臆病者の恋(マサレン) 2




「レンってば最近ちっとも遊んでくれない」
 珍しく図書室へと誘われたレンは相手の女性に開口一番そんな言葉をぶつけられる。不貞腐れたように頬を膨らませてレンの腕に絡む彼女はレンがこの学園に入って一番に関係を持った人物だった。かといって特別親しい訳でもなく、互いの気が向いたときに会う程度の気まぐれな関係。
「もしかして私に飽きちゃった?」
「そんな事ないさ」
「本当にぃ?」
 レンの首に腕を絡めて彼女は上目使いで微笑む。甘い香りも柔らかな体も男からすれば極上のもので、けれどもレンはその体を抱きとめながら別のことばかりを考えている。
 いつだってレンは女性のことを最優先に物事を進めてきた。良く言えばフェミニズム、悪く言えば顔色を伺うように。愛情というものを間違ってしまったあの日からずっとレンにとって女性は唯一自分を見てくれる存在で、だからこそ時には献身的に彼女たちの望むよう振舞ってきた。それが最近は夜は勿論学園内で過ごすにも女性たちの為に時間を割く事が少なくなった。今のように彼女から誘いの態度を取られても、レンの反応はどうも曖昧だ。少し前なら何気ない会話の端々さえ女性を喜ばせるための言葉が飾られていたのに、一般的で味気のない会話ばかりを繰り返していることをレンは気づいていながらも特別どう改善しようとは考えなかった。目の前にいる彼女もそんなレンに物足りなさを感じているのだろう、べったりと体を絡ませながらもどこか探るような、一歩引いた視線でレンを見つめる。
「ねぇレン、この前ディナーに行ったお店を覚えてるかしら?」
「ああ、君が食前酒で顔を赤くしていたお店だね」
「……あれは忘れて頂戴」
 酔いが早い事を指摘されると彼女は一瞬子供のように頬を膨らませ、けれど次の瞬間には女の色香を全身に漂わせていっそうレンに身を寄せる。
「今日、予約が取れたの。ね、だから一緒に……」
「言っただろう、今夜は無理さ」
 レンは微塵の甘さも与えぬ口調でぴしゃりと言い放つ。およそ以前の彼にはない冷たさで、女性からすればレンの態度は面白くない。だが彼女は微塵も気にした様子はなく、先週もそんなこと言ってたじゃない、とレンの言葉にのみ反応を返すのだった。しなだれるように寄りかかる女性の肩を抱いてレンはふと、軽いな、と思う。彼女が特別華奢というわけではなく、女性の体それ自体が軽いのだ。誰と比べたのかを理解した瞬間レンはまるで苦虫を噛み潰したように眉根を寄せ、しかし女性に気づかれないようにといつも通りの笑顔を作って彼女の髪を梳くように撫でた。
「本当にすまないと思っているよ、だからせめてディナーまでは……ね?」
「私、上手くはぐらかされてる気がするわ」
 レンは女性の腰に手を添えエスコートするような足取りで図書室を後にする。ふと誰かの足音を耳にした気がするけれども、今は目の前で不機嫌そうに唇を尖らせるレディの機嫌を取るほうが最優先だった。


 レンが寮の自室へと帰宅したのは結局夜の九時を過ぎた頃だった。本来ならもっと早くに帰る筈だったが共にしていた女性が中々開放してくれず、ディナーが終えた頃やっとのことで逃げるように彼女と別れた。いつだって笑顔のレンにしては珍しくくたびれた表情を浮かべながら自室のドアを開けただいまと告げるが、生憎部屋の電気は点いておらず暗闇からは何の返事も返ってこなかった。同室者はまだ帰宅していないのだろうか、電気を点け室内を見渡すが制服や通学鞄の類はいつもの場所に置かれており、一度帰宅した後出掛けたきりなのだと分かる。レンが遅いものだから一人で食堂にでも行ったのだろうか、携帯を確認するがメールなどの着信はひとつも入っていなかった。几帳面な真斗のことだから何かあれば一言伝えるものではないかと思ったが、そもそも先にすっぽかしたのはレンの方だということを思い出して溜め息をひとつ吐き出す。
 正確には約束を交わしたという訳ではない、ただ漠然と「今夜は共に過ごそう」と話をしただけ。それでも罪悪感が生まれるものだからレンとしてはなんとも居心地の悪い思いをするばかりだ。せめてメールの一つでも入れておくべきだったかと後悔しながら脱いだジャケットをハンガーに掛ければ、ガチャリとドアの鍵が開かれる音。振り向いた視線の先には思った通りの人物の姿があってレンはどこかほっとしたようにおかえりと告げるが、対する真斗は訝しげに眉をひそめてレンを見やった。
「……随分早かったな、てっきり今日は帰らないものだとばかり思っていたが」
「どういう意味だい」
