25


 夕食が終わってもテーブルに齧り付いている2人を置いて、シャルルとドラコは談話室に戻ってきた。
「純血」
 透き通る硬質なブルーの声が石壁に反響し、扉が現れる。「いい合言葉だわ」「ずっとこれでいいのに」ドラコがうなずいた。
 防衛面の影響で、純血という言葉は年に数回しか使われない。わざわざスリザリン生のはびこる湖近くの地下回廊にやってくる他寮生は滅多にいないのだから、そんなに頻繁に変えなくてもいいのに。

 煌々と燃える暖炉の前に座り、レイジーがアフター・ディナー・ティーの準備を始めた。スリザリンに入ってからお決まりになった友人同士の習慣で、たいていはドラコ達とパンジーが楽しんでいるが、シャルルやダフネ、セオドールもたまに参加していた。
 洒落た雰囲気を重視するザビニも違う場所──よく集まっているのは湖がよく見える窓際の大きなソファ──でお茶を楽しんでいるのを見かける。シャルルはあまり参加したことは無いが、ザビニとの交流をもっと深めるために、ザビニの派閥にも近付いた方がいいかもしれない。

 繊細なカップからアップルのフレーバード・ティーの湯気がくゆっている。ゴイルとクラッブを待ちながら、シャルルは課題の資料を広げ、ドラコはソファに背中を緩く預けて届いたばかりの手紙を開いた。
「2人、遅いわね」
「ああ……いつまで食べてるんだか」
 興味の無さそうに答えたドラコが、突然「ブハッ!」と吹き出して身体を起こした。腰を折って「なんて愉快なんだ!クッ……」と震えている。
「どうしたの?」シャルルは呆気に取られた。ドラコは手を挙げて制止し、食い入るように新聞の切り抜きを眺めた。少し待っても彼は紙面から目を離さない。シャルルが溜息を着くと、
「いや、すまない。あまりにも笑えるものでね……フハッ!これはあいつらにも共有してやった方がいいな。戻るまで少し待ってくれ」ともったいつけた。ドラコのプルプル口元を引き攣らせる横顔を胡乱に睨む。
「いちいち気になる物言いをするんだから……」
「父上の薫陶の賜物だよ。君はせっかちだから分からないかもしれないけど」
「わたしはスマートな結果を好むのよ」
 ザビニにも言われたことを、小さな蛇に指摘されてうんざりする。ドラコはうずうずしていた。しばらく待っても2人は戻ってこない。
 痺れを切らした彼が「迎えに行ってくる」と立ち上がった時、ようやく談話室に2人が現れた。

「遅かったじゃないか……って」
 にこやかなドラコの顔が怪訝に固まった。大柄な2人の後ろから、おずおずと小柄な影が現れた。
「トレイシー?帰ったんじゃなかったの?」シャルルも素っ頓狂な声をあげた。
「用事を思い出して戻ってきたの」
 素っ気なくトレイシーが肩を竦めた。
「用事って?」
「家の関係で少しね。もう済んだから気にしないでちょうだい」
 なんてことの無い澄ました声音で、しかし踏み入らせないような態度でトレイシーが笑い、ドラコの隣に腰を下ろした。突っ立っている2人はドラコに促されて、モゴモゴしながら向かいのソファに座った。
 戸惑うシャルルとドラコに、トレイシーは「本当に気にすることないわ、それより何を話してたの?」と話を振った。彼女は何か凛とした空気をしていて、それ以上尋ねるのは気が引けたが、シャルルは妙な違和感に囚われた。しかしドラコが喜色を浮かべ、楽しそうに「実は見せたいものがあるんだ。父上が送ってくれたばかりでね──」と話し始め、シャルルの意識もそっちに持っていかれた。

 ドラコがテーブルの真ん中に日刊予言者新聞の切り抜きを置いて、シャルル達は覗き込んだ。記事にはこう書かれている。

【魔法省での尋問】
 マグル製品不正使用取締局、局長のアーサー・ウィーズリー氏は、マグルの自動車に魔法をかけた廉で、本日、金貨五十ガリオンの罰金を言い渡された。ホグワーツ魔法魔術学校の理事の一人、ルシウス・マルフォイ氏は、本日、ウィーズリー氏の辞任を要求した。

