:: カニ雑炊
2021.09.07 (Tue) 21:24

はるか「けほっけほっ」

綾子「なかなか熱が下がらないわねえ、遥大丈夫? おかゆ食べましょ」

はるか「いらない…」

綾子「少しでも食べないとお薬飲めないから、ね?」

はるか「くすりもいやだ」

綾子「困ったわね、うどんは嫌いでしょう? おかゆもダメなら…あ、そうだわ。カニの雑炊とかどう?」

はるか「かに…?の、なに?」

綾子「雑炊よ、カニの味がついたおかゆ」

はるか「(なんだおかゆか…)」

綾子「ちょっと待っててね、作ってくるから」

ーーー

綾子「はいどうぞ」

はるか「(かにのにおい…)クンクン」

ぱくっ

はるか「! ふーっ、ぱくぱく」

綾子「あら、気に入ってくれた? よかったわぁ」

はるか「(かにのあじだ。おいしい…)パクパク」

綾子「食べたらお薬飲んでね」


[1年後]

はるか「けほっけほっ」

綾子「卵がゆにしましょうか」

はるか「……かには?」

綾子「えっ?」

はるか「かにの、おかゆは?」

綾子「あ、ごめんなさいね。カニは今無いのよ」

はるか「かにが、よかった…」

綾子「じゃあカニの缶詰で作るから、ね」

ーーー

はるか「パクパク……(あれ…なんかちがう…?)」

綾子「どう?」

はるか「(しんぱいそうなかお…)うん…おいしい」

綾子「よかった、まだあるからゆっくり食べてね。学校のみんなも心配してるって、先生仰ってたわよ」

はるか「うん…」


[n年後]

