くだらない遊び(マサレン)



くだらない、
聖川真斗は頭の片隅でそう思った。

ぎしりと軋むベッド、柔らかなシーツに両手をついて見下ろす先には青い瞳がゆれる。
どこか余裕ぶった、けれども表情の読めない、そんな視線を寄越してくる男のシャツを静かにまさぐった。
途端、自分に組み敷かれている男…神宮寺レンの眉間にわずかな皺が。
こっちの方が不愉快だ、と真斗もつられて眉間に皺を寄せた。

「…聖川、したくないなら別に無理にとは言わないけど?」
「そっちこそ、本当は後悔でもしているんじゃないのか」
「まさか」

互いに探りあうような視線。
まさぐったシャツの下の肌が、僅かに熱を帯びる。
たいして柔らかくもない、けれども悪くはない心地の肌を指先でなぞる。
つ、と腹筋を下から上へ。焦らすような手つきで滑らせればその肌の熱はより高まった。

「お前も、案外物好きだな」
「別に好きな訳ではない」

こんな、男の肌に触れるなんて。
ならば何故好きでもないのにと自問するが、それさえもくだらないのだと吐き捨ててやりたくなった。
そろりとシャツを捲りあげる。細身の割にがしりとした胸の、既に立ち上がったそこに爪をたてる。
く、と小さく声を漏らしたレンは誤魔化すように視線を逸らした。

「…何で逸らす。こうされたかったんじゃないのか、お前から誘ったくせに」

苛々した。
くだらない奴のくだらない遊びに付き合ってやっているだけなのに。
視線を逸らされた事がまるで拒絶のように見えて。
自分から誘ったくせに。
苛々した。



『抱かれる、ってどういう感覚なんだろうな』

レンの抱いた疑問は、正にくだらないものだった。
そのまま無視してさっさと眠れば良かったかもしれない、どうしてかあの時真斗は彼の言葉に応じてしまった。

『気になるなら、自分で確かめればいいんじゃないのか』
『…じゃあ、協力してよ。聖川』



胸の突起に舌を這わす。
ぬるぬると回るように舐めれば、それは一段と堅さを増した。
はぁ、と息を詰まらせるレンの指先が真斗の帯に触れた。
着物には不慣れなのか、どこか頼りない手つきで帯が解かれてゆく。
彼の行為を遮るように、ちゅっ、と突起を吸い上げた。
びくん、少々大げさに跳ねる彼の身体。なんだかひどく可笑しかった。

「っ……」
「どうした神宮寺、手が止まっているが」
「お前…性格悪くなったな」
「お互い様だろう」

ちゅ、ちゅ、とあちらこちらに唇を寄せる。
徐々に下へと移動すれば、もどかしいのかレンは自らベルトを外した。
するりとズボンを下ろす。
下着の上からでも分かる程に、膨張したレンの性器。
ちらと顔を見やれば、期待の色を浮かべた瞳が真斗を捉えていた。

「神宮寺、どうされたい?」
「え…」
「お前の望みどおりにしてやる。どうやって抱かれたい?」

下着越しに、張り詰めたそこをやわやわと揉む。
同じ男だからよく分かる、きっとこんな焦らす程度の刺激じゃなくて、もっと決定的な愛撫が欲しいのだろう。
中途半端にはだけたままの着物を脱ぐ。
互いの華奢な身体を合わせるように、色の違う肌を覆い尽くすように。
真斗はレンを今一度組み敷いた。

「…めちゃくちゃに、してほしい」

形の良いレンの唇から、恥ずかしげもなく告げられる言葉。
この男の弱みを握ったようで、真斗は思わず口角を上げた。





「ン……っふ、う…」

シーツに顔を埋めたレンが、くぐもった喘ぎを漏らす。
ぐちゅり、抉るように三本の指を動かす真斗はひどく気分が高揚していた。

「そろそろ挿れるか」
「はっ…待て、まだろくに馴らして…」
「滅茶苦茶にしろと言ったのは、誰だったか」

挿れたままの三本の指を、ぐっと広げる。
散々馴らされた内壁は真っ赤に充血し、ぬらぬらと光っていた。
ごくり、無意識に唾液を飲み込む。
他人は勿論レン本人ですら触れたこともないだろうそこを蹂躙し、欲で満たす。初めての男になる、その生々しさに己の熱が高まってゆくのを真斗は感じた。
はち切れんばかりの肉棒をレンのそこへとあてがう。肉を引き裂くようにぎちぎちと挿れ進めれば、引きつれた声が漏れた。