「さあ、自分の胸に手を当てて考えればいいじゃないか」
「……何をつっかかってるんだ、聖川」
 一瞥しただけで机へと向かう真斗は見るからに機嫌が悪く、曖昧な約束をすっぽかしたことをそこまで気にしなくったっていいじゃないか、とレンは内心不満げに真斗を見やる。そのまま黙りこくるのかと思いきや、以外にも真斗は会話を続けた。
「夕食は済ませたのか」
「ああ……まあ、ちょっと色々あって」
「そのまま過ごしてくれば良かったんじゃないのか」
 背の大きな椅子に腰掛け真斗は楽譜を開く。レンの位置から彼の表情は見えないが、真斗が勉学に関する何かを始めるということは多分、これ以上話しかけるなということだろう。だがレンにはどうも彼の言葉が引っかかって仕方ない、そのまま過ごしてくれば良かったんじゃないのか、なんてまるでレンがさっきまで誰かと会っていた事を知っているような口ぶりだ。それも女性と決め付けるような物言い、トキヤや翔といった男と会っている時には決してあのような言い方はしない。例えるなら嫉妬しているような不機嫌さを見せる真斗にレンは果たしてどう返すべきかと思案して……ふと、放課後の図書室で耳にした足音を思い出す。確証はないが誰かの気配を感じた、あの時間に図書室にいる生徒なんて珍しくもないが真斗の態度から察するに恐らく。
「……聖川、もしかして見ていたのか」
「っ……!」
 真斗はとても素直な人間だ。こういう時はすまし顔で「なんの話だ?」なんて返せばいいものを、楽譜に書き込もうと走らせていたペンをぴたりと止めるなんて馬鹿正直な反応を返すものだからレンとしてはおかしくてたまらない。思わずくすくすと声を漏らせば真斗はちらりとレンを振り返り、何がおかしいんだ、と呟く。
「いや、聖川があまりにも分かり易くてね」
「お前……」
 レンはひとしきり笑ったあと、不意に真剣な表情を浮かべて真斗を見つめながらベッドに腰掛ける。互いの位置は少し離れている、だが二人にはこのくらいの距離がちょうどいい。
「夕食の時間に間に合わなかったことは謝るよ。知っているだろうけど、レディと会っていたんだ」
「……そのようだな」
「でもお前の方が先客だからな、こうして帰ってきたんだし機嫌を直してくれないかな」
「……俺が怒っているのはそのことについてじゃない」
 怒っていることは否定しないんだな、真斗の素直さにまた少しおかしくなるのを堪えてレンは、じゃあ一体何に対してそんなにカリカリしているんだい、とため息を漏らす。真斗はとうとう楽譜を机の上に置き、けれどレンに背を向けたまま口を開きかけては噤んで、また開こうとしては言葉を探るように口をぱくぱくさせた。痺れを切らしたレンが足を組むとようやくおずおず言葉を発する。
「……確かに約束と呼べるほどのものではなかったし、お前がそれを守るとも思ってはいなかった」
「俺って信用ないね」
「けれど女性に誘われたからといって、そちらを優先されるなんて……」
「なんだ聖川、やっぱり嫉妬してたのか」
 あっけらかんとしたレンの”嫉妬”という言葉に真斗は耳まで赤く染める。どうやら自覚がなかったらしい、こと色恋沙汰に関しては鈍いを通り越して微塵の経験もない真斗だから仕方ないかもしれないが、まさか自分の感情すら分かっていなかったとは。
「はは、嫉妬ねぇ、あの聖川が」
「う、うるさいぞ……」
 からかうような声を上げれば真斗はいっそう耳を赤くしてレンを睨み付ける。その姿がますますおかしくてレンはつい、調子付いて言葉を続けてしまった。
「だって可笑しいじゃないか嫉妬なんて、そもそも恋人同士でもないのに……」
 その言葉に真斗の瞳はほんの一瞬大きく見開かれ、すぐ伏せるように視線が逸らされた。恋人同士、レンは今しがた自分の口から発せられた言葉を頭の中で反芻する。色恋沙汰に疎い真斗と自分との関係、彼が抱いた嫉妬の念が示すところ。
 レンが後悔するより早く真斗の唇が震えて、もう寝る、それだけが告げられる。一度出てしまった言葉を無かった事になど出来やしない、次の言葉も見つからないまま真斗が心を閉ざすようにベッドへ潜り込むのをレンはただ黙って見つめるばかりだった。


 一週間の間に二人の関係は戻ってしまった、この学園に入学したばかりのあの頃のように。学園内はもちろん自室で言葉を交わされることもない、というより真斗が一方的にレンを避けていた。目も合わせない、話しかける隙を与えない、始めから赤の他人だったように振舞う真斗にレンは相変わらず掛ける言葉を見つけられないまま、日々ため息ばかりが唇から漏れてゆく。