「まぁ!」口から驚きが漏れる。
 アーサー・ウィーズリー氏の記事だ。ルシウス氏のコメントも載っている。ドラコは満足そうにニヤニヤしているが、シャルルは同情してしまった。ただでさえ貧乏で子沢山で名誉もないのに、50ガリオンの罰金だなんて、さらに生活が苦しくなってしまうだろう。もしルシウス氏の要求通りに魔法省の辞任なんて結果になったら、路頭に迷うことは確実だ。
 ゴイルとクラッブは記事が理解出来ないのか当惑した目付きをしているが、トレイシーは目を見開いている。

「どうだ?」ドラコが急かした。「笑えるだろ?」
 クラッブとゴイルが笑った。いつもより控えめな笑い声だったような気がするのは、気のせいかもしれない。トレイシーも「ほんと、最高に笑えるわ」と肩を揺らした。シャルルにはその顔が無理をしているように見えた。
 違和感を探るよりも前に、ドラコが蔑んだ声で言った言葉に気を取られ、顔を上げる。

「アーサー・ウィーズリーはあれほどマグル贔屓なんだから、杖を真っ二つにへし折ってマグルの仲間に入ればいい」
 ムッと眉が寄る。
「杖を折るだなんて、あまりにも侮辱的よ。ちょっとした法律違反くらいで……」反論すると、うんざりしたようにドラコが眉を跳ね上げさせてわざとらしい溜息をついた。
「また君のお決まりのあれかい?君は血を裏切る者にも大層寛容なようだからねぇ?」
「彼は聖28一族だわ。ちゃんとした魔法族の誇りを持ってるはずよ」
「あいつのどこをどう見たらそう思えるんだ?」
「だって、本当にマグルを尊重する気があるならもっとやりようがあるでしょ?彼はちょっと自分の知らない文化を突っついて、面白いおもちゃをいじくってみたいだけよ」
 彼がつまらなさそうに鼻を鳴らす。

「それが問題なんだ。ウィーズリーの連中の行動を見てみろ。ほんとに純血かどうか怪しいもんだ」
「ドラコ!」
 シャルルは非難の声を上げた。思想や好奇心がちょっと純血らしくないからといって、きちんとした血筋を軽んじるなんて!
 いつもならここで、クラッブとゴイルが笑うところだったが、クラッブの顔が大きく歪んでいた。
「クラッブ、どうかしたか?」不機嫌なドラコがぶっきらぼうに問いかける。
「腹が……痛くて」
「ああ、それなら医務室に行け。あそこにいる穢れた血を僕からだと言って蹴飛ばしてやればいい」
 嘲笑的にクスクス笑う。しかしやっぱりゴイルもトレイシーも追従しない。彼は気にしていないようだが、シャルルはトレイシーの様子が気になった。

「しかし、モリー・ウィーズリーの品の無さには笑えるな。家のグールをけしかけると来たもんだ」
「グールって本では読んだことあったけど、本当に屋根裏に居着くのね。うちにはいるのかしら?見たことないけれど」
「そりゃあいるはずないじゃないか?」ドラコは不機嫌も吹っ飛んでせせら笑った。
「僕たちのような、きちんと手入れされた屋敷にそんな生き物が住み着く隙はないよ。ウィーズリーの犬小屋は、狭っ苦しい上に、屋敷の管理も満足にできないほど小汚いんだろうさ。あの家の子供を見れば一目瞭然だろ?」
「ハウスエルフが怠慢だってこと?信じられないわ、首になってもおかしくないわよ」
「何言ってるんだよ。あの家にハウスエルフを雇う余裕があるもんか」
 シャルルは数秒理解に時間を要して、愕然とした。そうか、考えが及ばなかった。ウィーズリー家は貧しいから、ハウスエルフがいないのだ。魔法族の古い家には彼らがいるのが当たり前だったから、ウィーズリーも同じだと無意識に思っていた。
「あんなに長い歴史を持つ家だからてっきり……。それじゃあもしかして、ウィーズリー夫人は使用人の仕事を自分でやってるのかしら」
 食事作りや洗濯、掃除、子育て、子供たちの教育や躾、その他もろもろの雑用を?
「何を今更。あいつらの着ている服と来たらボロみたいなのばっかりで、教科書や杖もお下がりだ。双子なんかが学校で小遣い稼ぎしなきゃロクに暮らせもしないんだぞ」
「そこまで困窮していたなんて……。それじゃ、今回の罰金は本当に致命的じゃない。可哀想だわ」
「身から出た錆だね。父親が愚かじゃなければもっと魔法省でいいポジションにつけただろうに。大っぴらにマグル愛好を口にして孤立して、そのとばっちりを子供が受けてるんだから、全く大した父親だよ」
「たしかにそうね……。自分の趣味に子供を付き合わせるのは、賢明とは言えないわね」
「だろう?その上マグル保護法だとかいう馬鹿げた起草案を提出してるらしいじゃないか。父上は休みの間ずっとそれについて愚痴ってたよ」

