愛情補給



 

「ユウジの愛が足りんナリ。」

 部活も引退したし冬休みに入ったんもあって、恋人である仁王が俺ん家に泊まりに来た。

 それは別にええねんけど、俺ん部屋で雑誌とか漫画読みながらゴロゴロしとったら仁王が唐突に言うた言葉。
 それを聞き咎めた俺は、不可解なそん言葉にちょっと眉を寄せながら仁王の方を振り向いた。

「は?何がやねん。」

 愛が足りんて何やねん。
 俺は好きでも無い奴と付き合おなんて微塵も思わんし、仁王やってそん事位分かっとる筈や。
 せやのにそう言うた仁王に問うたら、仁王は去年の誕生日に小春から貰たハート型のクッションを腕に抱いた体勢のまま答える。

「じゃってユウジからキスしてくれた事無か。
 好きじゃって中々言うてくれんし…」

「あ、阿呆か!
 好きなんて簡単に言えるかっちゅーねん!」

 そ、そんなんしゃーないやないか。めっちゃ恥ずいんやもん。(まぁそれは口に出さんけどな。)

 思わず頬を紅潮させてまいつつ反論したら、金色には好きて簡単に言っとるナリ、なんて言葉。

「何言うとんねん、小春は例外やろ。」

「えー。」

「唇尖らしても可愛無いで。」

 不満やとばかりに唇を尖らせる仁王に突っ込めば、仁王はチッと小さく舌打ちを零して抱き締めとったクッションを投げ捨てた。(やっぱ可愛こぶっとるつもりやったんかこいつ。)


「ユウジはケチじゃのぉ。
 ほんなら好きって言うてくれんで良か。そん代わりにユウジからキスしんしゃい。」

「いやいやいや!おかしいやろ!レベル上がっとるやんか!」

「気の所為じゃ。」

「どこがやねん。」

 当たり前みたいに言うなや。

 そう思てギロリと仁王を睨んだら、何を思たんか仁王は目ぇ瞑りよった。え、何?


「ほんなら早よしんしゃい。」

「誰もキスしたるなんて言っとらんがな。」

「ええー…」

 何でそないな露骨に嫌そぉな顔されなアカンねん。寧ろこっちがオドレの言動にええーて言いたいわ。
 好きなんて言わんでも、分かるやろ、そん位。それとも俺は信用出来んっちゅーんか?

 微妙に逆ギレっぽいて理解はしとっても胸中には苛々した気持ちが浮かんどって、そないな自分にも呆れてまう。
 ほんならまるで俺ん気持ちを代弁するみたいに、仁王ははぁぁと溜め息を吐いた。


「んじゃあ、ユウジからキスしてくれるか今からセックスで焦らしプレイするか、どっちか。」

「…妥協したみたいに言うとるけど、またレベル上がっとるで。」

 アカン、突っ込むんに疲れて来てんけど。

 これはもう相手にしとってもただの鼬ごっこにしかならんて悟った俺は、仁王の科白をスルーする事にして開いとった小春に勧めて貰た雑誌のお笑い特集のページに視線を向けた、…んやけど。


「早よぉ、どっち?」

「とか言いながら押し倒そうとする阿呆が居るかい!」

 ちょ、ほんま何やねんなこいつ!

 俺の読んどった雑誌を取り上げて覆い被さって来よった仁王は、俺の抵抗を余所に「どっち?」なんて問うて来よる。
 しかもそう問う仁王の手には前に仁王が持って来て俺ん部屋に置いときよった(そして俺が引き出しに隠した!)ローターが握られとって、仁王やったらほんまに焦らしプレイとやらをヤりかねん。

 一階には普通に家族居るし、そんなんしてバレたらどないすんねん…!


「好き!ほら言うた!言うたんやから早よ退け!」

「そん選択肢は最初に断った時点で無か。
 キスか焦らしプレイ、どっちかに一つじゃ。選びんしゃい。」

「とか言いながら服ん中に手ぇ入れんな……あ、止めぇ…。」

 抗議する俺を受け流していきなりシャツん中に手ぇ伸びて来て、仁王の妖しい手付きに俺はビクリと肩を揺らした。
 仁王は飄々とした声色で、楽しそうに問い掛ける。

「早よ選ばんと、ユウジのエロい声が家族に聞こえるかもしれんのぅ。ええんか?」


――いっつもそうや。

 こいつはどんな時でも飄々としとって、そないな仁王にいつも俺は翻弄されてまう。
 別に愛されてへんとか仁王の阿呆みたいに愛が足りんやとか言いたい訳ちゃうけど、いっつも俺ばっか余裕あらんくて、それが悔しゅうて。

 せやから俺はこいつに対して素直になれへんねん。

 そう思とっても今はそんな意地で家族にバレてまうんは避けなアカンから、俺は内心で歯噛みしつつも同意の言葉を紡いだ。


「、ッ分かったわ、キスするから早よ離せ……ボケッ!」

 そう叫ぶ様に言うたら仁王はさっきまでのしつこさは何やったんやっちゅー位素直に離れて、目ぇ瞑って「ん。」なんて一言。
 ん、て…。何やムカつくなぁて思いつつも約束は約束や。

 何や緊張で変な汗が背中を伝うんを感じつつ、俺は口元を緩く弧にしとる仁王へとゆっくり顔を近付けて行く。


……アカン、むっちゃ恥ずいねんけど。

「ゆーじー?」

「〜〜〜ッ、分かっとるわ!目ぇ瞑っとれ!」

 中々キスしようとせん俺に焦れたんか俺の名前を呼びながらうっすら目ぇ開けた仁王にそう怒鳴って、俺は緊張とか何かよぉ自分でも分からんけど真っ赤になって来とる顔を、ゆっくり仁王に近付ける。
 ほんで腹を括って、ギュッと目ぇ瞑って仁王に唇を押し付けた。

 ちゅっ、なんてえらい可愛らしいリップ音を鳴らせて直ぐに仁王から顔を離せば、仁王は満足げな優しい笑顔を俺に向ける。

「ユウジ、顔真っ赤ナリ。」

「う、うっさい!しゃーないやろ!」

「おう。恥ずかしがり屋さんのユウジにしては上出来じゃ。」

 そう言いながらやっぱりいつもよりもとろけそうな優しい笑顔で頭を撫でて来るから、やっぱり仁王はずるい。
 悪あがきに小声で「ボケ。」なんて悪態をついて、俺は仁王の胸板を軽くしばいたんやった。



愛情補給
(ユウジの前では隠しちょるだけで、いつじゃって俺はおまんに振り回されとるんじゃよ。)
(なんて、絶対に教えてやらんナリ。)



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