Natsume- if

 ぎゅう、と後ろから抱き込まれ、夏希は心の内で溜息を吐いた。
 季節は夏真っ盛り。そりゃもう今日の気温もとんでもなく高く、暑い。何をしていなくても汗が流れ出てくるほどだ。
 そんな日に、いくら室内で冷房が効いていようと、後ろから抱きつかれれば暑いと思うのだが、どうだろう。

「……棗、暑いんだけど」
「知ってる」
「いや、知ってるじゃなくて。だったら離してよ。暑い」
「ヤダ」
「やだって……」

 子供か。いい歳してそんな子供みたいなことを言わないでほしい。いや、別に恋人なんだから抱き締められているのは夏希だって嫌じゃないが、如何せん暑い。そう、暑いのだ。
 もっと冷房の温度を下げれば良いのかも知れないが、人の家のだし。あと何やら棗のお母さんが節電にはまっている様で、冷房は一定の温度より下げると怒られるのだ。
 ああ、暑い。すりすりと夏希の肩に頭を擦り付けてくる棗は平気なのか。

「なーつーめー」
「ヤダって言ってるだろ」
「私だって暑いって言ってるでしょ」
「じゃあ冷蔵庫にアイスあるからそれ食えば? んで、涼めば良い」
「どんだけ離れたくないの……」

 何なんだ。彼女には甘えたいタイプか。それは知らなかった。新たな一面を発見だ。暑い。

「それじゃ、アイスとって来るから離して」
「んー」
「ねえ、動けないんだけど」
「……すぐ戻ってくるよな?」
「戻る戻る」

 頷くと渋々ながら、やっと解放してくれた。暑かった。背中の体温がなくなって体が軽くなり、涼しく思える。うん、もうこのままが良い。
 しかしアイスを取ってきたらまた戻るといってしまったし、嘘を吐いたら棗は拗ねる。拗ねると機嫌を直すのが面倒なのだ。皺寄せは主に夜に、夏希に来るし。
 冷蔵庫にあったアイスを二つ取り、スプーンも持ってリビングに戻った。ん、と腕を広げて待っている棗の膝の間に溜息を吐きつつも腰を下ろし、先程と同じ体勢に。

「はい、アイス」
「食わせて?」
「ええ? ヤダよ、私のだってカップタイプだし。棗に食べさせてたら、私が食べられなくなる」
「だってアイス食ってる間、お前を離さねえとなんねえだろ」
「離せば良いじゃん……」
「嫌だ」

 ぎゅう、と先程よりも少し強く抱きしめてくる棗に、夏希は溜息しか出ない。本当にどうした。いつもなら、まあ多少のスキンシップはあれど、ここまでではない。暑さで頭が可笑しくなったのだろうか。

「もう、棗。何? 本当にどうしたの?」
「……お前、最近バイトが多いだろ。しかも昼間」
「え? まあ、夏休みだしね。稼がないと」
「俺も部活があるし。一日中」
「夏休みだし、そうだろうね」
「折角の夏休みだってのに、どこにも行けねえし、それ以前にお前と会えないし。この間の俺の休みもバイト入れやがって。しかも男と」
「だって棗の部活が休みだって、知らなかったんだもん。急には休めないよ。あと男って行っても、あの人私より結構年上だし、彼女居るよ」
「……それでも嫌だ」

 そう言ってキスを強請る棗に、夏希は抵抗せずに受け入れた。つまりはあれだ。最近一緒に居られなかったことと、男のバイトの人と一緒にシフトに入っていたことが気に入らないらしい。それで、我慢の限界が訪れたと。
 シフト組んでいるのは夏希ではないので、どうしようもないんだけれど。そう思いつつも妬いてくれるのが少し嬉しかったなんて絶対に言わない。
 最初は軽く触れるだけのキスも、だんだん深くなってくる。

「ん、ふ……ちょ……アイス、溶けちゃ……んんっ」
「別にいい」
「……私、食べたいんだけど」

 溶けかけているアイスはあまり好きじゃない。モノにもよるけど。持ってきたカップアイスは氷タイプだったし、シャリシャリしたのが食べたいんであって、ただの甘い汁は嫌なんだが。
 そう言うと何を思ったのか、棗がアイスを奪った。二つ。

「あ、ねえ、それ私の分――」
「それなら、俺が食べさせてやるよ」
「は? いや、ちょっと……っ」

 パクリと口に含んで、次いで口を塞がれる。アイスは既に溶けていて、冷たい舌に一瞬ビクッとなるものの、すぐに熱くなった。甘い。レモンの味だ。

「……溶けてるし、普通に食べたい」
「駄目だ。ほら、次」
「……もう」

 抵抗など無意味に終わることを知っているので、しない。しかし結局一回のキスが長いため、アイスは半分も食べない内に全部溶けてしまったし、途中で帰ってきた美智留に暑いからイチャつくな! と怒られる羽目になるのだった。





End.
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