Call my name.
一氏ユウジっちゅー人間は、基本的に身近に居る人物の事を下の名前で呼びよる。
現によぉ憎まれ口叩いとる1年の財前の事かて下ん名前で呼んどるし、っちゅーか部員だけやなくて四天宝寺中(うち)の先生の事も皆下ん名前呼びや。
せやけど、それには一人だけ例外が居る。
その例外っちゅーんは
「白石ー!小春見ぃひんかったかー?」
……俺、白石蔵之介の事や。
「ユウジさぁ、何で俺ん事白石って呼ぶん?」
「は?自分の名前は白石やないか。」
昼休み。委員会の仕事でちょお保健室行っとった帰り、小春を探しとるらしいユウジに出くわした。
ほんでこの廊下は殆ど人通らんし、ちょうどええタイミングやったから思ったまんまにそう尋ねたら、ユウジはそれがどないしたんやと言いたげにそう答えよる。
確かに俺は白石やけど、そないな意味で言うとんのちゃうねん。
「いや、やって健二郎んの事は健二郎て呼ぶやん。」
「おう。」
「財前ん事も光やん。」
「、おう。」
…………。
何や、今の無駄な間は。
ちょっと気になりはしたんやけど、話が脱線すんのは頂けへん。
せやからそれを追求する事はせんと、俺は「せやったら、」て言葉を続けた。
「何で俺だけ名字呼びなん?」
「あぁ、そこかいな。」
「おん、そこや。」
「せやかて白石ん事、誰も下の名前で呼んどらんし。」
「小春は蔵リンて呼ぶ時もあんで。」
「、それはそやけど…あだ名やんか、それ。
白石を下ん名前で呼ぶ理由が無い。」
「やってユウジ、皆の事下の名前で呼んでるやん。
せやのに俺だけ名字て、おかしない?」
そう食い下がった俺に、ユウジは訝しげに眉を寄せた。
「…蔵之介って名前、呼ぶん長いねんもん。
っつーか俺、小春探しとんのやけど。」
「蔵、て呼べばええやん。あと小春はさっき先生呼ばれて職員室行きよったで。」
「…自分、さっきからどないしたん?別に苗字呼びでええやないか。」
そうユウジは聞いてきたけど、そんなん簡単。ただユウジに下の名前で呼ばれたいだけや。
他の奴らがユウジに名前呼びなんに、俺だけ苗字呼びとか一人だけ嫌われてんのかっちゅー感じやし。まぁそれは建て前でしか無いんやけどな。
やって、好きな子には名前で呼んで貰いたいやん?
「ほんなら逆に聞くけど、何でユウジはそないに蔵って呼びたないん?」
「それは…」
真剣な表情のままそう聞いた俺に、ユウジは視線を泳がせる。
せやけど俺が「ユウジ。」て諌める様に言うたら、観念した様に口を開いた。
「…やって、白石といっちゃん仲ええ謙也さえ苗字呼びなんに…下の名前で呼ぶとか、何や俺だけ特別みたいやん。」
「、え」
呟くようにユウジの言うた言葉に、俺は思わず目を見開く。
今のはアカンやろ…可愛過ぎるっちゅーねん!
「あーいや、自意識過剰なんは分かってんねんけど。そー言う訳やから、堪忍な。」
気まずそうにユウジはそう口早に言うて、俺小春迎えに行って来るからて言葉を続けて俺の横をすり抜けようとしよる。
せやからそんなユウジの手首を捕まえて、俺は真剣な声色んまま言葉を紡いだ。
「特別て思われてもええ、寧ろ俺は思われたいねん。」
「え…?」
本心のままに紡いでしもた俺の言葉に、キツメの猫目を丸くして見開くユウジ。
そんなユウジがやっぱり可愛らしゅうて、俺は思わず口元を緩ませてまいながら口を開いた。
「ユウジは俺の事、嫌い?」
「き、嫌いやないけど…え、えぇ? しらい」
「蔵。」
「…く、蔵の言い方やったら、何や変な意味に聞こえてまうねんけど。」
そう言うユウジは予想外の状況になんかむっちゃ顔が赤なっとって、俺は緩んだ口元を自然に弧に歪ませて微笑んどった。
「特別って、そんままの意味なんやけど。
俺はユウジが好きやねん。せやから、名前で呼んで欲しいて思てんねん。」
「、ッ…。」
拒絶する訳でもなく、受け入れる訳でもなく、ユウジは戸惑った様に視線を揺らす。
これ以上言うたらユウジの事困らしてまうな、て思ったから、俺は言い募る事はせんと掴んどったユウジの手首を離した。
「もうそろそろ予鈴なるし、小春迎えに行って来ぃ。
返事は急かすつもり無いし、俺がユウジん事好きやって事だけは分かっとってな。」
「…………。」
ほな、て続けて踵を返した俺の背後から聞こえたユウジの呟いた言葉に、俺は思わず小さく笑った。
Call my name.
「分かったわ、蔵…。」
(12/07)
ペアプリにて発覚したユウジの公式「蔵」呼び記念に(^^)
Call my name.でシリーズ化しちゃおうかな…千歳とか財前版でさ!
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