「……どうしたんだよ」
 机に伏せていたレンがふと顔を上げれば、心配するように覗き込む翔の顔がそれはもう驚くほど近くにあった。視線を合わせると翔は少しだけ顔を離して、ひでえツラしてんな、と呟く。そんなにひどいだろうか、確かにここのところいつもの作り笑顔を浮かべる回数はぐっと減ったけれど、それでもごく普通を装っていたつもりなのに。困ったように口を噤むレンに今度は翔が、はぁ、とため息を一つ吐き出した。
「何があったか知らないけどさ、お前がそんな顔してると調子狂う」
「……どうして急に、そういう事を言うんだい」
「一人でぐだぐだ悩むなつってんだよ、ばか」
 会話になっていないような何とも歯がゆいやりとりだけれど翔は心の底からレンを心配しているらしく、えらく真剣な瞳でレンをじっと見つめながらそんな事を言う。彼の優しさは痛いほどよく分かるし、翔の後ろ、少し離れたところでこちらをしきりに気にしているトキヤの不器用さも分かっている。
 放課後の教室、いつもなら半数ほどの生徒が室内に残っているというのに今日はやけに少なく、その僅かなクラスメート達も翔がレンへと話しかけたのを見てそそくさと一人また一人廊下へと消えていった。がらんとした教室内、やがて落ち着きなくレンの隣の席へとトキヤが腰掛ける。遠くでは生徒たちのはしゃぐ声が響いて、まるでこの場所だけ切り離されたように静かだった。先ほどまで黙り込んでいたトキヤはようやく口を開く。
「聖川さんと何か、あったのですね」
 断定的な口調だった。同時にはぐらかす事を許さぬような強い視線をぐっとレンへ向けるトキヤ。逃げるつもりはなかったがなるべくならその話題を避けたかったレンとしては困ってしまうくらいに、二人の気遣いはお節介の域に達している。それでも洗いざらい全て話すことが出来るならばどんなに楽だろうか、これ以上一人で悩むのはそれこそ辛いものがあるのも事実で。
「……聖川を、怒らせた」
 ゆったりとレンが口を開けば、二人は「やっぱり」とでも言いたげに顔を見合わせる。俺の方に非があるって二人とも思ってたわけだ、レンは少しだけむっとしたように唇を尖らせ、けれど真斗とのやりとりを思い起こして一際大きなため息を吐く。
「……というか、落胆させた」
「落胆?怒らせたんじゃなくて?」
「いや、落胆というより……悲しませた、かな」
「はっきりしないのな」
 翔は両肘を机の上に乗せて頬杖をつく。呆れただろうかと見やった翔の瞳は薄い青をきらめかせて、どこまでも真っ直ぐにレンを見つめていた。心地良い視線だった。背も小さく歳だって二つほど離れている翔が、こういう時だけ対等かそれ以上にしっかりとした姿を見せるものだからレンはつい弱った心を見せてしまう。
「……そういうつもりじゃなかったんだ。お互いの利害が一致して、ただその為だけの関係だと思っていた」
「向こうはそれだけではなかった、と」
「……確証はないけれどね」
「詳しい事情を知らないので同意は出来かねますが」
 ぴしゃりと言い放つトキヤの口調は決して冷たいわけではなかった。考え込むように口元へと手を当てて、少しの間を置いてからトキヤは軽く首を傾げながらレンへと尋ねる。
「……レン、貴方は聖川さんに対し何を求めているのですか?」
「求める、って」
「私は貴方が聖川さんのことをあまり好いてないものと思っていましたが、少なくとも悲しませてしまったことに対し悔いる程には彼を気に入っているように見受けられます」
 トキヤはずいと椅子を寄せ、レンとの距離を縮める。彼の瞳の真剣さにレンはついたじろぐ様に視線を泳がせ、落ち着き無く座り直した。
「貴方は互いの関係をどのようなものにしたいのか、答えが出ているのではないですか?それを気づかぬ振りしているからそうやって悩むんです」
「……イッチーのそういう所が俺は怖いよ」
「すみません」
 二人の顔を交互に見ていた翔はその間何も言わず、やがてぺたりと机に伏せた。遠くで響いていた生徒たちの声はいつの間にか聞こえなくなっている。しばしの沈黙、気まずそうにトキヤを見つめるレンはやがて小さく息を吐いて、余計こんがらがった気がする、と文句を一つ零した。
「背中を押してほしかったんじゃないのですか」
「そりゃあ、まあ……」
「これ以上悩む前に聖川さんにかける言葉をとっとと考えて下さい」
「それが思いつかないから悩んでたんだけどね」
