美味いらしい



 ■■が剣を片手に森を探索していると途中で洞窟を見つけ、装備と食糧が十分なことを確認してその中に入ることにした。帰り道がわかるよう松明を置きながら奥へと進んでいけば、十分な資材が手に入る。持ちきれないほどのそれを一旦ボックスに入れて家に帰ることにする。帰路に着こうと向きを変えたとき、洞窟全体に響き渡るようなモンスターの声が広がった。
 ぐおおおおお。
 今まで聞いたことがない咆哮に、■■は腰にさした剣を抜いて身構える。だんだんと近づいてくる足音。壁を背にして、左右どちらから来ても対応できるよう神経を尖らせた。大きな音とともに現れたそいつは、今まで見たことがないモンスターで。人間の倍はあろうかという身長に、人間の頭を丸呑みできそうな口。某姫の伝説に出てくるバクダンを飲み込むモンスターのような口が、きゅうと慎ましく閉じている。ずっしりとした体躯を支える太い後ろ足に、長いとは言い難い前足。尻尾を引きずって歩いているらしいそのクリーチャーの目は、周りを油断させるかのようにつぶらだ。
 くりくりとしたその黒い瞳が■■を見つめる。逃げようとしていたはずの彼の足は地面にくっついたように動かず、モンスターと無言で見つめ合う。ずり、ずり、と近づいてきたそれが手を伸ばしたとき、彼ははっと我に返り慌てて剣を振るった。それは確かにそいつの皮膚を斬り裂いたはずなのに──実際緑に近い色の血が飛び散った──、痛がる様子もなく■■の頭を掴んだ。ダイヤで作った硬いヘルメットが、ミシミシと音を立てる。片手で軽々と、およそ小柄ではない■■の身体を持ち上げ、眼前に持っていく。
「は、なせや……っ!」
 ■■は足をばたつかせ、握ったままの剣も振り回す。怪物は自身の近くで動く剣を忌々しそうに大きな手で除けた。力の入っていなさそうなそれでも武器を吹き飛ばすには十分で。■■の手から抜けたそれが、からんからん、とあたりに金属音を響かせた。
 ■■に向き直ったモンスターが、空いた手で彼の体を抱き込む。腰の近くに手を回して落ちないようにし、頭を持っていた手がヘルメットを軽く叩いた。依然忙しなく動く■■の足による攻撃も意に介していないようで、そいつの動きが止まることはない。
 くぅん。
 先程の咆哮からは想像できないほど可愛げな鳴き声を口から漏らし、それがくぱりと開く。目の前で、ゆっくりと開いていくそれに■■の目は釘付けになった。中から出てきたのは、短い触手に覆われた鋭い針だ。人間で言えば唾液なのであろう液体がぼたぼたと頭に垂れ、ヘルメットも顔も汚す。
 ゆっくりとクリーチャーの怪物が近づいてヘルメットにこつりと当たった。その音に、■■が小さく悲鳴を漏らす。
「ゃ、め、」
 彼の抵抗も虚しく、その針がダイヤを貫いていく。がりがりと削られる音が耳に響いて、いつ頭蓋骨まで到達するかわからない恐怖が■■を蝕む。がり、がり、と進んでいき、その音が止まったと思った瞬間──。
「ぁ゛!? ぃ、あ゛、ぁ゛ぁあ゛あああああ、っ゛、が、ぃだ、ぁ」
 一気に頭蓋骨を貫かれ、脳まで到達する。針を覆っていた触手がヘルメットに張り付いて離れないように固定し、針の先端から■■の脳を吸い出していく。
「ぃ゛ぎ、ッッ、な゛に、ぁ゛、ぁ?」
 力の入らない腕で、必死に怪物の頭を押し返そうとする。頭蓋骨を貫かれた痛みが体を支配し、体のどこが痛いのかすらわからなくなっていく。
 じゅるる、と吸われると吐き気が込み上げ、胃の内容物が食道を傷つけながら逆流して口内に血の味を広げた。
 ──脳みそを吸われている。
 遅れて認識すると同時に、喉元で止まっていたものが急激に押し上げられる。
「す、わな゛、ぁっ゛、が、! がはっ、」
 ごぽ、と溢れ出た血と胃液と消化しきれていないものが、服やら怪物の体やらを汚しながら地面に落ちる。むせ返るような鉄の匂いと胃液の匂いに、気持ち悪さが増す気がした。
 モンスターの頭を押し返していたはずの腕はだらりと垂れ、怪物は力の抜けた体が落ちないよう腕に力を込める。ミシ、と骨の軋む音が鳴って更なる痛みに■■が見悶える。
「ぁぎっ、ぁ゛、あ゛っ、ぉ゛あ、ぃ、あ」
 ■■の口から言葉にならない悲鳴があがるたびにごぷりと血が溢れ、顎を伝って落ちていく。それが落ちる先にはすでに様々な体液が広がって溜まっている。キャパオーバーの痛みに失禁していたようで、そこは大きな水溜まりとなっていた。
 ぢゅる、と一際大きく吸われたと同時に、ぷつん。
 ■■の意識が途切れた。


「ぁ、ぁ゛、っ、」
 もはや意識はなくただ機械のように母音を吐き出すだけの■■から、怪物はようやっと口を離す。彼の頭から抜けた針は白い糸を引き、それは重力に従って切れた。
 くん。くぉあ。
 満腹になったというように鳴いたクリーチャーは、依然■■の体を離さない。鼻などないというのに顔を寄せて匂いを嗅ぐような素振りを見せる。しばらくそうしたあと、そいつは彼の体を持ったまま、洞窟の奥へと帰っていった。■■から流れた血の痕だけが、そこに残ったまま。


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