの中の鬼道くんの手は凄く暖かかった。
あたしは、鬼道くんと手を繋いでいるという事実が急に恥ずかしくなって、マフラーに顔を埋める様にしていた。
「あ、バス来たんじゃないのか?」
「本当だ。じゃあ、あたし行くね!」
ポケットから手を抜こうとした時、鬼道くんはあたしの手に何かを握らせた。
何だろうと不思議に思い手を抜くと、あたしの手には暖かい懐炉があった。
「え?鬼道くん、コレって…」
「また手が冷たくなるだろうからな。持って行くと良い」
「でっでもそしたら鬼道くんは…」
「俺は大丈夫だ。ほら、早く行かないとバスに乗り遅れるぞ」
「あっ!…鬼道くん、ありがとう」
「…あぁ」
「じゃああたし行くね。また明日!」
「あぁ、また明日な」
あたしは鬼道くんに笑顔で手を振って、バスに乗り込んだ。
一人になると、さっき鬼道くんと手を繋いでいた事を思い出し、顔が赤くなるのが分かった。
これは夢なんじゃないかとも思ったが、自分の手の中にある懐炉で、これは夢なんかじゃないと思った。
「また、明日も話せるといいな…」
〜鬼道side〜
アイツの事を好きだと自覚したのは、つい最近の事だった。
俺はあまり女には自分から話し掛ける方では無いが、好きになったからには、話しかけてみたいと思うのが本望だ。
それなのに、自分の使っていた懐炉を渡すだなんて…
「分かり易かっただろうか…」
「鬼道ーっ?どうしたんだ?」
「なっ、何でも無い!」
俺は一人、頭を抱えていた。
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