宣戦布告



 

 おれの後輩でコイビトである光に兄夫婦の息子、つまり甥っ子が居るんは知っとった。
 ちゅうてもお互いに家族の話題はそんな交わした記憶は無いし、せやから甥っ子っちゅうたらもっと小っこくて可愛らしいモンを想像しとったんや。

「あ?ジブン誰?」

「オドレこそどちらさんや。」

 お母さんに呼ばれたらしい光をおとなしゅう光の部屋で待っとったら、いきなしノックもせんとドア開けよった奴。
 俺と目ぇ合うた瞬間に不躾な態度でそう聞かれたから、俺も軽く眉を寄せて問い返した。


「俺は光の兄貴の息子の玲や。んで、そっちは?」

「…光の先輩の一氏ユウジ。」

 そう返しながらも、内心でちょっと吃驚しとったり。
 え、つまりはこの玲とやらは、光の甥っ子っちゅう事やんな…?


「え、ほな年上なん!?
 せやったらタメきいてすんません。光と身長同じ位やったし勘違いしとりました。」

「あ…いや、まぁええよ。」

 コイツ…確かに光の親戚や!さり気なく失礼なとことかごっつそっくりやわ!!

 この玲クンの言うてる事からして、こいつは光と同い歳みたいや。
 年下にしては俺よりタッパあるし…ムカつくな。
 容姿は光をもっと表情豊かにした感じで、髪の毛は謙也よりも明るいパツキン。ピアスは光と同じ数だけ空いとって、着とる制服からして学校は大阪の結構頭ええ私立らしい。

 そんな事を癖で分析しとる俺同様に、玲クンもジロジロと俺を見とるんに気付いた。
 っちゅうかこいつ、ナチュラルに光の部屋入っとんな…いや、普段からそうなんかもしらんけど、わざわざドア閉めとるあたりがふてぶてしくも感じる。

 そう思いつつも光も戻って来んし、ええ加減見られんのが居心地悪なってそれを誤魔化す為に口を開いた。

「えっと、俺そない珍しい面しとる?」

「いや、ちゃいますけど…光が部屋に連れ込んでるて聞いたから、彼女か何かやと思ってたんで。」

 ほしたらただの男の先輩やったらから、正直ちょっと物珍しいんすわ。

 そう続けられた言葉が、少し辛い。

 部活のレギュラーの奴らは皆俺と光の関係を知っとって、軽蔑せんと受け入れてくれとって。
 せやけどその他の人からしたらやっぱ俺らの関係は異常でしかのうて、分かっとったけど改めてそれを思い知らされた。

 反射的に何も言えんと俯き加減になった俺に、玲も何も言葉を発そうとはせん。
 その気まずい沈黙を作ってしもたんが悪い気ぃしてそろりと視線を上げたら、何でか玲の顔がめっちゃドアップであった。
 予想外の出来事に反射的に「うわっ」て声をあげてまいながら後ろに下がったら、玲はそれを気にした様子も無く口だけの謝罪を述べてから問うて来る。

「あ、すんません。ほんでちょっと聞きたいんやけど、あいつ学校でどんなんなんすか?」

「どんなん、て…」

「いや、評判とか。あとあんたの評価も聞いてみたい。」

 興味を宿した瞳を此方に向けてそう言うた玲に、俺は少し逡巡してから口を開いた。

「そやな…テニスでは天才て言われとる。
 その癖めっちゃ生意気。俺ら先輩にまでキモいとか言うし、不貞不貞しいし愛想無いし。」

「……ふぅん、やっぱ光は“天才”なんやな。」

「確かに元から才能はあるけど、光、俺らに見せへんだけで努力しとる。
 せやから何やかんや言うて皆光の事可愛がっとるし、ちゃんとやっとるわ。」

 俺が話しとる途中から途端に瞳の光が消えて無機質な表情になった玲に気付いたけど、何か癪に触ったんかもしらんし言葉を続ける。
 最後に「心配してんねんやったら、安心してくれて大丈夫やで」て言うて笑い掛けて、せやけどまだ無表情な玲が口を開いて何か言おうとした言葉は、光がドアを開けた音によって俺の耳に届く事はあらへんかった。


「ユウジ先輩遅なってすんません……何で玲がおんの?」

「はは、そない嫌そうな顔すんなや。
 光が誰か連れ込んどるみたいやったから、彼女かて思て様子見に来てん。」

 そしたらただの部活の先輩やぁ言うし、しゃあないから光の話して貰とった。
 そう言うてさっきとは何か違和感のある笑顔で笑った玲に、光は相変わらずの無表情のまま肯定のような否定のような言葉を紡ぐ。

「確かに彼女ちゃうけど、俺の誰よりも大切な人やで、ユウジ先輩は。」

「は…」

「なっ、何言うてんねん光!!」

 突然の暴露に慌てて口を挟めば、光の奴はそんな俺を無視しよって「せやからもっと離れろ。ちゅうかジブンの部屋戻れ」なんて明に命令した。

 無視すんなや!てイラッとしつつも、それ以上にこの関係を家族にバラした事に脅えてまう。
 せやけどその何倍も嬉しゅうて、俺は光の言葉を脳裏で反芻してしもて頬に熱が集まってくんが分かった。


「ふぅん…光の“イチバン大切な人”なぁ…」

 そうさっきとはちゃう愉しそうな声色で呟いた玲は、いきなり強い力で俺の顎を掴んで引っ張る。
 ほんで全く無防備にしとった俺は玲に引っ張られるままに明の方に行ってしもて、見開いた瞳に映ったんは2文字の言葉を紡いだ明の唇やった。