 レンは椅子に大きくもたれて天井を見上げる。規則正しく並んだ蛍光灯は痛いくらいに眩しくて、頭の奥がずきずき訴えだす前に視線を戻した。黙り込んだまま伏せていた翔と目が合ってつい反射的に笑みを浮かべるが、今のレンではどうも上手く笑顔を作ることなど出来なかった。
「……なんかさ、意外だよな」
 ぽつりと零された翔の言葉は独り言のようで、けれど瞳は真っ直ぐレンを見据えている。
「ここ一週間お前、真斗の事しか考えてなかったんだな」
 しみじみ呟かれた言葉にレンの下手な笑顔は余計いびつになってゆく。それは悲しんでいるのでも怒っているのでもなく恥ずかしさから来るものだと自覚する頃にはレンの顔が耳まで赤く染まっていて、トキヤと翔は思わず顔を見合わせる。いつの間にか消えた笑顔の代わりにむっと唇を尖らせてレンは二人をじとり眺めた。
「……なんだい」
「珍しいなと思いまして」
「お前ってなんでもそつなくこなせる奴って思ってたけど、ちゃんと不器用なんだなーって」
 示し合わせたように口角を上げてにやつく二人にますます頬を膨らませるレンは、やがて耐えられなくなったのか勢いよく立ち上がり今日はもう帰ると告げた。結局何ひとつ明瞭になどなりやしない、自分でも気づけぬ部分を見透かすようなトキヤとまるでレンの子供な部分を引き出そうとした翔が腹立たしくて、けれど何も言わずに過ごしていたよりは幾分気が楽になったのも事実だった。
 答えが出ているはず、とトキヤは言った。真斗に対し言い放った言葉、彼の反応、あの時自分が何を思ったか。自分が思っている以上に色恋沙汰に鈍いレンにとってその感情を認めることは少しだけ難しい。教室を出る際一度だけ振り向いた先でレンを見つめる二人の瞳は、優しいほどに真っ直ぐだった。



「聖川さんですか?」
 真斗が見知らぬ女生徒に呼び止められたのは日も傾き始めた頃、学生寮の敷地へと足を踏み入れた直後だった。
「少しだけお時間宜しいでしょうか」
 見知らぬ彼女は真斗の返事を聞くこともなく踵を返し、ついてきてと言わんばかりに裏庭の方へ歩き始める。このまま無視してもよかったが女性を邪険にするのはどうも気が引けてしまい、仕方なく真斗は彼女の後をついていった。夕暮れに染まった木々はなんともロマンチックな情景を作り出しており、しかし自分達の他には意外にも生徒の姿はない。女性はベンチの端に腰掛けてちらと真斗を見やる、どうも隣に座れということだろう。ほんの少しの距離を置いて真斗は女性の隣に腰を下ろした。
「突然声をかけてしまい申し訳ありません」
「いや、特に用事もないし構わない」
 しおらしく丁寧に頭を下げる女性はどんなに真斗の記憶を辿っても思い当たる節がない人物で、けれどわずかな甘さを含む声音だけはどこかで耳にした覚えがあった。少しだけ体を傾けて、真斗はじっと彼女を見やる。勝気そうな瞳をまっすぐ真斗に向け、女性は一際通る声で言葉を紡いだ。
「ひとつ、貴方に謝らなければなりません」
「謝罪……?」
「はい、私の醜い嫉妬のせいで貴方にはご迷惑をおかけしました」
 そこまで言われても真斗には何一つピンとこなかった。学園に入学してから今まで彼が関わってきた女性は数え切れるほどに少ない、クラスメイトや合同授業を共にした他科の生徒を思い出すがどうも目の前にいる彼女の姿と一致する人物は居ないように思う。不思議そうな真斗の視線に気づいた彼女はどこか意地悪に笑って、そういえば名乗っていませんでしたね、と名を告げる。それでも耳にした試しのない響きに困惑する真斗へ彼女はひとつ言葉を付け加えた。
「レンと関係を持たせて頂いている者です」
「……あ」
 瞬間、真斗の脳裏には一週間ほど前の光景が蘇る。人気のない図書室の一角、本棚の向こうで僅かに見えた長い髪。レンに甘えるような声色ばかりだった女性のものとは思えないほどしっかりとした目の前の彼女の声音と言葉遣いは、けれども端々にあの時の熱っぽい響きが滲んでいる。ようやっと不鮮明だった景色がはっきりしたような瞳で女性を見つめる真斗は、しかし迷惑をかけられた覚えもなく首を傾げる。あの時レンと一緒に居たのが彼女だからといって、真斗自身は直接彼女と接触した事などないのだ。次の言葉を待つようにじっと見据えれば、彼女は視線を逸らし遠くを見つめるような瞳で夕焼け空を眺めた。
「私はこの学園に入ってから一番にレンと関係を持ちました。同室の貴方ならお分かりだと思いますが、彼は毎晩のように誰かと夜を過ごしていましたから、当然私との時間も多かったんです」
「……そのようですね」
「けれどある時から少しずつ、彼との時間は減ってゆきました」