「ぐっ…少し、息を吐け神宮寺…」
「っ……ぅ、ぐ…」

皺くちゃになる程ぎゅっとシーツを握り締めるレン、手の甲にはうっすら汗が滲んでいた。
真斗の位置からはその表情を窺い知ることは出来ないが、恐らくつらそうに唇を噛み締めているだろう。
それは真斗も同じで、あまりのきつさにこれ以上動こうにも叶わなかった。

「おい神宮寺、呼吸するんだ。出来るだろう」
「っは……はぁ、あ…」

片手で腰を掴んだまま、もう片手でレンの背をなぞる。
強ばっていた彼の身体が解れてゆく。感度がいいんだな、真斗はからかうように笑った。
中途半端に挿っていた性器を、ゆっくりと根元まで進める。
ぎちり、締め付けは良好だった。

途端に、支配欲が真斗の心を疼かせた。
いけ好かない男に背後から襲い掛かり好き勝手に蹂躙する、主導権はすべて己が握っているのだ。なんと気分が良いのだろう。
いささか強引に、腰を動かす。
結合部からはぐちゅぐちゅと卑猥な音が響いた。レンの口から漏れだす甲高い声音すら、興奮材料だった。

「あっ…ぁ、やめ……やだ、聖川ぁ…」
「何を今更…気持ち、いいだろう。なぁ"レン様"?」

女たちを誘惑し惑わすその唇からは、艶めいた喘ぎばかり。
それを引きずりだしているのは他でもない、自分。
男に善がるなんてとんだスキモノだな、嘲笑えばレンの中はいっそう好く締まった。
好き勝手に腰を打ち付ける。肉の少ない肌がぶつかり合って、痛いのか気持ち良いのかすら判断がつかなかった。

「はぁ、っ…中、出すぞ」
「えっ…ァ、あ…!」

腰を掴み、最奥へと注ぎ込むように欲を吐き出した。
びくびくと、萎みはじめる己の性器はけれども熱を失ってはいない。
抜き出し、レンの身体をごろりと仰向けに転がす。彼の性器はまだ絶頂には達しておらず、先走りを溢れさせながら震えていた。
がしり、強引に掴んだレンの腕を引く。上半身だけ起き上がった彼に、真斗は跨がった。

「舐めろ」
「…は」
「俺のモノを綺麗にしながら、自慰しろ。イキたいんじゃないのか」

上気したレンの頬に、腰を押しつける。
とろとろに光った真斗の性器を、物欲しそうしゃぶるレンの顔を女たちに見せてやりたかった。
必死に舐めながら、艶っぽい声をあげながら、後ろの穴からだらしなく精液を垂らしながら、己の性器を扱くこの姿を女たちに見せつけたならば。
ひどく背筋が震えた。
ぞくぞくと快感が押し寄せ、自然と真斗の口から笑い声が漏れだす。
両手でレンの頭を掴み、がくがく揺さ振る。内頬へと擦り付ければその柔らかさにたまらなくなった。


『お前も、案外物好きだな』


唐突に頭に響く、レンの言葉。
はっと見下ろせば、彼は淫らにしゃぶりながら
笑って、いた。

「……っ!」

レンの口から性器を引きずりだす。
だが吸い付くような唇の感触に我慢できず、精液を吐き出した。
口から顔から、とろとろに塗れたレンは変わらず笑っている。

「…なんだ、もういいのか?聖川」

いつの間にかレンの性器は熱を失っていた。
顔に掛かったそれを指で掬うと、真っ赤な舌で彼は舐めた。
余裕ぶった、けれどもいまいち表情の読めない瞳が真斗を見上げる。
ずるり、真斗は思わず身を引く。

「で、聖川。男を抱くってどんな感じだった?」

すっかり萎えきったレンの性器を見下ろす。
先走りはすっかり乾いて、上も下も精液まみれなくせにそこだけやけに綺麗だった。

「……ははっ」

真斗の口から乾いた笑いが漏れる。
物好きなのは、どっちだ。
好きでもない男の肌に触れ、好きでもないのに男に身体を差し出す。

「…くだらない」
「へぇ、そうか」

始めから分かりきっていたのだ、そんな事。
真斗の呟きに、満足そうにレンは笑う。

「俺も同じだ」



END.









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