貴様の世界が恨めしい
「ユウジ、財前に処女あげたってホンマ?」
俺ユウジが男役の方やと思ってたから、財前からそれ聞いてめっちゃ吃驚したわぁ。
朝練の途中にユウジに世間話のようにそう声をかければ、ユウジは不本意やと言いたげに苦々しげに顔を顰めて此方を向いた。
「アホ、普段は俺がタチじゃ。一昨日のんは光が可愛らしゅうおねだりするからしゃあなしにやなぁ」
やっぱ俺は突っ込む方が向いてるわ、なんちゅうてはぁと息を吐いたユウジに、せやけど財前にねだられたら処女あげてまう位、ユウジは財前が好きなんやろって内心で言葉を返す。
ああもう、ほんま何で財前なんや。
財前より長い間ユウジの側に居る小春や俺やのうて、何で、
――俺、ユウジ先輩の処女も童貞も貰いましたから。 朝、珍しく早うから部室にやってきた財前が、俺と2人きりになった数分の間に言った言葉。
ユウジ先輩は俺のモンやと言外に伝えて来た財前にそん時は虚勢張って軽く流したけど、そん時以来俺はイライラしとる。
俺は1年の時からずっと、ユウジが好きやった。
ちゅうてもユウジとは一回も同じクラスになった事無いし俺はテニスで上手なる事に必死で、普段特出してユウジと仲ええ訳やない。
せやけど俺はユウジの実はよう気ぃついて仲間思いなとことか、キラキラした笑顔とか、嫌な事とか溜め込んでしもてそれでも空元気で笑うとことか、あげきれん位ユウジの沢山の部分に惹かれとった。
せやのに、部活の後輩である財前はいとも簡単(他の奴が聞いたら語弊があるて言われそやけど、俺からしてみればそう思えた。)にユウジの心をかっさらってって、今年の春にとうとう付き合い始めたんや。
「で、掘られた感想はどうや?
案外良かったとか思ってたりするんちゃうん。」
冗談でも言うような軽い口調でそう問えば、ユウジは半目で此方を見やりながら口を開く。
「何や珍しゅうよう突っ込んで来るなぁ…正直よう分からんかった。
気持ちええとはあんま思わんかったけど、めっちゃ嫌っちゅう訳やなかったで。」
好きな奴とやったらどっちの立場でも幸せってやつやろかな、とポツリと言葉を続けたユウジに、俺は「へぇ、」と内心の苛立ちを堪えて口元を微笑ませた。
ほんでもやっぱ我慢出来んくて、何事も無いかのようにユウジの腰に手をやって耳元で囁いたる。
「ほな財前やから嫌やなかったんか、俺と試してみようや。」
「はぁ?蔵、ジブン、何言うとん…」
の、て続けようとしたユウジの顎を空いとった右手で持ち上げて、サッと腰を抱くように寄せてユウジに顔を近付けたった。
……けど、
「っ白石部長、ユウジ先輩は俺のなんで、あんまくっ付かんとって下さい。」
「……財前。」
さっきまでこっから一番離れたコートで2年の奴とラリーしとった筈の財前の出したラケットに阻まれて、ユウジにキスする事は出来んとそちらに顔を向ける。
多分、今の俺は無表情やろな。
自覚しとるけど堪えられる訳もなく、俺は珍しく息を切らした(わざわざ鬱陶しい事に走って来たらしい。)財前を冷たく見下ろした。
「ひ、光?
ジブンむっちゃ息切れしとるけど大丈夫か?」
「大丈夫っすわ…ちゅうかユウジ先輩危機感なさすぎ!早よ部長から離れろやアホ!」
「アホとは何やねん、アホとは。」
ユウジは俺の様子に気付かんと財前に声をかけるから、そないないつもの言葉の応酬が始まって俺は仕方なしにユウジから離れる。
「財前、ジブン何ラリーサボっとんのや。二年はラリーやて言うてたやろ。
罰として、フェンス周り5周して来ぃ。」
「…はい。」
腹いせに目だけが笑っとらん笑顔でそう財前に声をかければ、光は真っ直ぐ此方を見つけて小さく頷いた。
「ユウジ先輩も一緒に走りましょ。」
「はぁ?何でやねん。」
「俺が走らなアカンのんはユウジ先輩の所為やもん。それに、」
部長には絶対渡さへんし。
そう遠回しに俺に向けた言葉を吐いて、ユウジのジャージをグイグイと引っ張ってコートから離れる財前。
結局折れて2人で走り出した姿を、俺はジッと見つめとったんやった。
貴様の世界が恨めしい
(何で、俺やないんや)
(11/04)
タイトルは水葬様よりお借りしました\(^O^)/
前々から書いてみたかったネタです。
自分が攻めだと思ってるからお尻狙われてる自覚が全くない無防備なユウジと、そんな無防備なユウジ先輩のお尻の心配を受けなのにしなくちゃいけない光(^q^)
有りだと思います(笑
別にユウジのポジションは謙也でも良かったってゆーね!
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