17

「暫くはまあ、情報収集、だな……」


 ということでこの町に暫く滞在することになった。

 サヴァンナというこの町は、国王のいる城のある場所から結構遠く離れた場所にあるようで、イシュも詳しい地名は知らなかった。イシュの感覚で結構遠く、というのなら、夏希が歩けばどのくらいで城下町に辿り着けるのか、全く想像できない。

 情報収集と言ったけれど、聞けることといったらこの辺で近づかない方が良い場所だとか、入ったらそう簡単に出てこれない場所だとか、そういうことだけだ。

 夏希とイシュが旅人だと言えば、簡単に情報はくれた。

 得た情報によるとサヴァンナの南、イシュと夏希が入ってきた入り口とは真逆の場所から見える森には魔物の住処があるらしい。だから街の住人は決して南の森には近づかないと。


「森、かあ……どう思う?」
「まあ、条件には一致しているが……どうだかな。とはいえ、今は僅かな可能性にでもかけるしかないんだよなあ」
 闇雲に探しても仕方ないとは分かっているが、誰も近づかない場所に居るとなると、どうしても目撃情報は期待できない。出来れば魔物の巣になど行きたくはないのだが、矢張り多少危険を冒さなくてはいけないらしい。
「ともかく。少しずつ探ってみるしかなさそうだな」
「そうだね」


 ということで、その日からサヴァンナの南の森を探索することに決めた。

 サヴァンナの南の森は森とつくだけあってとても広く、しかも木々に阻まれているせいで日の光が中々差し込まずに視界は悪い。薄暗くて良く見えない上に、地面には根が張っており、夏希では歩くのに一苦労だ。

 イシュに抱えてもらって移動すればいいかもしれないが、あまり彼に頼っても見逃してしまうかもしれない。何せ彼らを護る結界がある限り、イシュは彼らの魔力の波動を感知することは出来ないのだから。


「地道に行くしかないってことかあ……」

 夏希が溜息交じりに言う。森の中は薄暗いが、完全な夜にならない限りは決して見えないというわけではない。木々の根に足を取られないように気を付けながら、森の中を歩いていく。


「魔物は近くには居ないの?」
「……」
「イシュ?」
「……何つうか、今の今まで忘れてたんだが、というか森の中なんて今まで入ったこともなくてちゃんと理解してなかったっていうのもあるんだけどよ」
「何が?」
「この中だと駄目だ。俺の苦手分野だ。魔物の魔力の波動がさっぱり分からない」
「え?」


 イシュが罰が悪そうに言った言葉に、夏希は固まった。

 どうやらこの森、というかこの世界の木々は多少なりとも魔力を持って自生しているようで、この森の中に入るとイシュの感知能力では魔物か、それとも木々か判別がつかないらしい。魔物の魔力の波動はそう強くない。だから木の魔力に紛れてしまうんだとか。


「そういえばリコの実も、実をなす植物が魔物を養分に育っているから実に魔力が宿ってて、だから私が人間だってバレないんだっけ……」
「魔物を養分に咲く植物はそう多くはないんだけどな。リコの木は流石に区別はつくぜ。そこらの木々とは比べ物にならねえほどの魔力が宿っているし。だがここらの木々は普通の木だ。宿っている魔力はそう多くない」
「えーと……つまり魔物が近づいてきても分からないってこと?」
「いや、動いてれば、多分……」
「はっきりしないなあ」
「うるせえな、苦手なんだって何度も言ってんだろ」


 夏希の言葉に不機嫌になったイシュは、もう魔力の波動を感知しようとすることさえ止めたらしい。「出会ったら出会ったで何とかなんだろ」なんて言いつつ、ずんずんと森の中に入っていってしまう。

 本当に大丈夫なのか不安になりつつ、おいていかれるわけにもいかないので、夏希も彼の後を追いかけていった。

 結論から言えば収穫はなかった。現国王が探しているかどうかは知らないが、今まで見つかっていなかった人たちをたった二人でそう簡単に見つけられるはずもなく、その日は町に引き返すこととなった

 歩いている中で魔物に遭うことはなかったが、多分運が良かっただけだろう。これからも会わないことを願うばかりだ。
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