 それはヨシュアも話していたことがある。仕事の話は基本シャルルに聞かせてくれないが、仕事相手の人と暖炉や連絡用の鏡で話しているのや、アナスタシアと話しているのを耳にしていた。
 マグル保護法。嫌悪感を掻き立てる響きだ。
 提出者がウィーズリー氏だということを、シャルルは今初めて知った。

「マグル保護法って一体何なのかしら?ただでさえ魔法族はマグルから身を潜めて肩身の狭い生活を強いられているのに、さらにマグルを『保護』してさし上げるのかしら?」
 厭わしさに軽蔑的な声音になる。ドラコが嬉しそうな顔をした。アーサー・ウィーズリーがいくらマグルを好きでも、個人の趣味の範疇なら好きにしたらいい。でも魔法族に押し付けるのは顰蹙を買って当然だ。
 ふと横から強い視線を感じた。トレイシーが、怒りとも、悲しみともつかない表情でシャルルを睨んでいる。
「トレイシー?」困惑して尋ねると、彼女はハッとして頷いた。
「その通りね、シャルル。ウィーズリー氏は何をお考えなのかしら」
「お考え?」
「いえ、その……つまり、さすが素晴らしい法案をお考えになってくださったことだわね。そうでしょ?」
 痛烈な皮肉にシャルルは上品に口を抑えた。「まったくね」

「まぁでもこの法案が通るのはありえないだろうね。父上が動いているし……」
 語尾を途切れさせたドラコの言葉をシャルルが引き継ぐ。
「お父様も当然許さないわ。お父様は法執行部に顔が効くのよ」
「ファッジも名家の支持を失ってまで可決することはない」
 ドラコとシャルルは満足そうに微笑み合った。

「それにしても、日刊予言者新聞がこれまでの事件を報道していないのには驚くよ」
 この話題はスリザリンの中で何回も繰り返されていることだった。
「高潔なダンブルドア校長は、よっぽど保身が大切なようね。生徒の安全や正しい情報より自分の方が可愛いだなんて、素敵な騎士道精神だわ」
 シャルルは上品に紅茶に口をつけた。世間的にダンブルドアはまさしくグリフィンドール的な素晴らしい正義感を持った人物だと思われているが、彼はむしろスリザリン的だと感じる。去年、シャルルの憎悪の視線を面白そうに受け止めて見下した時の態度や、政治的手腕、自分をよく見せることの出来る人脈と名声、白々しさ。非常に狡猾であることは疑いようがない。
 ダンブルドアのことは大嫌いだが、その狡猾さと知性は好ましい要素だ。そしてだからこそ、その偽善者っぷりと、好々爺っぷりの面の厚さに嫌悪感を感じてしまうのだが。

 ドラコが考え深げに言った。
「いい加減、こんなことがすぐお終いにならないと、校長の座にしがみ続けられなくなると分からないものだろうかねぇ?父上は常々ダンブルドアはホグワーツの癌だと仰る。彼はマグル贔屓だ。きちんとした校長なら、あんなクリービーみたいなクズのおべんちゃらを入学させたりしない」
「クリービー?」
「石になった穢れた血さ!ポッターの周りをいつもうろついてるチビだよ」
「ああ、サイン入りの写真?」
 別に皮肉や嘲笑の意図はなく、クリービーとやらで聞き覚えがある騒動がそれだったので言っただけだけれど、ドラコは喜びを顔にみなぎらせ、生き生きとカメラを構える仕草をした。