 それは彼女以外に関係を持っていた女性達も皆同じで、週に一度会えればまだ良い方、時には学園内での逢瀬すらなかった。けれどもレンに嫌われたという訳ではなく、それなりに続けられる関係。誰か本命が出来たのではないかと仲間内で探り合いもしたが、誰一人としてレンから特別な目を向けられている者は居なかった。そんな不安定な関係が続いたある日、痺れを切らした彼女はレンを誘う。思った通り今夜は無理だと断るレンにいっそ詰め寄ってしまおうかと考えた所でふと彼女の視界にとある人物の姿が映った。名だけはレンから幾度も聞いたことのあるルームメイト、遠巻きに目にした時と同じ濃紺のセーターを本棚の向こうに彼女は見つけた。だからといって特別思うこともない、上手くレンをディナーの席へと連れ出したところで思い出したように彼女は、案外今夜の約束は同室の彼だったりして、なんて口にする。いつだったかだらしない生活を送る自分をどやす彼が鬱陶しくてたまらない、とレンが愚痴を零していた事を思い出して、ここ最近の素っ気無さは彼にどやされているからなのではと考えた。それだけだった。
 彼女の目の前でグラスを呷っていたレンは同室者の名を出された瞬間、僅かに瞳を揺らがせ頬を硬直させる。レンが女性の前で笑顔以外を浮かべるなど今まで一度とてなかった、およそ初めて目にするレンの”ありのままの表情”に彼女は、ああやっぱり、と確信めいた思いを抱いた。女性の直感とは時に恐ろしくもある、知らずに居ればよかったものを彼女は気づいてしまった。
「……本当は少し話をして、すぐに返してあげるつもりでした。けれど悔しいじゃないですか、私との会話も上の空で次に会う人の事ばかりを思われているなんて」
 レンにはきっと自覚なんてないでしょうけれど、彼女は寂しそうに呟いて真斗を見やる。およそ男性に向ける瞳とは思えないほどきつく厳しい色に一瞬怯む真斗を見て、彼女はまた意地悪に笑った。
「醜いでしょう?女の嫉妬です」
「……神宮寺のことが好きなんだな」
「ええ、大好きよ」
 だから分かっちゃったのよね、と彼女はいつの間にか他人行儀なものではなく砕けた口調で真斗に話しかけていた。ベンチから伸びる影は細く長く、遠くに沈む夕日は今日最後の輝きを放って二人の姿を赤く染めている。レンの事が大好きだと言った女性は夕日を背に立ち上がって、まっすぐに真斗を見下ろしながら凛と響く声を発した。
「大好きだから、レンには幸せになってほしいの。それが出来るのは少なくとも私や他の女の子達じゃないわ」
「……あいつは俺のことをそんな風には、思っていない」
「レンも大概不器用だけど貴方も同じみたいね、聖川さん」
 優しく微笑む彼女の瞳はどこか寂しげに揺らぐ。
「貴方はレンのことをそういう風に、思っているでしょう?」
 彼にはそれだけで十分なのよ、女性はそう呟くと長い髪を揺らめかせながら真斗の横をすり抜け、去っていった。残された真斗は言葉も見つからぬまま女性との会話を思い出す。そういう風に思っているでしょう、彼女は真斗の考えをまるで見透かしているようだった。レンと仲を違えたあの日、彼女が真斗を気にかけるレンに抱いたように、女性を優先させたレンに対して抱いた嫉妬。恋人同士でもないのに、そう告げられて受けた悲しみは紛れもなく真斗がレンを、想っているからで。
「……参ったな」
 女の勘は鋭いものだと聞いてはいたが、まさか一週間思い悩んでいたところへ追い討ちをかけられるとは。ベンチに大きく背を預けて見上げた空は星がはっきり輝くほどに暗くなっていた。あまり気が乗らないが、帰ろう。再び学生寮へ向かうと中庭ではちらほらと生徒達の姿が見え、楽しそうに肩を並べて談笑する人達がなんとなく真斗の目に付いた。思い起こせばこの学園に入ってからというもの、レンとあんな風に肩を並べたことはない。会話まではするようになったが、例えるなら那月と翔のようにべったりとくっついたり、音也とトキヤのように一定の距離を保ちながらも仲睦まじく向き合ったことなどなかった。音也達に言わせれば少し前の二人はいわゆる仲良しに見えたそうだが、それでも今はぎこちない関係だ。幼い頃、まだ何も知らなかった無邪気な二人はどうだったろうか。何をするにも今では考えられないほどにぴたりとくっついていたような気がする、それが当たり前だったのだ。体の関係を持つようになり以前よりコミュニケーションが増えても不自然にしか縮まらない距離、レンは真斗の事をどう思っているのか鈍感な彼にはどうにも上手く掴みきれなかった。
