スキャンダラスにすらなれない(龍レン)




最初に見たのは紙の上、入学願書に添付されていた写真だった。
大人びた顔立ちに反してやけに幼く感じる目元が、なんとなく、印象に残った。
だから受け持つ生徒達の中にその姿を見つけた時は驚いたし、少し嬉しくもあった。
大財閥の御曹司で華やかな容姿の三男坊、学園に来る前は色恋沙汰で多少の問題を起こしていたようだがここは全寮制だ、厳しい規律の中で改善されるだろうと思っていた。
甘い認識だと気付くまでにそう時間はかからなかったが。
学園内外問わず女を作っていた奴は、無事卒業して飛び込んだ芸能界でも相変わらずだった。
かつての教え子の姿を雑誌、それも三流ゴシップ誌の記事で目にする元担任の気持ちを誰かこの男に懇切丁寧に教え込んではくれないか。

「プロモーションの一環だよ、リューヤさんなら分かるだろう?」
「分かるか、こんなだらしない生活を送ったためしがないからな」

記事の中と同じポーズでソファに寝転がるのは神宮寺レン、大人びた容姿と色気を売りとしたアイドル。
そう、アイドルなんだ。だというのにこいつはスキャンダルが絶えない。
しかも本人はそれが当たり前かのように振る舞い、また世間も「今度の相手はどの女優だろうか」と報道を楽しんでいる。
今俺の前に広がる記事もまた「神宮寺レン、今度の相手は若手女優○○!」と大きな見出しで煽っている。その隣にはご丁寧にカラー写真でソファに寝転がる神宮寺と、馬乗りで密着する若手女優の姿。
確か次のドラマで共演予定の相手だったか、放送前の番組宣伝に出ない代わりにこいつは度々こうして共演相手とのスキャンダルを記事に書かせて世間の注目を集める。
これでよく謹慎処分にならないものだ、と最近では呆れるばかりだが。
正直言って、気に食わない。
ぐしゃ、と乱雑に閉じた雑誌を放り投げれば神宮寺はくすくすと声を上げる。

「あれ、リューヤさんどうかした?もしかして嫉妬してくれたのかな?」
「自覚があるなら今後はやめろ」
「……認めるなんて、驚いた」

目尻の垂れた目を大きく見開いて、珍しいものでも眺めるように俺へ視線を向ける神宮寺。
確かに驚くだろうな、なにせ彼が作ってきたスキャンダル以上の関係を持っていながら今まで認めようとしてこなかった俺だ。

「まだ続いてるのか」
「……あと一月で、撮影が終わるから」
「そうか」

話は大抵ここで終わる。
必要以上の干渉をし合わない、後腐れのない間柄。だからこそ神宮寺と関係を持ってもう何年も続けてこれたのかもしれない。
ソファから身を起こした神宮寺は、床に放られた雑誌を手にとってぱらぱらと眺める。読む気は一切ないらしく適当なページで手を止めては一瞥しただけで捲り、また止めてを繰り返した。
その隣に腰を下ろす。大の男二人が掛けるには小さいソファがまるでベッドのような音を立てて軋み、少しだけいやらしい気持ちが浮かんだ。

「どうせなら次は、リューヤさんとのスキャンダルでも起こそうかな」

ぼんやりとコラムページに目を落としながら呟く神宮寺。
何を考えているのかさっぱり分からないし、分かろうともしない。ただひとつ言えることは、彼が茶化して口にする言葉というのはどこかに本音が混じっている、ということ。
肩を抱き寄せれば密着した体からは男性物のオーデコロンが香った。
あまり好きではない匂いに顔をしかめると、それに気付いた神宮寺が小さく笑う。

「嘘だよ、記事なんて書かれたらその後は持って二月が限度だからね」
「続けようって努力は無しか」
「無いに決まってるよ、スキャンダルはあくまでもプロモーションの一環だってば」

弄ばれてきた数々の女が聞いたら悲鳴を上げそうな言葉だった。
彼女達を選ぶ理由はいつだってそこに利害があるからだ、と笑う神宮寺。それは遠まわしに、俺だけを特別に見ている証だった。
だからと言って、何がどう変わるでもない。

「……プロモーションならもうちっとは上手くやれ」
「考えておくよ」

やめる、とは決して言わない神宮寺。
俺を特別に見ていながら、誰のものにもなろうとしない生き方がどこか気に食わなくて、けれど彼らしい。
だから俺もこいつとの関係に深い意味を持たせない。
互いに特別だとは思っても、唯一だと認めてしまったらもう戻れない、そんな気がしている。
神宮寺の手から雑誌を取り上げると、なにするんだい、とさして怒った様子も無く形ばかりの咎める声。重なるようにソファへと押し倒せば見上げる二つの瞳が柔らかく揺れた。

「……神宮寺」
「ん?」
「次は三流ゴシップ誌じゃなく、もう少しまともな雑誌に撮られてこい」
「……ああ、そうするよ」

初めて見た写真の時より随分大人びた表情で笑って、けれど目元は相変わらず幼さを感じさせる。
急にこみ上げてくるのはたまらない気持ちばかりで、神宮寺の方もそれを促すように長い両手を首筋に絡め俺を引き寄せ、下唇を舐めた。
下世話なゴシップ記事に写る女達よりも淫靡で、さっきまでは鼻につく匂いだったオーデコロンさえ情欲を掻き立てる。
大きく開いた胸元に噛み付けば神宮寺は、痕は残さないでね、とどこか嬉しそうに笑む。そのくせ明日になればどこかの女に俺がやっているような事を、するんだろう。
誰にも知られない、自分さえ認めない関係をせめて今だけは肯定するように、薄く開いた唇をきつく奪った。



END.









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