「ポッター、写真を撮ってもいいかい?ポッター、サインをもらえるかい?君の靴を舐めてもいいかい?ポッター?」
 シャルルは思わず突き飛ばされたような笑い声をあげた。淑女らしくあろうとなんとか口を抑えるが、しつこく喉のところでくつくつ笑いが溢れた。
「君がそこまで笑うなんて珍しいな……。そ、そんなに今のが面白かったか?」
 照れ臭そうにドラコがしおらしくなった。それを見てシャルルはますますクスクスした。
「だって、似てるのもそうだけど……」シャルルは目尻を拭った。
「あなたがモノマネするって、なんだかおかしくって。意外とノリがいいわよね……ふふっ」
「おい、バカにしてるだろ?」
「いやだわ、そんなことない。ただかわいいわねって」
「かっ……」絶句して、火がついたように赤くなった。シャルルを睨んでも、未だに彼女は笑っている。理由がどうであれ、シャルルの笑いのツボに入ったのは嬉しいし、照れ臭いが、その理由が子供扱いのようで気に食わず、ドラコは複雑な感情で拗ねたように溜息をついた。

「まったく……。それより継承者の件だ」
 気を取り直して、ドラコはコホンと場を沈黙させるパフォーマンスをした。ゆっくりと厳かそうな声を作る。

「聖ポッター……穢れた血の友」

 シャルルもトレイシーも、じっと自分を見つめるのに満足し、ドラコは続ける。
「あいつもマトモな感性なんか持っていない。でなければ、あの身の程知らずのグレンジャーなんかと付き合ったりするものか。それなのに、皆あいつが継承者だと考えている」
「子供というのは視野が狭いから、仕方ないわ」
 自分も子供のくせに、妙に悟ったふうな表情でシャルルが同意した。
「ポッターの交友関係を見れば、彼が反純血主義思想を持つのは分かりきっているし、その上彼の両親は……。少し考えたら分からないものかしらね」
 同情的なシャルルにドラコが鼻を鳴らした。
「僕はポッターがスリザリンの末裔だという意見もどうか分かりゃしないと思うけどね」
「ポッターはパーセルタングを話したわ!それだけで、サラザール様の尊い血をどこかで継いでいるという根拠になり得るわよ」
 ウンザリと首を振る。「君とその件について議論する気は無い。だが、継承者がポッター以外にいるという結論を同じくするのは変わらない」
「そうね……」
「はぁ、一体誰が継承者なのか、僕たちが知っていたらなあ。喜んで協力を申し出るのに」
 シャルルは深く首肯した。ホグワーツの生徒を襲撃するかは別としても、その血筋や目的をもっと直接的に手助け出来るかもしれない。その時、ずっと黙っていたゴイルが口を挟んだ。

「誰が陰で糸を引いているのか、君に考えがあるんだろう──?」

 シャルルは奇妙な表情でゴイルを見つめた。彼にしては、なにか、知性のある言い回しだと思ったのだが……ドラコは気にした風もなく素っ気なく答えた。
「いや、ない。ゴイル、何度も同じことを言わせるな」
 この件に関して、3人は何回か話し合っていたらしい。
 ドラコはチラッとシャルルを見て、唇をニッと釣り上げた。
「だがシャルル、新しい情報は父上から手に入れたぞ」
「ほんとう!?」
 シャルルは途端に目を輝かせて、ドラコの顔にくっつきそうな程前のめりになった。バラ色の頬と潤んだ瞳にパッと顔を逸らし、動揺を隠すようにいかめしい表情を作る。

「どうやら、秘密の部屋が開かれたのは初めてではないらしい。でも詳細については、前回部屋が開かれた時のことも、まったく話してくださらないんだ」
「以前にもサラザール様の末裔が?」
「おそらくはね」
 ヨシュアはシャルルに本当にまったく情報をくれない。情報を握るとまるで危険がシャルルを攫ってしまうかのように、口を閉ざし、シャルルを無知でいさせようとする。
 だから、部屋についてわずかでも新しい情報が得られたことに、ゆっくりと興奮が広がっていく感覚がした。

「もっとも50年前だから、父上の前の時代だ。でも、父上はすべてご存知だし、すべてが沈黙させられているから、僕がそのことを知りすぎていると怪しまれるとおっしゃるんだ。でも、一つだけ知っている。以前秘密の部屋が開かれた時、穢れた血が一人死んだ。だから、今度も時間の問題だ。あいつらのうち誰かが殺される。グレンジャーだといいのに」
 ドラコは残酷な表情で唇を舐めた。
「50年前……」
 自分の中で、何かが引っかかってシャルルは呟いた。何かがもう少しで、点と点で繋がりそうな気がする。