 それでも嫌われてはいない、自惚れがある。この一週間、一方的に避けていた真斗に対しレンの方から幾度か気にかけるような視線を向けられていることに気づいてはいたが、どうにもうまいきっかけが見つからずに日ばかり過ぎていた。そんなものだから今日だって重い空気になると分かっているが帰宅しないという訳にもいかず、重い足取りで寮の部屋へと辿りつく。ポケットから鍵を取り出し差し込もうとしたところで、わずかに早く内よりドアが開かれた。
「……え」
「おかえり、聖川」
 開いた先に居たのは見慣れた夕日色の髪をひとつにくくったレンだった。気まずそうに視線を逸らして、それでも出迎えた彼の姿に真斗は呆気にとられたようにその場へ立ち止まる。一度もされることのなかった出迎え、まるで待っていたような早さでドアを開いたレンの考えが真斗にはうまく読み取れない。思い出したようにただいまと返せばレンは少しだけ真斗を見やって、早く入りなよ、と踵を返す。後ろ手にドアを閉め、どうせ出かけるのだろうと思い鍵をかけずにいるとレンは、かけていいよ、と笑った。
「今日はちょっと、お前と話したいんだ」
 真斗が断らないと確信するように告げて、自分のスペースではなく真斗のスペースに置かれた二人掛けのソファに腰を下ろすレン。隣に座れと促すように玄関で立ち止まる真斗を見やるものだから、今日はやけに二人掛けの椅子と縁がある日だな、と真斗は少しだけおかしそうに笑ってレンの隣へ腰を下ろした。男二人が座るには狭いソファ、肩がつきそうなほどにぴたりと近い。レンは足を組むことも肘を掛けることもせず真っ直ぐに背を伸ばして真斗とは反対の方向をぼんやり見る。
「口、利いてくれないと思っていたよ」
「俺はそこまで子供じゃない、悪かった」
「いや、いい」
 躊躇うような間を置いて、一呼吸からレンは言葉を続ける。
「聖川に頼みがある」
「なんだ改まって」
「今夜、もう一度だけ抱いてくれないか」
「……なっ」
「それで俺達の関係を終わりにしてほしい」
 とても静かな一言だった。邪気も何もない穏やかな声音でそう呟いたレンに、真斗は答えを見つけられずにいた。ひどく不純で曖昧な二人の関係、ある日唐突に始まった割には長く続いていたように思う。初めて体を繋げた日、レンは今までにないくらい辛そうな瞳ばかりだった。最初から望んだものではなかった今の関係はそれでも真斗にとって大切なもので、不器用に紡いだ夜の隙間で真斗は何度レンの瞳を見つめただろうか。たよりない体を抱きしめる度に生まれる罪悪と僅かな情は確かな重みを伴って心を締め付けている。いつかは来ると分かっていた終わりの日、思っていたよりも早く訪れた。どうせなら自分の思いを自覚してしまう前に引導を渡されたかった、なんてしょぼくれた考えを巡らせながら真斗はぼそりと、分かった、と呟いた。
「……シャワー、浴びるか?」
「いや……このままで、いいだろ?」
 ようやく真斗の方を見やって熱を孕んだ視線を向けるレンの肩を無遠慮に掴む。引き寄せるように喉元をくすぐればレンはかすかに体をびくつかせ、遠慮がちに伸ばした指で真斗の頬をくすぐる様に滑らせた。吐息のかかる距離、一瞬のためらいを置いて自然と唇が触れ合う。一度離れてもう一度、軽い戯れから貪るようなそれへと変わる頃には真斗の瞳もすっかり熱に浮かされていた。
「神宮寺、こっち」
「えっ……」
 真斗の手がレンのたよりない手首を掴む。狭いソファ、押し倒したレンの上に乗りあげて真斗はじっと組み敷いた体を眺める。引き寄せた手首、浮き出る血管に舌を這わせればレンはくすぐったそうに息を呑んだ。ひくりと上下する喉元に唇を寄せて甘噛みするとその体は僅かにしなって、きつく吸い上げれば深い赤が色濃い素肌に浮かび上がった。それはまるで初めての日にレンの体につけられたあの痕と同じで、模倣するようにいくつもの痕をつける真斗の脳裏にはあの日のレンの姿が霞む。無理やりに組み敷いた彼は決して真斗を見ようともせず拒絶の声を上げていた、だが今目の前に居るのは自ら強請るように両手を伸ばして真斗の頭を抱えるレンの姿。夕日色の髪を散らばせて肢体を投げ出すレンの体からは強い雄の香りとかすかなフレグランスが漂う。女性の香りを一切纏わない、彼だけのもの。眩暈がしそうなほどの香りに包まれて真斗はただただ目の前の体を貪った。脱いだ服は投げ捨てられるように床へと散らばって、お互い一切の布も纏わなくなった頃にはレンの口からうわ言のように真斗の名だけが紡がれていた。
「聖川……ひじりかわ」
