10/31 PM:15:00 (side.T)




「まったく、昨日のうちに気づいていればこんな事には…」

カチャカチャとボールの中の卵白を泡立てながら呟けば、背後でフローリングの床にべたりと座っている音也から申し訳なさそうな声が上がった。

「トキヤごめん、まさかすっかり忘れてたなんて…」

せかせかと布を縫い合わせる彼の手つきは、危ないとまではいかないが不慣れさが見て取れる。
茶と灰の布に糸が通されるたび見ているこっちはどこかひやひやとするが、それを悟られぬよう素知らぬ顔で自分も作業を続けた。
ボールの中の卵白はしっかりと立つほどの見事なメレンゲ、思わずほうと小さく声を漏らした。

「わートキヤ器用だね」
「そうでもありませんよ、というかよそ見しないで下さい」
「ごめんごめん」

音也が謝るのとほぼ同時、電子レンジが軽快な電子音を奏でる。
熱々の容器を取り出しラップを剥がせば途端にカボチャのなんとも濃厚な香りが漂った。
美味しそう、と音也がごくりと喉を鳴らす。

「夜までお預けですよ」
「はーい」

ほくほくとしたカボチャの身を細かく混ぜながら、そもそもどうしてこんな事になったのかとぼんやり思い出す。
昨日、音也の突然の提案によりパーティーを開くことが決まった。
本格的なものではなくていいので簡単な仮装をするというのが必須事項。
その日は仮装に使えそうな要らない服などを発掘するだけで、作業はまた明日やろうと眠りについた。
そして今朝たまたま朝食のセットで出されたカボチャの煮つけを食べながらふとした疑問を彼に問うた。

「そういえば音也、お菓子は誰の担当なんです?まさか四ノ宮さんでは…」
「……あっ」

"彼に作らせるのは危ない、だから俺が用意する"
と自らの発言を音也はその時まですっかり忘れていたのだ。
お菓子を買ってくるから、と彼が出かけたのが午前10時。あいにく売り切れだったと泣きの電話が入ってきたのはその1時間後だった。
それもそうだろう、ハロウィン当日ともなれば相当の人達がお菓子を買いに店へと押し寄せる。
大きなスーパーならいざ知らず、この近辺には生憎小さなお菓子屋が数件あるか無いか。

「今から遠くのお店は時間が掛かってしまいますね……そうだ音也、近くに八百屋はありますか」
「え、あるけど」
「ではカボチャを2つほど買ってきてください」
「いいけど、お菓子は?」
「大丈夫です、策はありますから」

そうして戻った音也に衣装を任せ、調理を始めたのが昼の12時。
正直ネットの見よう見真似だがそれなりのものが出来始めた。

「音也、次はオーブンを使いたいので手伝っていただけますか」
「いいよ、何焼くの?」
「クッキーです」
「おお!」

とろとろに溶かしたカボチャとパウダーを混ぜ合わせていると、彼はきらきらとした目で手元を見つめた。

「何か?」
「手際いいなって思ってさ、トレイにシート敷くね」

音也も何だかんだてきぱきと作業をこなし、日も落ちる頃には大方の作業が終えた。
カボチャのムースにプリン、プチパン。チョコと二色のクッキーは即興ながら中々の自信作だった。
どれも材料は学園の購買で手に入れたもので、もっとも外で買えないならば学園内でと同じ考えの生徒が複数居たため材料の取り合いも発生したのだが。

「何とか間に合いそうだね」

もこもことしたファーを首に巻きつけながら音也はにこりと笑う。
一体何に仮装するつもりだろうかと首を傾げれば、彼は両手を顔の横に構えた。

「がおー、お菓子くれなきゃ悪戯するぞワオーン」
「…口調は統一した方がいいですよ」
「え、どっちがオオカミっぽいかな」
「キャラ付けは後でいいです、早く衣装を完成させましょう」

中身のくり貫かれたカボチャにナイフを差し込む。
丸く切り取ったりギザギザと切込みを入れたり、何だか工作の授業に勤しむ子供のようで少し楽しい。

「あ、トキヤそれってもしかして…」
「出来てからのお楽しみですよ」

肩に顎をのせて背後からひょこりと覗き込む音也の唇に指をあてる。
くすぐったそうに笑うその顔につられてつい、自分の表情も綻ぶのだった。


→10/31 PM:20:00 (side.N)








人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -