さよならは知らないまま | ナノ
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 入学した高校の、最初に割り当てられた教室の席は、窓際の列から一つ隣にずれた後ろの方。緊張でたまに胃痛を覚えていた私の後ろには、宮くんが座っていた。
 宮くんは背が高い。そして仮入部なんてすっ飛ばしてすでにバレーボール部へ正式に入部し、双子の兄か弟が別のクラスにいる。通っていた中学が違う私が彼について知っている情報はそれくらいだった。

 五時限目の数学。配られたプリントを回すべく後ろを向くと、宮くんは腕を組んで頭を伏せていた。高い位置にある頭がいつもより下にあるのは珍しい。普段なら見えないだろう、左回りのつむじが見えた。

「宮くん」

 名前を呼ぶが反応がない。どうやら眠っているらしい。授業中に背を丸めて寝る度胸にびっくりするが、授業が始まってまだそれほど経っていないのに、そこまで深く眠りに入れることにも驚いた。

「宮くん。宮くん、プリント」
「んあ」
「プリント」

 プリントの角で、ツンツンと制服の上から腕をつついた。重たそうに頭を上げ、瞼も上げた宮くんは、起こした私をぼんやりと見やる。目覚めたばかりで意識はまだはっきりしていないようだけど、プリントは早く受け取ってほしい。

「プリント」
「プリンプリンうっさいねん」
「プリンじゃなくて、プリント」

 何でもいいから受け取ってほしい。机に置こうにも、いまだ宮くんの長い腕組まれていて隙間がない。腕の間に突っ込んでもいいのかな。宮くんとは親しくないから、それはできそうにない。

「プリン……食いたいな」
「プリント」

 やっと起きたと思ったら、今度はプリンに思いを馳せ始めた。いい加減にしてほしい。心なしか教卓に立つ先生からの視線を後頭部に感じる。なぜ紙一枚渡すだけで、私がこんなに焦らなくてはならないのか。

「あんたそれしか言われへんのか」
「もらって、早く」
「へえへえ」

 やっと宮くんがプリントを受け取ってくれた。ホッとして前を向くと、後ろでゴソゴソと音がする。ちらっと振り返ると、宮くんがまたつむじを見せていた。とんでもない度胸だ。

「宮治! 起きろ!」

 先生の声が響き、宮くんの体がビクンと大きく跳ねる。その反応にクラスは沸き、宮くんは渋々と言った様子で頭を上げて、気怠そうにむくりと上体を起こした。立っているとその背丈の高さに驚くけれど、座っていてもやはり高さがあって大きい人だと実感する。
 合わない高さの視線が、宮くんが下げることによってかち合った。眠たげな目は、別に寝起きだからではなく、大体いつもそうだったりする。

「プリン、あるやろか」

 購買に、と続けられるが、その答えは知らない。入学して何度か購買部に足は運んだものの、プリンが売られていた覚えはなかった。
 分からないし、無駄口を叩くなとこっちまで先生に注意されるかもしれない。前を向き、無視する形になった私の後ろで、割と大きめな欠伸の声がした。「宮治!」とまた先生の怒号が響いて、関係ないのにしゃんと背筋を伸ばした。宮くんの前の席は、ちょっと疲れる。私が彼について知っている情報が一つ増えた。

うしろの宮くん


20230614

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