 確かめるように発せられる声を真斗は幾度も幾度も飲み込む。確かな優しさを伴った口付けをレンは享受し、けれどもどこか悲しそうな瞳ばかりを真斗に向ける。レンの一際弱い部分にそっと指を這わせ丁寧に愛撫し始めると、彼は焦るように真斗の手を掴んで、そんなのいいから、と余裕のない声でその先を急かした。
「いいって、まだきついだろう」
「それでもいい、痛くていいからお前の好きなようにしてくれ」
 縋るような声色、レンの意図が掴めない。仕方なく指を引き抜きまだ硬く閉ざされるそこへ熱を宛がえば、レンは息をつめて目蓋を下ろす。それでも幾度繋げたか知れない身体は順応に真斗を受け入れるよう開かれてゆく。半分も腰を進めた頃にはレンのそこは早くも快楽の色で溢れるように真斗へと吸い付いていた。初めて抱いた日とは大違いだ、懐かしむようにあの日のレンを思い出す。中のきつさは相変わらずだがよくしなる身体は時間をかけて少しずつ真斗に慣らされていった。真斗自身も勝手の分からなかった頃に比べ幾分か相手を気遣えるようになったし、なによりレンの身体をすっかり覚えてしまった。大事に抱いてやることは相変わらず出来ないけれどもせめて少しでも、優しくしてやりたい。ぎゅうと眼を瞑るレンの長い前髪を掻き揚げて、額にひとつ口付けを落とした。
「なに……」
「なんとなく、したかっただけだ。動くぞ」
 まだぎちぎちと悲鳴を上げるそこを容赦なく攻め立てる。自分から望んだくせに痛みを堪えるよう唇を噛み締めるレンがあまりにも脆くて、けれど一度始めてしまえばもう止められはしない。衝動のままに突き上げ、やがて導かれるようにレンの中へと欲を吐き出す。拒絶することもなく熱い猛りを受け止めて、ややあってからレンも自らの熱を真斗の手の中にぶちまけた。
 どこまでも本能的なセックスだった。それでも真斗はレンに優しくしたかった。不規則な呼吸を繰り返すレンの唇を指でなぞって、自らの唇を重ねる。甘く吸い付くように舌を絡めればレンも答えるように深く貪って、けれど唐突に真斗の胸を押しやって突き放した。
「……もう、いいから、こういうのは」
「いいって……」
「優しくしないでくれって言ってるんだよ」
 レンの声は震えていた。力の入らない身体を起こして、ぎらつく瞳で真斗を睨み上げる。
「これで俺達は終わりだ、前と同じ、素っ気無い関係に戻るだけだよ」
「……お前はそれでいいのか」
「ああ、それが俺達にとって自然なんだから。短い間だったけれど……っ」
 レンの言葉を遮るようにきつく真斗の手のひらが口を塞ぐ。これ以上レンの言葉を聞きたくなかった、一度は承諾した事なのに真斗にはちっとも諦めなどつきやしない。間違いから始まってしまった関係、それでも一度生まれた思いを今更なかった事になど出来なかった。短くも長い夜の隙間で、見つめるレンの視線の心地良さを真斗には手放すなんて考えられない。幼き日の暖かで自愛に満ちた視線とも自信に溢れる視線とも違う、時には憎悪を込め時には悲しみを湛え、けれどたった一瞬でもその瞳には真斗を求める情の念が込められていた。
 知っていた、それは一時のものだと。快楽と引き換えに与えられるものだとしても真斗にとってレンからのその視線は何よりも大切だった。一度違えてしまった互いの道を無理やりに交わらせて、勝手な想いばかりをぶつけて、寂しい心を紛らわせるために女性へと体を差し出すレンの弱さを利用して。間違いだらけの関係だと分かっていながらに断ち切れなかったのはただ単純に、レンの事が好きだから。何がきっかけだったのか、もしかすると幼きあの頃から続いた想いだったのかもしれないその淡い情。一方的に抱くばかりの思いだけれど、レンだって本当は同じような気持ちを抱いてくれたのではないかと真斗はただひたすらに信じたかった。
「再会したあの日、お前は俺のことなど微塵も気に掛けていなかった。それからの日々だってずっとお前は俺の方を見ることもなく、他の者ばかりを見ていた」
 それが腹立たしくて悲しかった。ぽつりと零す胸の内に、塞いだままのレンの唇が動く。そっと手を離せばレンはおよそ初めて耳にするだろう大きさで声を荒げた。
「っ……いつ俺が、お前を見てないって言った!初めに突き放したのはそっちじゃないか!」
「なっ……」
「昔はあんなにレンって呼んでいたくせに!なにが”神宮寺”だ、お前にだけはそんな風に呼ばれたくなかった……!」