遥「けほっけほっ」

湊「んー、なかなか微熱から下がらないな。大丈夫か?」

遥「大丈夫じゃない…」

湊「お昼どうする? うどんとおかゆ飽きてきただろ?」

遥「……カニ」

湊「え?」

遥「カニ…雑炊」

湊「カニ雑炊? どしたの、急に( ゜Д゜)」

遥「嫌ならいい(プイッ」

湊「ちょ、拗ねない! なに、料理番組とかで見たの? 珍しいじゃん」

遥「思い出しただけだ」

ーーー

湊「へー。子供の頃 綾さんに作ってもらったんだ、納得。でも不思議だな、最初食べた時と次食べた時で味が違うって。やっぱ初回のが旨かったの?」

遥「ん」

湊「俺、カニ雑炊って作ったことないからたぶんさらに違う味になるぞ。よし、綾さんに電話して聞いてこよ」

遥「そこまでしなくていい(T_T)」

湊「えーなんで、このタイミングで思い出したってことは絶対未練があるんだよ。遥の中のおこちゃま遥が食べたいって言ってるの」

遥「そんなのいない(怒)」

湊「とりあえず電話しよ。遥は寝ててな」

バタン

湊「もしもし小宮です。ちょっとお聞きしたいんですけど、遥が子供の頃 風邪で寝込んだ時、綾さんカニ雑炊って作りました?」

綾子『カニ雑炊? そうねえ…そう言われれば作ったような気もするけれど…』

湊「どんな味付けだったとか、何を入れたかとか教えてもらえませんか?」

綾子『ええと、雑炊ならたぶんお出汁かしら。でも他に何を入れたか、全然覚えてないのよ。ごめんなさいね』

湊「いえいえ、大丈夫です。じゃあ出汁のことだけひとまず…」

綾子『ええ。もしかして遥、寝込んでいるの?』

湊「風邪で熱は下がってきたんですけど、ちょっと長引いてるみたいで」

綾子『そう…小宮くんにはいつもお世話になってばかりだわ』

湊「気にしないでください、好きでお世話してるんで(笑)」

綾子『まあ(笑) すみませんけど、遥をよろしくね』

ーーー

湊「ってわけで、綾さんのお出汁と卵とカニ缶で作った試作品です!」

ほこほこ

遥「(うまそう…)」

湊「ふーふー、はいあーん(^q^)」

遥「やめろ(T_T)」

ぱく

湊「どう?」

遥「…ちがう」

湊「うーん、やっぱり違うかぁ」

遥「パクパク」

湊「大丈夫? 食べられる?」

遥「別にまずいわけじゃない」

湊「むう。こうなったら意地でもおこちゃま遥を納得させてみせるぞ!」

遥「別にもういい」

湊「やだ! 遥専属料理人のプライドがあるもん( ・`д・´)」

遥「(T_T)……」

ーーー

湊「ひとつ気になったんだけど。2回目の時、カニ雑炊を所望した遥に綾さんは『カニは今無いのよ』って言ったんだろ? でもその後『カニの缶詰で作る』って言ってるじゃん、おかしくない?」

