10/30 PM:21:00 (side.S)




「翔ちゃん翔ちゃん!」

部屋に帰ってくるなり那月は荷物も置かず一目散に、俺がごろりと寝転がるベッドの傍へ駆け寄ってきた。
割と普段からこの調子なので、俺は読みかけの雑誌に視線を落としたままはいはいと相手をする。

「明日の夜ってヒマですか?」
「明日?まぁ休日だし、課題やったらあとは暇だけど」

答えれば那月はやったぁなんてはしゃぎながら何故かクローゼットを漁り始める。
がさごそと取り出したのは安全ピンやら裁縫セットやら、更には散々俺に着せようとした被り物まで。
彼の行動は普段からどこか読めない事が多いのだが、今日は特に何がしたいのか見えてこない。

「…何してんの?」
「へへ、何だと思いますか?」

質問に質問で返してんじゃねーよと思わず突っ込みたくなる。
そのまま那月の様子を窺っていると、どこから用意したのか細く切られた白い布に糸を通してフリルを作る。
そうして白いワイシャツの首周りや袖口にフリルを当てては、うーんもう少しボリュームが……とか何とか呟いている。

「ねぇ翔ちゃん、やっぱりドラキュラってシンプルなシャツの方がいいですかね?」
「別にどんなでも吸血鬼は吸血鬼だろ…ってか意味が分からないんだけど」

読みかけの雑誌を閉じ、すっかり床に座り込んで作業を始めた那月の後ろに立つ。
今度はどうしてそんなモン持ってるんだと言いたくなるような大きさの黒い布を取り出して、シャツを覆うようにぐるりと巻きつけた。
立てたシャツの襟と重ねるように安全ピンで留められたその布はさしずめマントといったところか。
那月は満足そうにえへへと笑ってこちらを見上げる。

「実はね翔ちゃん、僕明日はドラキュラさんなんです」
「いやお前人間だろ」

いよいよもって訳が分からず、ため息を漏らしながら壁に掛かったカレンダーを見やる。
明日が何だっていうんだ、ただの休日だし特別な事なんて特には……

「あ」

もしかして、頭を巡り巡ったのは今まであまり馴染みのなかったひとつのイベント。
那月はドラキュラになる。
そういう事か、ようやく合点がいきスッキリとした表情を浮かべたのが彼にも伝わったのか、那月は作業を続けながらどこかわくわくと楽しそうな声音で話しかけた。

「今日ね、音也くん達と急に思いついたんです。明日の夜にハロウィンパーティーしようって。だから翔ちゃんもどうですか」
「そういう事ならもっと早く言えよ」

こつん、と彼の頭を小突けば申し訳なさそうに、けれども悪戯の成功した子供のように笑った。
不思議と那月のそんな表情は憎めない。

「で、翔ちゃんはどんな仮装しますか?」
「…え、俺もすんの」
「当たり前じゃないですか!」

意気揚々と、どういう訳かキャラクターの着ぐるみや被り物を知らぬ間に手にした那月がじり、とにじり寄る。
ちょっと待てハロウィン仮装ってそういうのじゃねーだろ、しかもお前自分ではちょっと格好良いの選んでおいて俺様に着ぐるみとかどういう事だ。

「っていうか何で人の服脱がしてんの!?」
「明日の夜だから早いうちに決めないと、あっ翔ちゃん魔女っ子さんとかどうですか?華やかだと思いますよー」
「女装じゃねーか!ぜってぇヤだ!」

ぐいぐいとずり下げられるズボンを必死に押さえて、ハロウィンよりも早く悪戯されてしまう恐怖にびくつきながら前夜は静かに更けてゆく。


→10/31 AM:07:00 (side.M)








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