 堰を切ったようにレンの瞳から大粒の涙が零れる。拭うこともせず流したまま、レンはぐっと真斗を睨み上げていた。強張った表情、この部屋で再会したあの日を思い返す。神宮寺、と呼んだあの時も確かにレンは、今と同じような表情を浮かべていた。真斗がレンの事を神宮寺家の名で初めて呼んだあの瞬間。互いの家柄を理解してからの、最初の一言。
「どうせお前も俺を神宮寺の人間として見ているんだろう?それとも何か、俺の身体を扱いやすくするために優しくするんだろう」
「っ……!」
 パンッ、と大きな音と共にレンの頬が赤く染まる。はっと見やった己の手のひらがひりりと痛むことに気づいて真斗はようやく、彼をはたいたのだと理解した。
「……すまない」
 真斗の下に横たわるレンは頬を押さえて、服の散らばった床を眺める。生々しいほどの情事の証、ほんの数分前まで身体を優しくなぞっていた手のひらがレンを責めた事実を、苦い表情で受け止めていた。
「分かっているよ、本当は聖川が俺をどんな風に思ってるかなんて」
「……」
「体だけを求められていると思っていたから今まで耐えてこられた、軽蔑するか?」
「……いや」
「今更誰かにただ愛されるだけだなんて、怖いんだよ」
 自嘲地味に笑うレンに真斗は目を見開いて、揺るやかに首を振る。愛されることに不器用な子供が初めての愛をどう受け止めるべきかと悩む姿は痛々しかった。夕刻に話した女性のように、レンに対し純粋な行為を抱く女性は今までにも居ただろう。けれどもレンは初めから女性との関係を肉体ありきで捉えていた、掛け違えたボタンはどこまで掛け続けても正しく嵌まることなど無い。
「……望み通り、俺とお前の関係は終わりにしよう」
 たっぷり間を置いて真斗は吐き出すように言葉を紡いだ。レンの上からそっと降りて、床に散らばった服を拾い上げると軽く畳んでレンに手渡す。受け取ったレンはけれどもシャワーを浴びにゆく気力も無く、重い足を立たせて冷たくなったシャツを羽織った。
「今まで楽しかったよ、それなりに」
 レンなりの別れの言葉だった。体中についた痕を覆い隠すように服を整えながら真斗に背を向ける、だが真斗は答える間もなくレンを背後から抱きしめた。
「ちょっ」
「終わらせるとは言ったが、別れるとは言っていない」
「……は?」
「付き合おう、レン。体の関係は無しに最初からちゃんとやり直したい」
「……お前、人の話聞いてたか?」
 夕日色の髪を掻き分け項に鼻先を寄せる真斗に、レンは思わずため息を漏らす。それでも抱きしめる両腕を振り解こうとはせずにじっと、背中から伝わる真斗の鼓動を聞いていた。
「誰だって初めてのことは怖いんだ……俺だって初めてお前を抱いた時は、怖かった」
「じゃあなんであんな事したのさ」
「それは……すまない」
「お前ってそればかりだな」
 たまらず笑うレンに真斗はつられてふふと声を漏らす。思わず振り返ると当然のように互いの視線がかち合って、本当に今更ながらレンは気恥ずかしさに襲われる。真斗は項に唇を寄せて、ちゅ、と軽く吸い上げた。それなりに鍛えられた体、この程度では痕がつかない。それでも熱が集まってゆくのを感じてレンは居心地が悪そうに頬を赤らめふと、先ほどの真斗の言葉を思い出す。あまりにも自然に彼の口から飛び出した言葉、見落としがちだった懐かしい響き。
「……お前さっき、レン、って」
「神宮寺の名で呼ばれたくないと、そう言ったのは自分だろう」
 かつては兄と弟ほどの差があった身長も、今ではどちらが年上か分からないほどに大差ない。思い出の中では小さく可愛らしい姿をしていた筈の人物がまるで別人のような顔で笑うのを、レンは複雑な、けれどくすぐったい気持ちで眺める。ぎゅうと抱きしめる両腕をそっと押しやって、思い出の中とは随分変わってしまった男の姿を眺めるようにレンは向き合った。それは真斗にとっても同じで、手を伸ばしても追いかけても届かないと思っていた筈の男を変わらぬ高さの目線でじっと見つめる。
「……そういえば、さ」
「なんだ?」
 繋ぎ合った手はどちらも細く華奢で、けれど立派に大きい。もう子供の頃とは違うその感触、けれども伝わる温もりはいつだって変わらず心地良かった。
「俺ってあの頃、真斗のこと好きだったよ」

 ”それを気づかぬ振りしているから”
 ”きっと自覚なんてないでしょうけれど”

 遠回りばかりの気持ちを自覚するように、レンは赤い顔で笑う。つられるように真斗も耳まで赤く染めて、もう何度目か分からない口付けを、やわらかに交わした。


END.









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