遥「確かに…」

湊「たしwwカニwww'`,、('∀`) '`,、」

遥「! そういう意味じゃない!( ゚皿゚)」

湊「げほっw だ、だからさ、つまり、1回目のカニと2回目のカニはそもそも別物なんだよ。2回目が缶詰なら1回目は、」

遥「本物の、カニ…」

湊「そう、本物もしくは本物の冷凍とか、缶詰より上等なカニだったんだ。おこちゃま遥がカニの風味を感じ取ってるなら、少なくともカニカマじゃないだろうし」

遥「カニなんて…なんで家にあったんだ」

湊「さあ、もらいものとか? そうとくれば、連絡先は違ってくるな」

prrrr

佳『あー小宮、今無理、アニメの、ぐすっ、最終回がね、佳境でっ…ぐふえええ(号泣)』

湊「遥の風邪も佳境なんだけど」

佳『はああぁ!? 何それ早く言ってよ(PC閉じる)』

湊「いきなりだけどカニ持ってない?」

佳『カニ? あるけど』

湊「あんのかよ!!!」

佳『お兄ちゃんから冷凍で送られてきたから、今夜辺り隣に押し掛けてかりんちゃんとカニしゃぶでもしようかって…なに、欲しいの?』

湊「遥が食べたがってる」

佳『よーし見舞いがてら持ってくわ! ほんとはあんたたちの分も来週届くからそん時にって思ったけど、風邪の遥ちゃんはほっとけない! すぐ行ったるわああ!!!』

ガチャ

遥「持ってたのか…;」

湊「まさかマジで持ってるとは思わなかった、ダメなら夏風にかけるつもりだったのに。でっかいどうに感謝しなきゃな」

prrrr

綾子『小宮くん、少しだけど思い出したの、雑炊のこと』

湊「えっほんとですか!」

綾子『確かそう、あの時 ご近所さんから冷凍のカニを頂いたのよ』

湊「やっぱり本物のカニで作ってたんですね」

綾子『そう、それで卵と、お出汁と…』

湊「わかりました! メモしますから詳しく…」

ーーー

佳「あいよ(ドサッ」

湊「脚だけかと思ったら毛ガニの姿そのまま…!」

佳「脚だけなんて誰も言ってないじゃん、ほれほれ雑炊作りなさい」

湊「正直こんないいやつで雑炊作るのもったいないけど…背に腹は変えられないしな」

ひょこっ

佳「遥ちゃん具合どう? みかんゼリー後で食べてね」

遥「ゼリーまで、買ってきてくれたのか」

湊「てか毛ガニ抱えたままファミマ寄ってきたのかよ;」

佳「そりゃ遥ちゃんが一大事って言うからさぁ」

パキッパキッ

湊「ボイルしてあるから脚をもいで身をほぐして…」

ーーー

湊「よーしできた! 綾さんのレシピもコピーしたし、これならいけるだろ!」

佳「はい味見! うまっ! 優しいお味でどんぶり2杯くらいいけそう!」

湊「なんで元気な奴が食べる前提なんだよ; できたよ遥ー」

遥「(クンクン……」

ぱくっ

遥「! ………に、てる」

湊「似てる? ってことは、これでも違うのかー。うーん、どこらへんが違う? 匂い?」

遥「もっと、匂いがした」

湊「味は?」

遥「これより、濃い味だった…気がする」

湊「むー、塩加減はこれで合ってるはずなんだけどな。コクがないってことか?」

佳「充分うまいけどねえ(パクパク」

湊「何かが余計ってよりは、何かが足りないって感じ?」

遥「ん」

湊「足りない…むーん」

遥「もう、いい」

湊「やだ」

遥「子供の記憶なんて、あてにならないだろ…」

湊「そんなことない。おこちゃま遥の舌を満足させてやるもん」

バタン

遥「(T_T)」

佳「いーのいーの、遥ちゃん喜ばせたいだけなんだからさ、好きにさせとこ( ˘ω˘ ) どーれあたしはこっちの日本酒で一杯やろうかな、小宮につまみもらってこよ」

湊「むううう…もうちょっとなのに」

佳「小宮ー、日本酒のアテにこれちょーだい」

湊「え、ああ…ああああ!?」

佳「えっなによびっくりした」

湊「もしかして…」

バタバタ

遥「うるさい」

湊「この、魔法の調味料をほんの少し雑炊に入れます」

とろっ

湊「混ぜます」

くるくる

湊「食べて」

ぱくっ

遥「?…………! これ…!!」

湊「どう? 当たった?」

遥「なんで……今、何入れた…」

湊「綾さんのレシピには書いてなかったんだ、カニみそ」

遥「カニ、みそ……?」

ーーー

[n年前]

あきら「おばーちゃんこれカニー? すごーいカニだー」

綾子「後で食べましょうね。ほら、雑炊を作ったのよ。これを遥に食べさせてから」

あきら「えーあいつまだなおんないの? もうみっかもやすんでんじゃん、いーなー」

綾子「何言ってるの、風邪で苦しい思いをしてまでお休みしたくないでしょう?」

あきら「こっちのはなに? どろ?」

綾子「それはカニみそ。おじいちゃんが好きだったから、仏壇にちょっとだけお供えしようと思って」

あきら「うわー、まずそう」

ピンポーン

綾子「あら、回覧板かしら。はーい今出ます」

あきら「…でもまずいものなら、たぶんからだにいいんだろうなー。くすりとおんなじで」

あきら「おじいちゃん、しんでるんだからそんなにたべないでしょ? はるかにちょーだい」

(いいよ)

あきら「いっぱいいれるときづかれるから、ちょこっとだけ。ぱく……うん、ばれないばれない」

綾子「あらもう、遥のなんだからダメよ、食べちゃ」

あきら「えへへー」

ーーー

遥「(ん……夢か…?)」

はるか「パクパク」

遥「!!」

はるか「ふーふー、パクパク」

遥「………」

はるか「かに、おいしい」

遥「……俺はもう充分食べた。後はお前が食べろ」

はるか「うん。……がっこう、たのしい?」

遥「…まぁまぁ」

はるか「おうち、たのしい?」

遥「うるさいのがいて、退屈しない」

はるか「…じゃ、もう、やすまなくてもいい?」

遥「これ以上休んだら、あいつがまた騒ぐ」

はるか「おきたら、ありがとって、つたえて…」

ーーー

遥「(熱が、下がってる…)」

湊「おはよー。お、顔色良くなったな(^q^)」

遥「腹減った」

湊「昨日のまだあるよ。あとほら、ルシのみかんゼリーも」

ぱくっ

遥「……うまい」

湊「へへ、なんせ俺は遥専属の料理人だからね( ˘ω˘ )ドヤァ」

遥「(変な奴…丸二日も棒に振ったくせに)」

遥「(礼なんか、誰が言ってやるか)」


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