「前に部屋を開けた人はどうなったの?逮捕されたの?今も生きているかしら?」
 早口でトレイシーが質問した。彼女の顔は緑色の照明に照らされて青ざめて見えた。
「ああ、ウン……誰だったにせよ、追放された。たぶんまだアズカバンにいるだろう」
「アズカバン?」
 ギョッとしてシャルルとドラコはゴイルを見つめた。「アズカバン──魔法使いの牢獄だ」ドラコの顔は、信じられない、と物語っているが無理もない。シャルルも信じられなかった。だってゴイルとクラッブの父親は、ルシウス氏と同じ……。去年の件を受けて、図書室で過去の新聞の記事や、当時の情勢や、疑いのあった『例のあの人関連』のことを少しずつ調べている。ノットからも話は聞いていた。彼らは自分の父親のことを知らないのだろうか。一歩間違えば今頃アズカバンにいたかもしれないのに。

「何にしても、50年前ホグワーツで生徒が死んだなら、調べようはあるはずよね。でも、あんまり詮索していて、継承者が気分を害したりしないといいんだけど」
 自分だったら、ウロチョロつついてくる散策好きの輩にいい気はしないということに思いついて、シャルルは弱気になった。
「シャルルは……」トレイシーが緊張したように唇を舐めた。「シャルルは継承者を見つけてどうしたいの?マグル生まれを殺すのを手伝いたいと思ってるの?」
「うーん、それはどうかしらね」
 ドラコもトレイシーもきょとんとした。少し罰が悪くなる。
「もちろん、継承者を邪魔するつもりなんかないのよ?でも、石にするにしても、殺すにしても、このままじゃホグワーツはいずれ閉鎖だし、怖がってマグル生まれの生徒なんかは戻ってこないかもしれないわ」
「別に大歓迎じゃないか。何が問題なんだ?」
「そりゃ、短期的に血の粛清は出来るけど、魔法界に居場所が無くなったマグル生まれが、マグルと結婚するかもしれないわ。そしたら結局、魔法族の血が穢れた血に混じることになっちゃう」
 ドラコは釈然としていない様子だ。魔法族がマグルに混じって血を交わしたら、結局マグル生まれの生徒が増えるだけで、本末転倒だとシャルルは思う。
「それにダンブルドアの監視の中で、ここまで派手に行動するのは危険だわ。もっと有意義な暗躍の仕方があると思うの」
「例えば?シャルルはどう考えてるの?」
「そうね……。例えばもっと穢らわしい存在……デミヒューマンを先に襲うとか……もしホグワーツの怪物が外にも出れるなら、マグルの世界に放すとか?」
 大したことは思い浮かばないわね、とシャルルははにかんだ。もちろん継承者も色々考えた上で行動しているのだろうし、ホグワーツに拘るのも理由があるのだろうから、自分のような無知な子供が偉そうに言える立場ではない。気恥ずかしくなって肩をすぼめるのを、トレイシーが愕然と見つめていた。
「……ゾッとするわ……」トレイシーが小さく何かを呟いた。
「えっ?」
 聞き返したが、彼女はパッと俯いた。

「どっちにしろ、継承者が分からないんじゃ、何もしようがない」ドラコが言う。

「父上は、僕は目立たず、継承者には好きなようにやらせていろと仰るんだ。この学校に穢れた血の粛清は必要なことだって。でも関わり合いにはなるなってね。それに父上は今お忙しい。ほら、魔法省が先週館の立ち入り調査をしただろ?」
 ドラコは少し不安そうに体を揺らした。結果が良くなかったのだろうか。ルシウス氏の政治的手腕は確かなはずだし、魔法省にも絶大な影響力を持っているはずだけれど……。
 背中に手を置いて、シャルルは寄り添った。
「調査は大丈夫だったの?」
「ああ、もちろんだ。大したものは見つからなかった。充分揉み消せる範囲のものしか……父上は非常に貴重な闇の魔術の道具をいくつも持っているんだ。応接間の床下に、我が家の秘密の部屋があって──」
「ホー!」
 突然、嬉しそうな声が響いた。

 そしてクラッブとゴイルが立ち上がって走り出した。「おい、どうした!?」ドラコの怒鳴り声に、「胃薬だ」と怒鳴り声が帰ってきて、「2人を医務室に連れていくわね」とトレイシーもバタバタと追いかけて行った。
 その場に残されたドラコとシャルルは、呆気に取られて顔を見合わせた。
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