「嫌。」

「ンッ」

 そん言葉と共に唇を塞がれて、挙げ句の果てに舌入れようとしとんのか唇を舐められたから、俺は口を固く閉じて1テンポ遅れてから玲の胸を突き飛ばした。


「明、お前…!」

「はは、ごめんごめん。
 天才で皆の人気者の光クンの大切な人やぁ言うから、どこがええんか気になってん」

 そう言うて今にもキレそうな光が俺んとこに駆け寄って来て、玲は自分の唇を舌で舐めてからニヤリと笑うとる。
 光はそんな玲に、滅多に見ぃひん荒げた声をあげた。

「ふざけんなや!とっとと去ね!」

「はいはい分かった。光の滅多に無い姿も見れたし、もう部屋戻るわ。」

 全く反省とかそんなんする気もない、寧ろ嘲笑に似た馬鹿にした微笑みを浮かべて玲は光の言葉を受け流し、部屋から出る直前にこっちを見やった。
 愉しそうに笑っとる瞳と目が合うて、俺はビクリと身体を強ばらせる。

「ほなユウジさん…また今度。」


 それだけ言うてパタンとドアを閉めた玲に、光はまだドアを睨みつけたまま俺をギュッと抱き締めた。

「すんません、ユウジ先輩…玲のやつ、後で殴っときますんで。」

「甥っ子って、光と同い年やねんな…」

「はい。それもあってかアイツ、色々と俺に張り合いたがるんすわ。」

 せやからユウジさんが俺の恋人やって知って、ちょっかいかけたかったんやと思います。
 そう言葉を続けながら光は眉を寄せとって、俺はそないな光を宥めるように何でも無いように笑う。

「そんな気にせんとってや、光。
 何も警戒しとらんかった俺も悪いし、その…光が俺の事大切な人て言うてくれて、めっちゃ嬉しかった…」

 こう言う事言いなれてへんから恥ずかしゅうて段々声を窄めてしもたけど、光が言うてくれた言葉が嬉しかったから、俺も素直に言葉を伝えたかった。


「おおきに。」

 真っ赤になった顔を誤魔化すみたいにへにゃりと笑たら、ちゅっと軽いリップ音を立てて光の唇が俺の唇に吸い付く。
 吃驚して目ぇ見開いたら、光は緩んだ口元を隠す事もせんと微笑んどった。(今日は光の珍しい表情をよく見れる日やな。)

「消毒、っすわ。」

「アホか…。」

 そう悪態突きながらも光の首に手を回してキスをねだれば、光は直ぐに答えてくれる。

 確かに今日は意味分からん玲の行動に混乱させられたけど、そんなん忘れてまいそうな位光が俺の事大切にしてくれてるって感じれて嬉しかった。

……せやけど、玲の事を忘れる事は叶わんかった。



「やほ、ユウジさん。」

「何でオドレが居んねん…玲。」

 その週の金曜日のモノマネライブに、何故か当然のように玲が居った。
 しかも気付いても無視しよと思たら、終わって部活に向かおうとしとる俺を出待ちしとる…。

「何やっとんねんな、ジブン学校は?」

「え、心配してくれとるん?めっちゃ嬉しいっすわぁ。
 せやけど安心して下さい。俺の学校金曜は5限までしか授業無いんすよ。」

「誰がオドレの心配なんかするか!ただ疑問に思っただけじゃい!」

 そう怒鳴って無視して部活に向かうも、玲は相変わらずのヘラヘラした笑みを浮かべたままユウジさんツンデレってやつなんすねぇなんてほざいとる。

 ああもう、ほんまうざいねんけど!ちゅうか俺には光が居る言うとるやろが!!

 周りに人が居らん事を予め確認してからそう怒鳴れば、玲は俺の隣に並びながらやっぱり光に似通った顔をニッコリと歪ませた。

「せやから言うたやないすか。
 俺は光の恋人のアンタに興味がある。ただそれだけや。」

 そんであわよくば奪ったろかなぁみたいな?

 いやいや、みたいな?ちゃうやろ!
 続けられた言葉に思わずそう突っ込んだら、突っ込みに出した手ぇにキスをされた。

「ぎゃああああ何やっとんじゃああ!」

「せやから、宣戦布告っすよ。」

 そう言いながらどっかを楽しそうに見やる玲に倣ってそちらを見れば、そこに居ったんは眉を寄せて不機嫌そうな光。

「…ふざけんな、ユウジ先輩は俺のや。」

「知ってるからこその宣戦布告やん。天才の光やったらそれ位理解せな。
 ほな今日はそれだけにしとくわ。ユウジさんまたなー」

「二度と会いたないわ!」


 その言葉を無視してそれから玲が付きまとうようになるんを、勿論ながら今の俺はまだ知る訳が無かった。



宣戦布告
「ユウジさんちわーす」「(また来よった…!)…おう」「あ、今日は帰れて言わんのですねー、一歩前進?」「帰れ」「光がそう言うならしゃあないからユウジさんと2人っきりで帰るわ」「意味分からんから!」
(その作ったような笑顔の理由を知るんは、)(まだ先の話)



(5/09)






 同じ年の子供と孫(弟)が生まれた事に喜んだ親バカ孫バカブラコンな財前ファミリーによって、双子のようにお揃いの格好・環境で育てられた光と玲。
 けれど小さい頃から何でもそつなくこなす“天才”な光に玲はいつも劣等感を抱いていて、その結果ちょっと?性格が歪んじゃう。
 そんな玲が光の恋人のユウジにちょっかいをかけて、心の闇をあばかれたりだとかユウジの優しい部分に絆されてユウジを本気で好きになっちゃう…みたいな展開が続きます\(^O^)/美奈の脳内では

 あばばばば、文章力無い所為でやけに長い小説になっちゃいましたすみませんorz
 二万打企画的なノリでマイナーCP強化しようと思ってます!是非マイナーをメジャーに!!\(^p^)/←








人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -