さよならは知らないまま | ナノ
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 二学期が始まってすぐ、LHRで二度目の席替えが行われた。引いたクジで当たった席は真ん中後方。左隣が宮くんだった。

「よお」
「どうも」

 手上げる宮くんに会釈で返す。「サラリーマンか」という呟きに、たしかになと口には出さずに思う。
 席替えが終わると、そのまま体育祭の説明が始まった。
 一年生は徒競走か障害物リレーのどちらかを選び、全員参加で大縄跳び。運動が得意とは決して言えない私には、どれも憂鬱だ。
 ただ走るだけの徒競走ではなく、あえて障害物リレーを選んだ。走る距離は短いし、障害物が加わることによって遅くてもさほど気にならない、という希望的観測だ。
 障害物リレーで何の種目を選ぶか希望が取られ、私は網くぐりを希望した。麻袋に入って跳ねながら進んだり、ボールをドリブルしながら走るより、網をくぐればいいだけ。
 幸いにも私の希望は通った。その他の種目もジャンケンにより人数の振り分けが始まり、該当者が固まって拳や手のひらや二本指で戦っている。

「まだ走ってもおらんのに、もう疲れた顔しとるな」

 憂鬱な私に、隣の宮くんが気づく。宮くんも障害物リレーのドリブルを選び、すんなりと決まったので席を立つこともなかった。足が速いので徒競走に出るかと思いきや、クラス対抗リレーだけでなく、全校選抜リレーの方にも出るから、徒競走は出られないらしい。

「走るの遅いから、できれば走りたくない」
「遅いのはどうにもならんな。縄跳びはできるやろ。跳ぶだけや」
「プレッシャーがね」

 もし自分が失敗したらそこでカウントは止まる。その瞬間を想像するだけで背筋が冷えた。制限時間内に跳べた回数の合計を競うので何度も挑戦はできるけど、やっぱり長く跳ばなければ数は稼げない。
 縄の端の方だと跳んだときにしっかり脚を上げないといけないから、できれば高さにまだ余裕のある真ん中に近い方がいい。でもその辺りは背の高い人が優先されるから、私は入れてもらえないだろう。

「宮くんは高く跳びそうだね」
「そらバレーやっとるからな」
「でも頭が縄に引っかかりそう」
「せやから下も上も気にしなあかん」

 背が高い人にもそれなりの苦労があるらしい。女子の平均身長を越えたところで止まった私には縁のない悩みだ。

「回し手の人と替わってもらったら?」

 大変そうなら、いっそ回す方になればいいのではないか。うちのクラスの回し手はバスケ部の野田くんと山下くん。背が高い人がいいということで、クラスで一番高い野田くんが推薦され、息を合わせるには同じバスケ部がいいだろうと山下くんが選ばれた。

「俺は跳ぶで。天高くな」
「馬肥ゆるねぇ」
「秋やな」

 回し手になるつもりは一切ないらしい。回すのがいやなのか、跳ぶのが好きなのか。後者だったらいいな。『嫌い』で判断するより、『好き』で選ぶ人だったらいいなと思うからだ。

「いや、回すのもありかもしれん」

 急に興味が湧いたらしく、宮くんはこちらを向いて顔をにやつかせた。普段あんまりしないその表情は、よくする方の侑くんにそっくりだ。

「じゃあ替わる?」
「おう。あんた、俺が回す方の一番前で跳んでくれへん? えぐい顔して跳びそうやし、そんなん絶対おもろいわ」
「替わらないで」
「山下ぁ」
「替わらないで!」

 山下くんに声をかけようとするのを必死で止める私を見て、宮くんはいたずらが成功したみたいに頬を緩めた。

意外といじわる


20230614

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